レディガールズ〜できればかわいい戦士に生まれ変わりたかった!

かーいー

プロローグ

ーー二〇一四年ーー


「ひとつ話をしよう」


 それは身体が小さいが故に余白を作りながら座布団に座る四歳の姪っ子に対して放った言葉で、姪っ子も興味ありげに「うん!」と返事をした。


 この時点で何の話をするのか分かっているのだろう、姪っ子は満面の笑みである。いや、姪っ子との会話のほとんどがこれだよな。


「そうだな…初代レディガールズは知ってるかな?」


 やはりこれだ、女の子が興味あるであろう女児向けヒーローアニメの話題だ。幸い俺は十年前の放送開始時からこの『レディガールズ』なるものにハマり欠かさず見てきた。だから知識はそこらのレディガールズ好きに劣らない自信がある。


 まあ簡単に説明したら、未成年の少女たちが世界の平和、はたまた妖精界を守るといったアニメでしかありえない物語、それがレディーガールズだ。子供に世界の平和を託すのは少し無理があるが、可愛い彼女たちだからこそ守れるものがあるのだろうと俺は思う。


「うん!レディソレイユとレディウィンド!」


「よく知ってるね!見たのかな?」


 ここだけの話この子の父親である俺の兄はアニオタ嫌いで、女児向けアニメですら見せてくれないと姪っ子が嘆いていたのを覚えている。


 確かに俺がレディガールズにハマりたての頃(当時二十歳)、朝リアタイでアニメ視聴してた時嫌な顔してたっけな。しかし仲が悪いというわけでもなく逆に仲が良く

、誕生日にレディガールズの限定変身玩具をプレゼントしてくれたこともあった。俺については諦めているが、娘だけはどうしてもアニメ好きにしたくないのかもしれない。


「パパがみせてくれないけど、ママがたまにみせてくれるの!」


 義姉さんは俺がレディガールズ好きだということに理解があり、義姉さんに任されて姪っ子とレディガールズの映画やイベントに行くこともある。これは兄に内緒の話にはなるが。


「それは良かったね」


「うん!」


 俺は姪っ子の頭を軽く撫で初代レディガールズについて語る、そうすると姪っ子は可愛らしくて目を細めながらも話を聞く準備をする。


 初代といえば歴代レディガールズの中でも一番と言っても良いほど互いの仲が悪いと有名なレディガールズだ。


「そうなの!?いまとちがう!」


 確かに今思えば初代は他の作品とはずば抜けて異なる形の作品だ、例えば最近のレディガールズのように仲間との友情やらを力に変えて戦うタイプとは違い、このレディソレイユとレディウィンドは五十話中の最初から中盤まで一切関わることが無かった。


 歴代で最も少人数でありながら個々で巨大な敵を倒す彼女達は間違いなく歴代最強のツートップとなるだろう。


「でもさいごはいっしょだよね?」


 姪っ子の言ってることは間違いなく正しい、だが二人が出会った後も最終回まで協力せずに「私が倒す!」と互いに一人で倒すと主張し毎回言い合いをしていた。


 しかし最終回の敵となる『イチャモンキー大魔王』というラスボスは一人では対処できず、最初に挑んだ猪突猛進のレディソレイユは瀕死状態に至り、次に冷静沈着のレディウィンドが挑むが同じ結果に。


 これが初代の最終回だ、まさかラスボスに負けて終わると思わなかったが、この後そのまま二年目に入る。


「そうだね、それでもラスボスは強くて二人は負けちゃうんだ。そこで…」


「ジャーニー!」


 そうだ、二年目から新たにレディジャーニーという戦士が追加され、彼女は瀕死状態の二人の前に突然現れ手を差し伸べた。


 レディジャーニーは強さで言えば二人に劣るが、彼女のおかげで協力して敵を倒すようになる。


 レディジャーニーの言葉で二人は互いの能力を掛け合わせ、必殺技の「クリスタルブレイク」というレディソレイユの肘まで伸びる手袋の甲にある鏡から放たれる「ソーラービーム」とレディウィンドの手から竜巻きが放たれる「タイフーンカッター」の合体技でイチャモンキー大魔王を倒したのであった。


「まぁレディソレイユとレディウィンドは最後まで仲悪かったけど、互いの力は認め合ってたから良きライバルという感じになったのかな?」


「せっさたくま?」


「おっ難しい言葉知ってるね!まぁそんなとこかな?」


 切磋琢磨、まさに二人に相応しいことわざだ。

 二年目の最終回の会話ともよく合う。


『ウィンド!やっぱりアンタとやり合ってる方が楽しいぜ!』


『奇遇ね、私もよ』


 これこそ永遠のライバルだ。


『二人とも…その力は人を守るために使うものですよ…』


 互い好敵手を目の前に二人は燃え上がる中、レディジャーニーだけは困った表情をしながらも少し嬉しそうに二人を眺めるのだった。


「なんかかっこいい!」


「でしょ?」


 姪っ子のその言葉に俺は思わず嬉しくなってしまう、まさかレディガールズを語り合える友達ができると思わなかったな、嬉しい誤算だ。



✳︎✳︎✳︎


ーー二〇二四年ーー


 私の名前は時田愛美、今年で十四歳になるごく一般の中学二年生。ついに私もレディガールと同じ年齢になった、おじさんがまだ生きてたら喜んだだろうな。


 もっともレディガールズに変身できるわけではないのだけれど。


「おじさん、これ新しいレディガールズの変身玩具だよ」


 私はおじさんの仏壇にそう話かける。

 今年でレディガールズも二十周年、気がつけばおじさんより長い年数レディガールズを見ている。


 おじさんは初代から十周年記念作品まで、私は十周年記念作品の一つ前から現在の二十周年作品まで、しれっと見るのもおじさんには申し訳ないがこうして毎年新しいレディガールズのグッズを供えているんだ、許してほしい。


 そうしていると気がつけば仏間はレディガールズのグッズに溢れていて、完全にレディガールズ専用部屋だ。しかしそうした方がおじさんは喜ぶだろう。


「愛美…いい加減おじさんの仏壇に玩具供えるのやめたら?」


「お父さん!おじさんは私の命の恩人なんだよ!」


 初代レディガールズから現在のレディガールズまでの変身玩具二十品超え、ぬいぐるみも含めると五十を超える、正直邪魔なのだろう。


 でもこの仏間はおじさんのために作られたもの、おじいちゃんとおばあちゃんは後から別に作るしグッズで埋めてあげないとね。

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