第4話 もう絶対女装しない!

「もう絶対女装しない!」


「そんなこと言わないでくれ七海! 俺たちはこの日のために学校にきてるんだ! なあ、そうだろみんな!!」

 山田は言った。

 

「ああ、その通りだ!」と他の班員が口をそろえる。

 

 五人の女装した男子にトイレで囲まれる絵面は、まさに地獄である。


「なんでオレがお前らの欲求を満たすために女装しなきゃいけなんだよ! お前らみんな変態だ!」


「……変態だと? それは違うぞ、七海……」


 ドンキのセーラー服を着た山田は仁王立ちでオレの前に立ち、ウィッグが掛かるオレの肩に触れた。


「七海、お前は自分が女装したその姿を見たことがあるのか?」


「そ、そんなもん見たくないから見てない……」

 オレは顔をそむける。


「今の自分の姿を……、女装した自分を鏡で見た後でも同じことが言えるか?」


「い、言えるに……き、決まってるだろ……」


 オレは山田の迫力に言いよどんだ。


「なら今すぐ鏡を見ろ! それでもまだ俺たちのことを変態だとののしりたいなら罵るがいいさ!」


 それ以上、山田は何も言わなかった。

 ごくり、とオレの喉が鳴る。


 トイレの鏡の前に立ったオレは静かに閉じていた目を開く。

 鏡に映った自分を見た瞬間、アホみたいに口を開いた自分の姿が写った。


 自分の顔を直視していられず俺は目を背ける。心臓がバクバクと鼓動している。顔が火照るように熱くなっていく。


 キュっと口を結び、少しうつむきながらオレはセーラー服の胸元を抑えて「た……、たまにだけだからな……」と言った。


「「「お……、おおッ!? ナ・ナ・ミ! ナ・ナ・ミ!! ナ・ナ・ミ!! フゥーッ!!!」」」


 その日、二階の男子トイレは歓喜に満ちた歓声と七海コールが沸き上がったのだった。




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