城門前での押し問答1
「ふ~~ん。王国で商人やってるいいとこの坊ちゃん嬢ちゃんってところかねぇ」
胡散臭げに俺たちが提示した身分証を眺める衛兵。
口髭を生やしたいかにも人相の悪い男だった。
俺たちが到着したこの宿場砦は普通の城塞都市のように周りが城壁に囲まれ、街道に面した一角に大きな城門が作られていた。
そこに二人の衛兵が立ち、砦を利用する者たちの検閲を行っていた。
この時間帯はこの砦を利用する者たちも多いらしく、既に結構な時間待たされていた。
「まぁ、身分証は本物みたいだから特に問題はないだろうが」
そう言って、衛兵の一人が俺たちを値踏みするように眺めてくる。
「金持ちなら金持ちらしく、普通に行商だけやってればいいものを。よりによってハンター登録までするたぁな。しかも、子供やメイドまで連れてるとか」
そう言ってもう一人の男とニヤニヤする。
「だな。所詮、金持ちの道楽って奴か」
二人してゲラゲラ笑い始める門衛。
俺はそんな彼らの声を聞きながら、内心ヒヤヒヤしていた。
無論、こんな偉そうな態度取っている連中に腹が立たないわけではないが、それ以上に気になったのはイリスである。
あいつ、俺がバカにされてるの見ると、すぐに激怒するからな。
女神洗礼のときや弾劾裁判のとき、よく理性を保っていたものだと今更ながらに感心してしまった。
まぁ、それだけ、今回の計画にすべてを賭けてたってことなんだろうけど。
「まぁいい。とにかく中へ入れ」
さんざかバカにして満足したのか、門を塞ぐようにしていた衛兵二人が道を空けてくれる。
俺は密かに胸を撫で下ろしながら、戻された身分証明書を受け取り、
「あ、それから俺たち、幻魔を連れているのですが、腕輪の認証もお願いできますか?」
そう愛想よく告げたのだが、口髭の衛兵が再び眉間に皺を寄せた。
「幻魔だと?」
「はい。普通の幻魔なのですが、腕輪がつけられない個体なのでペンダント状にしているんですよ」
そう言って、荷台に控えていたイリスからペンダントを受け取って衛兵に見せようとしたのだが――
「腕輪をつけられないだと? おい、お前! ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!?」
急に態度が豹変して声を荒らげる髭。
予想通りなのか、予想外なのか、いきなり雲行きが怪しくなってしまった。
「えっと……。何か不都合なことでもありましたか?」
「あるに決まっているだろう! 貴様、よくもまぁ抜け抜けと、そんなでたらめ言えたもんだな!」
「え? でたらめとはどういうことでしょうか?」
「しらばっくれるんじゃない! 別に幻魔を連れていることについては咎めたりなどせん。お前らの年齢であれば、普通に幻魔契約している連中もいるからな。だがな、契約の腕輪をつけられない個体がいるなどという話、聞いたこともないぞ!? しかも 腕輪をつけてないということは、ちゃんと契約の儀が行われていない証拠だ!」
そこまで一気に喋ってはっとしたような顔となる。
「まさか、お前ら……!? さては幻魔契約しているなどと適当なこと言って、砦の中に調教してない凶悪な幻魔どもを連れ込んで騒ぎを起こす気だな、この悪党どもメが! もう一度検閲させろ!」
陰険そうな口髭はそう怒声を上げるや否や、他の兵ら五、六人を呼び集めて一斉に俺たちの馬車を取り囲んでしまった。
「これは……」
予想外に大事になってしまい、俺は困惑してしまった。
本来であれば、幻魔を連れているからといって大事になることはない。
先刻、髭が言った通り、旅人や行商の中には幻魔契約している者たちも大勢いるからだ。
だから別段、幻魔を連れていたとしても珍しいことではないので、取り立てて騒がれることもないのだが。
――まぁ、俺たちのように腕輪をペンダントにしてる奴らなんかいないから、そこを突っ込まれる恐れはあったけど、それでも大抵は門前払いになる程度で、捕り物沙汰となることなんてないんだけどな。
それなのにここまで騒がれるとは。
やはり、クズはクズということか。
俺は次第に包囲網がしかれていくさまを一瞥しながら、エルレオネを見た。
彼女は小さく溜息を吐いている。
「やはり、こうなってしまいましたか。この砦に詰める者たちは以前から問題行動が目立つと報告が上がっていましたから、なんとなく予測はできていましたが。これでは説得どころではありませんね――ともかく、一応、手筈通りにお願いします」
「わかった」
小声で告げてくるエルレオネに俺は頷き、ダメ元で打ち合わせ通り、ペンダントとぽこちゃんの顔の部分だけを衛兵に見せて納得してもらおうと、荷台にいるイリスを振り返ろうとしたのだが、それより早く、門衛が口を開いていた。
「おい! 何をコソコソしている! お前らが凶悪な魔獣の類いをどこかに隠し持っているのはわかっているのだ! 観念して速やかに縛につけ! さもなければ貴様らが道楽ハンターを偽り、この砦を襲撃しようとしていた賊として、今すぐ斬り伏せるぞ!」
勝ち誇ったように宣言する髭。
――おいおい。
俺は思わず呆れてしまった。
――あの野郎、徹底的に俺たちを悪者扱いする気だな。
いかにも三下の考えそうなことだった。
大方、あくどい連中を退治してやったと上に報告して点数稼ぎでもするつもりなんだろうけど。
――まったく、ホント嫌だよねぇ、こういう手合い。ていうかその前に、道楽ハンターってなんだ?
アホなことばかり言っている衛兵に一人呆れていたら、俺たちの後方で検閲待ちしていた旅人が騒然とし始めた。
更に、砦の中からも騒ぎを聞きつけてわんさかと武装した兵が飛び出してきた。
その数ざっと二十名ほどか。
「これは……さすがにまずいな。正直に話すしかないのか?」
そんなことを思いながら、もう一度荷台を見たら、口元に笑みを浮かべたイリスが御者台へと顔を覗かせてきた。
しかも、その手にはフードの中に隠していたはずのぽこちゃんまで乗っていた。
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