第11話

 城のなかをケルスとモニカは探索である。


「カワイイ」

「そのわんこさんは、モニカさまのお友だちですか?」

「あらあら。良い乗り物を見付けましたね。お馬さんの練習ですか?」


 城のなかへゴー! と、いわれた時には、さすがのケルスも首をすくめたものである。

 ところが、行きかうメイド、使用人たち、誰もが微笑ましく見送るだけ。

 モニカへの溺愛ぶりも分かろうもの。

 疑うよりも「モニカなら迷い犬も手なずけられる」とでも思っているのだろう。


「モニカ、それ、どうしたの?」

「それって?」

「あんたが乗っているのよ」

「ケルスでつ!」

「ケルスっていうんだ、そのおっきなわんこ」

「あい!」


 姉のリジェル姫である。

 公務の合間に、モニカとケルスとすれ違う。


「新しいお友だち?」

「あい! ケルスはモニカのお友だちでつ!」

「そう。よかったね」


 モニカ、きょろきょろ。


「にいたまは?」

「あー……。大事な用事、かな?」


 明日のモニカの誕生パーティーでサプライズ、その仕込みにヘイエルは公務そっちのけで忙しい。そばにいてあげることが幼い妹には一番喜ばれることなのに。溺愛の向きを間違っている兄には、リジェルも苦笑いなのである。


「ケルスをにいたまに見てもらいたかったのでつが……」

「そうなの? 仕方ない兄さまね」

「さがしてきまつ! にいたま、ケルスのこと、気にしてまちた」

「それはまあ、やめとこ」


 内緒で驚かせたい兄心。それは汲んであげようと。


「じゃ、もう! 明日のパーチーでお見せしまつ!」

「それもダメ」

「あれもダメ、これもダメ! ダメダメはいやでつ!!」

来賓らいひんも多いなかにわんこはちょっとねえ……」

「うぅ……」

「兄さまにはそのうち、ね」

「にいたま、また行ってしまいまつ」

「寂しいんだよね、モニカは」


 しゃがんで目線を同じにして、モニカの頭を撫でるリジェル。その姿は姉よりもどこか、母のいつくしみを思わせる。リジェルも18最。10以上も年の離れた妹に対しては、時にそんな目線にもなるのだろう。

 しかし、ケルスのほうを見た時には……。


「じゃあねん。わたし、まだ仕事だから。明日は楽しみましょうね」


 ケルス、身震いである。

 おかしくてたまらない、笑いをこらえていられない、そんなリジェルの去り際の態度だったのである。


「ケルス、どうちまちた?」

「なんもあらへん。で、これからどうするんや?」

「うーん……」


 モニカ、考える。次の遊びを。

 ケルスの垂れた耳に口を近づけ、ひそひそと……。


「プレゼント、なにがあるか見にいくのでつ」

「オイオイ。楽しみは明日にとっておくもんとちゃうんかい」

「待てないのでつ!」

「こらえ性のない姫さんやなあ」

「コショウなんていらいないのでつ! モニカ、もう待てないのでつ!」

「いやいや、あかんがな……」


 ケルスが止めるのも聞かず、すでにモニカは次のターゲットを定めて鼻息が荒い。


「たからさがしなのでつ!!」

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