復讐の果て
それは遠い、遠い昔のお話でした。
大きな大陸の西の端に王国がありました。その国は黄金のような小麦畑が国いっぱいに広がり、そしていろんな土地から大勢の人が集まってたいそう賑やかでした。
平和が続いた後、その国の王様が死にました。
すると2人の男が自分が王様になるんだといって王国は2つにわかれました。
その国には2つの種族が暮らしていました。それは人間と、姿かたちは人間に似ていますが角が生えている魔族という人々でした。
人間と魔族はそれぞれ王様を立てて争いました。
魔法といわれる力がありました。炎や水を操る力を持つ人々はそれを本当は様々な生活と平和に対して使っていたはずでしたが、この時に戦いに使ってしまいました。魔法だけではなく大勢の人が手に武器をとって戦いました。
戦いは続き、豊かだった大地は炎に焼かれました。あの小麦畑に火が放たれて炎がだんだんと広がって、夜が明るくなるほどに炎がすべてを焼きました。
そのうち人々はどうであれ戦いが終わることを望み始めましたが、戦いは終わりませんでした。
その時にとある人間の若者が剣を手に立ち上がりました。彼は多くの戦場で敵を倒して、英雄として名を馳せました。彼はいつしか勇者と呼ばれるようになりました。
若者の名をロムルスといいました。
そして彼は魔王のいる城に乗り込み、剣を振るい戦いました。すべては平和のためでした。
その果てに彼は魔族の王をその城で討ち取ったのです。魔王と呼ばれる男は大きな体をしていて魔法を自由に使役することのできました。しかし永い死闘の末に魔王は勇者の剣に倒されたのでした。
戦いの終わった後、
崩れた玉座。壊れた天井から月の光が差し込んでいました。
勇者は立ちすくんでいました。
視線の先には魔王と呼ばれていたもののそばで泣いている小さな女の子がいました。金髪のかわいらしい子でしたが頭に2つの角がありました。「お父さん、お父さん」とその幼い彼女は泣いていました。
若者は血の付いた剣を握りしめて、それを見ていました。
しばらくすると少女は立ち上がり、勇者を睨みつけて、そばに落ちていた魔王の剣を握ると彼に向けて構えました。その目は憎しみに満ちていました。
ロムルスは剣を振るい、彼女の手から武器を叩き落としました。それでも少女の目からは憎しみは消えませんでした。だから勇者は彼女に剣先を向けて言いました。
「僕を殺したければついてこい」
☆
2人の旅人がいました。
1人はロムルスでした。もう1人はフードを深くかぶった小さな女の子です。彼女は剣を背負っています、それは父親の形見でした。
ロムルスは歩いていきます。少女はそれに必死についていきました。
山を越えて、川を渡って二人は歩いていきます。
一日の終わりには必ずロムルスと少女は剣を使って戦いました。少女は全力で打ち込みますがロムルスはそれを打ち払い、切り上げ、はたき落とします。何度やっても少女は勝てません。
ロムルスは泣く少女に必ず言いました。
「忘れるな。お前の父を殺したのはこの僕だ」
そうすると少女は歯を食いしばって向かってきました。
そうやって日々が過ぎていき。旅は続いていきます。
ロムルスは少女にあらゆることを教えました。それは他愛のないことでした。
食事の作り方……川での洗濯のやり方。街でのお金の使い方などでした。少女はロムルスに教わることを嫌がりましたがこういわれました。
「お前は僕に甘えたいのか?」
やってほしいのかと続けて言われて少女は彼を睨みましたが、それで自分のことは自分でやることを覚えていきました。
その中で剣の腕はめきめきと上達していきます。ロムルスと毎日のように剣を交えるうちに彼の動きをだんだんとその小さな体に吸収していきました。いや……少女の体は実際に成長していっていました。
夏が過ぎ、秋が終わり、冬が来ます。その輪廻のような中を二人は歩きました。
多くの国に行きました。魔族の少女を迫害する国もありましたが、水のきれいな山野を歩き、人の多くいる商業の発達した都市に行き。そして誰もいない崩れた廃墟で2人は火を囲みました。
とある日。
少女は熱を出してしまいました。ロムルスにばれないようにと必死に歩いていましたがとうとう倒れてしまいました。
もうろうとする意識の中で彼女は夢を見ました。
優しかった父親の顔を夢に見ました。
魔王と言われても、恐れられても自分には大切な家族だったのです。
その夢の中の父親は寂しそうな顔で立ち上がるとだんだんと離れていきます。
少女は手を伸ばしますが、もうそこには届きません。
目を覚ますとベッドの上でした。
彼女は涙をいつの間にか流していました。そしてそばには父親を殺した男が座っていました。外は夜のようでした。どこかの宿屋でしょうか。ここまで彼が運んできてくれたのでしょう。彼女の心の中でいろんなものがせめぎあい、口を開きます。
ただ――少女はロムルスに何か言いかけてやめました。
数日たってまた旅は続きます。
とある火山の近い大きな街で、ロムルスは少女のために父親の剣を鍛冶屋に打ち直してもらいました。
炎の魔力を宿した、美しい鉱石を使い彼女の剣は黒い刃に赤い炎のような文様の浮かぶ剣になりました。
その時少女の体は少し大きくなっていました。流れるような金髪に体つきは引き締まっていますが魔力を宿した力は日々強くなっていきます。彼女はマントを羽織って普段は黒い二つの角を隠しています。
生まれ変わった剣を見ながら少女は……いえもう名前で言うべきでしょう。彼女はアンバーという名前でした。……彼女は困惑していました。父親の剣が生まれ変わったことにロムルスが何を考えているのかわかりませんでした。
とある夜、彼女はロムルスに聞いてみました。
なぜ自分と旅をしているのかと、そう聞きました。
彼は彼女をじっと見て何も言いませんでした。アンバーは怒り、彼に詰め寄りましたが急にロムルスはせき込みました。そして赤い血を吐きました。
アンバーは立ち尽くしました。復讐の相手が目の前でいきなり血を吐いたことに彼女の口から出た言葉は一つでした。
「大丈夫……? なんで」
それからはっとして自分の言葉を隠すように口元を手で覆いました。ロムルスはさらにせき込み、その場に倒れました。
アンバーは近くの村に助けを求めて、ロムルスがなんとか休むことのできる場所を見つけました。彼は苦しそうでしたが意識ははっきりしていました。
彼の体を過去に殺した魔王の呪いが蝕んでいました。彼の恨みと血を浴びたロムルスは少しづつ死に向かっていました。ただアンバーには気づかれないようにしました。
ロムルスはそれをアンバーに伝えました。
おそらく自分の死はそう遠くないこと。
そして、彼は言いました。
彼の故郷は魔王に焼かれていました。家族も友人も殺されて、そして剣をとって戦いました。
それは復讐のためです。
彼は憎しみを糧に魔王を打倒しました。
そしてその死のそばで、アンバーが泣いていました。
血まみれの自分を見て
魔王と
自分が
同じことをして
同じ苦しみを
その娘であるアンバーに与えてしまった。
自分の復讐が何の罪もない少女に襲い掛かったと
ロムルスは思いました。
だから、アンバーにできるだけ
生きるすべてを与えて
そのあとに自分は復讐を受ける。
それが自分が旅をした理由。
……復讐の果て。
……自分で復讐の連鎖を終わらせるため。
――彼はそれを語り終えるとアンバーに言いました。
「僕はこのまま数日苦しんで死ぬ。だから、もう行くんだ。君の復讐はもう終わった」
アンバーはいつの間にか泣いていました。次にいうべき言葉がわかりませんでした。
だけど彼女は1つの言葉を口にしました。
「剣を、最後に」
☆
朝日のきれいな日でした。
とある丘の上で2人の旅人が剣を手に向かい合っていました。
アンバーとロムルスでした。
2人は剣の先を交わします。
切っ先が触れて、きん……と小さな音が鳴りました。
アンバーが踏み込みました。2人の剣は踊るように交差しました。
ただロムルスが態勢を崩して、そこにアンバーが突き入れました。ロムルスの心臓を彼女の剣が刺しました。苦しみのないように。
彼の手から剣が落ち、何かを言います。アンバーはその声を聞きました。
「……食事は、ちゃんと……とりなさい」
……アンバーは頷きました。
「夜は……暖かくして…寝なさい……」
涙が流れて視界を染めました。それでもアンバーは言いました。
「心配しないで……大丈夫だから」
それを聞いてロムルスは安心して。
眠りにつきました。
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