兄との確執、始まる審判のとき2




「ぐっ……」



 女神スキル『黄金の竜騎士』という竜騎士の家系に相応しい最高のスキルを習得している兄貴の蹴りはとてつもなく重かった。


 戦闘系女神スキルの場合、習得しただけで身体能力が強化される強化スキルが発動されている。

 兄貴のスキルも例外なく、その部類の一つだった。


 俺はスキルの恩恵を受けた兄貴の攻撃に、思わず立っていられなくなり片膝つく。

 それに気をよくしたのか、グラークは下卑た笑い声を上げた。



「ざまぁねぇなぁっ。なんでてめぇみてぇな奴が守護竜ジークリンデに選ばれたのかまったくわからんわっ。竜騎士の名門である我がラーデンハイドの名を汚しやがって! 何が岩石創造だよっ。てんで笑えねぇわっ」



 二年前のあの日以来、俺に対する兄貴の嫌がらせは日に日にエスカレートしていった。


 俺は特異な立ち位置の使用人だったから屋敷内で直接顔を合わせることはなかったが、兄貴は何かにつけて使用人の待機場所やここへとやってきては難癖つけてきた。


 罵詈雑言だけですむときもあれば、今みたいに手を出してくるときもあった。

 おそらく、俺のところにちゃんと給金が入ってこないのは裏で兄貴が手を回しているからなのだろう。


 食事に関しても、普通の使用人だったらもう少しまともなものが与えられるはずなのだが、俺の食事だけ、なぜかスープに肉がほとんど入っていないものが用意されているときがあった。パンだって干からびたものを食べさせられることも多々あった。


 おそらくそれも、兄貴が裏で手を回しているんだと思う。

 本来であれば、そのような事態が起こらないようにと、親父か親父の手の者が監視しているはずなのだが、それすらかいくぐって嫌がらせしてきている。


 それだけ、俺は兄貴に目の敵にされているということだ。

 ひょっとしたら、親父は敢えて見て見ぬ振りをしているのかもしれないけどな。


 いくら兄貴があくどいことを考えていたとしても、毎日のように宮廷内で敵対派閥とやり合っているようなあの親父が見抜けないはずがないからだ。

 そうやって考えるとやはり、これにも何か裏がるのかもしれないが。



「グラーク兄さん! そこまでにしなよっ」



 兄貴が俺の頭に平手打ちをしようとしたところで、弟のクラウスが走ってきた。

 弟も今は十五歳。あと数ヶ月も経てば、洗礼の儀を経て晴れて大人の仲間入りとなる。


 二年前はまだ幼いところが残っていたが、今ではすっかりと逞しくなっていた。


 赤髪碧眼の中々のイケメン。

 そんな弟が俺のために兄貴に喧嘩を売ってくれている。本当にいい弟を持ったものだ。



「兄さんはやり過ぎなんだよっ。いつもいつもっ」

「あぁ!? うるせぇんだよっ。てめぇは引っ込んでろっ」

「そうはいくかよっ。これ以上フレッド兄さんを罵倒することは許されない! 使用人だからって、暴行することは固く禁じられているはずだ!」


「うるせぇっつってんだろうがっ。ぐだぐだ抜かしてんじゃねぇ! こんな奴はもはや使用人でもなんでもねぇ。ただの犯罪者だ! そんな奴、殺したって罪にはならねぇだろうがっ」

「なるに決まってるだろう! それに、フレッド兄さんには城から呼び出しがかかってるんだからなっ」

「あ――?」



 顔を真っ赤に染め上げたクラウスの言葉に、グラークがぽかんとした。

 俺はそんな二人を尻目に『遂に来たか』と、溜息を吐きながら立ち上がった。

 幼い頃に見たあの夢が事実であるならば、おそらくこの呼び出しは俺を追放へと追い込むための弾劾裁判か何かだろう。



「クラウス」

「うん?」



 俺は胡散臭そうに顔を歪めているグラークを無視し、弟の肩に手を置いた。



「例のもの、頼んだぞ?」

「え? あ、うん……だけど……」



 俺はこの日のために一つの策を弄していた。



「なぁに。心配するな。きっとうまくいくさ」



 ――そう。



 きっとうまくいく。いかなければ困る。さもなければ、俺に未来はない。


 必死で変えようと思ったけど変えられなかった未来。

 それでも最大限努力し、がんばってきたのだ。

 自分が幸せになれるように。

 そして、世界が滅びないようにするために。


 俺は兄弟たちに手を振って別れを告げると、屋敷の外で待っていた衛兵に後ろ手縛られ、登城した。

 そしてそのまま謁見の間に通され、玉座に足を組んで座っていた幼馴染であり女王でもあるイリスレーネの前へ突き出された。

 衛兵に抑え込まれ、無理やり両膝を床につくような格好となった。

 もはや正真正銘の犯罪者だった。



「面を上げよ」



 凜とした甲高い声が辺りに響く。幼い頃からよく聞き知っている彼女の声。

 俺は顔を上げた。


 玉座に座る豪奢なドレスを身にまとった銀髪の少女は――無表情で冷淡さすら感じさせる眼差しを俺に向けてくるだけだった。

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