第33話
自室に戻って、布団に横になる。
その頃にはもう今日の幸せだった時間は完全に過去になっていて私の中では恐怖が気持ちを支配していた。
これから先私はどうなっていくんだろう。
私も普通の高校生として過ごしたかった。もっと遊んでテスト前には今日みたいに友達と勉強して、進学校らしくみんなと一緒に進路について悩みたかった。
それなのに毎日のようにバイトして、それでもたった一日幸せな思いをしただけであんな事を言われる。
言った本人は次の日になれば言ったことも忘れてるかもしれない。
でも言われた私は気にしながら過ごさなきゃいけないのが理不尽だ。
定期試験の最終日、学校が早く終わった日に和馬も連れて3人でカフェに行くことになった。
今日は和馬もいて純粋に友達とどこかへ行ける事が嬉しくてウキウキしながらカフェへ向かう。
こないだと同じ席に案内されて最初は和馬の部活の話で盛り上がる。
7月から大会が始まると聞いて私はすぐに張り切って言った。
「応援に行こう!」
しずくも賛同してくれて一緒に応援に行けることが決まった。
嬉しい。またしずくと一緒にどこかへ行ける。
それからもテストの出来の話やクラスの話題で盛り上がって、先日父から言われたことも忘れるくらいに幸せな時間がまた広がっていた。
「久しぶりに友達と仲良く過ごせてて楽しい!」思わず口にした事に2人は少し笑いを浮かべている。
心の底から出た言葉だった。やっぱり2人のことが好きだし3人でいる時間は楽しかった。
すると去年友達と喧嘩した事について和馬が聞く。
「いや毎日私コンビニ弁当食べてるじゃん?それとか服装見て貧乏なんじゃないかとか、虐待受けてるんじゃないかって言ってきたの!悪気なくふざけて言ってただけだと思うけど、怒っちゃってさー」
本当の事を私は伝えた。
和馬すぐにそれは怒るよと言ってくれて少し安心したけど、言われた事が事実だからとは言う事ができなかった。
言ったら2人との関係が壊れてしまうかもしれない。急に気を遣われて今までのように楽しく過ごすことは出来なくなっちゃうかもしれない。そう思うと口にする事ができなかった。
私は虐待を受けているってわかっていても認めたくなかった。
側から見れば明らかに虐待だったかもしれない。でもそれを認めたら私という存在までも否定してしまう気がして認めちゃいけないと心のどこかでいつも思う。
「ほら私、勝手にあれこれ言われて楽しい事とか幸せな事を壊されたり、傷を抉られたりそういうのが許せないんだって言ったじゃん。それが悪い形で出ちゃってさー。でも今が楽しいからいいんだけどね!」
これも本当の事だった。あの時だって私のもう一つ生活を勝手に探られて私の気持ちも知らずに勝手に知ったような気でいられる。
私のこと考えてるようで私の気持ちまでは考えてないから知らずに私の傷を深く抉られた気がした。私も人の事は言えないくらいなんでも口に出しちゃうかもしれないけどなるべく人の知られたくない事、その人に踏み込む事は安易に口にしないようにしてる。
だからこそあの時はショックだったし、これからこの子達とは今までのようには過ごせないんだなって思った。
そんなやりとりをしてるうちに日も暮れて今日もそれぞれが帰路に着く。
今日実はひっそりと、でも私の中では大ニュースな出来事があった。
初めてしずくって呼ぶ事ができた。そしたらしずくも私のこと優香って呼んでくれたし凄く距離が縮まった気がして嬉しかった。
しずくが大した意味もなく呼んでくれてたとしても、それでも私は良かったし私の中での宝物の様な1日になった。
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