第44話 強欲バネネズミ、窮曹 その1

 先程までは明らかに子ネズミ程度のサイズだった雑食化けネズミ、授かった名はジロジロ。それは人間をどんどん捕食するとともに急激な成長を見せ、今では横綱を彷彿とさせる巨体にまで大きくたくましく、恐ろしく変貌した。


「ジジジジ……食べてきた、今まで、人間……! オイラの能力は『奪取』……知能も運動能力も、既に奪い尽くした! もう従わない、あの目的達成のために、ジュンラという野郎には従わないッ!」


「ヒ、ヒィィィ! 魔物なんだろう、ならばどうにでもなれェェ! 発砲ッ!」


「目的……? って! お、おい待てッ!」


 ユキハルの制止が間に合うことはずもなく、弾丸は真っ直ぐにネズミの胸辺りめがけて飛んでゆく。ターゲットの大きさはモルモット程度から巨体の人間ほどにまで急激に変わっていた、ならば逆に攻撃を喰らわせることは容易くなる。


「おらっ! ほらっ! 好きなだけ食べろよ、ほらあああァァァ!」


 もはや新米警官はパニックである。絶望に包まれた叫び声と共に奏でられるは無機質な発砲音。素手で魔物にかなうはずがない、そして携帯用の拳銃でもそれは同じ……だがそんなことに気付くほど冷静ならば、既にユキハルの言う通り刺激など与えるはずがないのだ。


「ジジジ……弾丸。何も奪えない……だがお前は与えた、オイラに。仕返しをする大義名分をッ!」


「ひ……ひえ……うわあああああああああああ!」


「ッ!?」


 叫び声がユキハルの耳に届く頃には、既に新米警官はネズミの胃の中にいた。それは捕食というより吸収……そして今度は、リュウゴとジュンラを眺めている。

 速い。すべてが速い。速すぎる……。リュウゴとジュンラは戦闘の真っ只中、コトハは実質無力化状態……ここでユキハルが導き出した答えは、1つしかなかった。


 

(ここは生き抜くための逃げしかない)


 

 結論が出たならばやるべきことは決まっている。ユキハルはリュウゴに向かって叫ぶ。


「米川ッ! 命令だ、一度こっちに来るのだァ!」


「は、はぁッ!? 何を……言っています!?」


「そのネズミ野郎、窮鼠『夜鷹』を噛みやがるぞォォォッ!」


「意味不なんだが……流石にケイサツが喰われてんの見たら……従うしかねぇだろうがアアアアアッ!」


「……ム? 何ヲホザイテ――」


 リュウゴは足を折りたたんで高く跳躍する。足元には炎、ロケットの要領で高く跳び上がり、危険な戦線から一時離脱する。


「ジジジ……ジュンラ、奪うッ!」


「ナッ……! クソ畜生ガッ!」


 ジュンラは腕をひねり、その拳を半回転させながらネズミに叩き込む。一方ネズミもジュンラにその齧歯を剥き出しにしながらジュンラにロケットの如く飛び出してゆく。

 

 「鷹」とネズミ。生態系においては「鷹」が圧倒的有利、弱肉強食という理において敗者となるのはネズミ側である。

 だがこのネズミ、人間すら容易く喰らう。生態系において特異かつ頂点である人間をさらに優に超える。この勝負、どちらに軍配が上がるのかは誰にも予想がつかない。


「飼イ主ニ歯向カウノカ……ナラバ答エハ始末スルノミヨォォッ……!」


「ジジジ……オイラによこせ、その能力っ! さすれば"あの方"も復活を……!」


(……あの方、だと? 一体何を――)


 ユキハルの疑問などお構い無しに、リュウゴの足元にて互いが互いを始末し合う。どちらが残っても厄介お構い無しなのだが、その答えはすぐに出た。

 


 ネズミが、勝った。



「グッ……! 畜生如キガ……クソッタレエエエエ……! ガブォア……!?」


「ジュジュジュ……力に溺れて知能を捨てたか? これではどちらが『理性を持つ動物』か分からないなァ?」


「食ワレル……!? ソンナコト……! ヤメロ……ヤメロ、ヤメロォォォ! 離セ、ガギャ……ガアアアアアアアア!」


「これまで散々、オイラをコケにしておいて偉そうに……第一、魔物が人間共に手を貸すワケが無かろうがッ!」


「グ、グギャアアアアアアアアア! ミミック、クスホ! いい加減に起きやがれェェェ………………!」



 その叫びは2人に届くことなく、ジュンラはただ、ネズミの糧となってしまった。こうしてネズミは、さらなる進化を遂げる。さらにその身体を大きくし、ネズミとはかけ離れたというべき異形の姿へと……。


「……米川ッ!」


「ああ分かってる! 触れるなと言いたいんだろう? やだねッ!」


 リュウゴはとてもとても大きくなったネズミの肩辺りに手を乗せ、力を加え新体操のように大きく距離を取ろうと試みる。その瞬間。


 

「ッ!?」



(腕…………喰われるッ!) 


 素早くネズミはその牙をリュウゴの腕に向ける。その食い意地はもはや暴食とでも言うべきである。だがリュウゴの運動神経もピカイチ、運良く補食されずに腕に大きな傷を描いただけで済んだ。


「グァッ……! おもいっきり擦りむいたやつの3倍くらいは痛てぇぞッ……!」


「米川ァ! オレの言うことが聞けねぇのかッ! 早く手当てをしろ、どんな毒や細菌を持っているか分からぬ!」


「……あぁ、分かってるさ! だがそれは……」


「米川! いい加減に――」


「あの宿をッ! 『消毒』してからだろうがあああああ! 怒りの鼓動爆燃……焼却準備だああああああ!」

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