第42話 ビッグな夢
「……いいのかい? このまま倒れてしまって。夢、あるんでしょ? 全て知ってるのさ、全知全能だからね」
「あぁ? 誰だよ……オレは今戦いで忙し…………またお前かあああああああ!」
「なーんだ、全然元気じゃんか。お久しぶりだね★」
「オヒサシブリダネ、じゃねえよ! お前一体なんなんだよマジで! 意味わからん! 不審者、ゴリラ、露出狂! あっちいけ、悪霊退散、なむなむ!」
「あ、相変わらずひどいねぇ。ホントに……」
リュウゴが気が付くと、そこはモノトーン調のギルドの前であった。空も草木もモノトーン、そして目の前にあるオブジェはジュンラ達vsユキハル、コトハの立像。まるで時でも止まったかのようだ……何がどうなっている? リュウゴはナグモイトハラに問いかける。だが、相変わらずナグモイトハラはヘラヘラしながら返す。
「ここはキミの深層意識の世界。わずか0.1秒未満の間に話しかけている。ボクはなぁ〜んでもできちゃうからね……ほら、ほ〜んの少しだけ皆、動いているでしょ?」
「ま、まぁ目を凝らせば、だけどさ……結局何が言いたい? オレの身体もなんだか、ガッチガチに凝り固まってるしよぉ」
「あぁ、ごめんごめん。本題をすぐに話すべきだったね……キミが今すぐ2人を助けなきゃ、死ぬよ。どっちも、そしてキミもね」
「……はぁっ!?」
意味がわからない。確かにジュンラはとんでもない強さだが……いきなり仲間が死ぬ、と言われても脳がそれを受け入れない。
「……待て! なら、確かかなり貯まってたポイントを使って助けを呼べばいいじゃないか、ほら、あの……その……うざったいリーダーを――」
「無理だよ」
ナグモイトハラはあっさりと断る。
「彼女はついさっき、奴らを撃破したと判断してギルドの中に戻っていった。いくら彼女と言えど、このコンマ以下の時間じゃあ間に合わない」
「えぇ……そ、それならアンタが助けてくれよ! できるんだろう? 全知全能なんだろアンタは! ポイントを使ってアンタに助けを求め――」
「10万!」
「じゅ、じゅうまん!?」
「うん。為成エイトとボクは10万ポイント。サエナさんは3000。そしてユキハル君は50、コトハ君は15、アツト君は1。ラゥーヴ君は夜限定で呼べて、それでも20は必要……きっとそれくらい引かれると、ボクの
「そんなの……勝てねえじゃねえかよ! アイツ、バケモンなんだよ……異次元級の!」
リュウゴは絶望した。サエナは呼んでも間に合わない、コトハとユキハルは目の前で戦っており実質選択肢から外れているようなものだ。今は昼時だし、アツトも戦闘向きの能力ではない……ポイントを借金し、試験に落ちるのを受け入れてナグモイトハラに助けてもらうか、自らが盾となるのか……どちらにせよ、自分を滅ぼす最悪の二択である。
「アンタ、こんなの実質選択肢は無いに等し――」
「立ち上がれ」
「……え?」
「立ち上がれ、ビッグになるという夢を叶えるんだろう! その思いを爆発させろ、想うがままに表現しろ! 今なら間に合う、さぁ立ち上がってありったけを!」
いかにも綺麗事、だが不思議とその言葉はリュウゴの冷めきった心と身体に再び火を灯した。
「……イトハラさんよ、間に合うよな?」
「それはキミ次第じゃないかなぁ? あとこれは独り言だけど……って、説明しなくてももうよさそうだね」
ナグモイトハラはすっと姿を消す。モノトーンの世界は再び色に染まる。
「ぐっ……ボクの命もここまでなのか! 妹よ……最期に一度だけでも、会いたかったぞ…………!」
「でも……私も会えるんだ。つらい思いさせてごめんね、トワ」
「グハハハハハ……ハハハハハハハハ! サァ、大人シク我ラニ逆ラッタコトヲ、深ク後悔シヤガ――」
「させねえよ、クソ鳥野郎」
「……オマエハ!」
「米川!?」
「リュウゴくん!?」
「へへへ……ここからが第2ラウンドだよ」
リュウゴは疼く両手でスマホを握り、震えながらもジュンラにピントを合わせる。
「派手に燃やして決めてやるさ……オレには色々と! 守るものがあるんでなァ…………!」
配信開始、途端に流れるコメント。
ふらいどぽてと「いきなりやべぇ!」
梵天「いけいけ!」
鍾乳洞くん「ファイト!」
「鼓動爆燃。やっぱこれだねェェェッ!」
「ブァアアアアアアア……! コレハ、コノ炎ハアアアアア!?」
「自称"鷹"さんよォ……興奮しているなッ! だが分からなくもないさ、なぜなら空に浮かぶ太陽! いくら飛ぼうと飛ぼうとたどり着かなかった眩い領域を! 間近でじっくり味わえるんだからなあああああッ!」
「コノ、ガキガァァァァァ!」
マウンテンゴリラ「うっほおおおおおおおおおお」
カーゴパンツ「いけいけいけ〜!」
ふらいどぽてと「とどめだ!!」
流れる応援、燃える闘志。それに連動するように、ジュンラを包む炎はさらに勢いを増す。
「米川! やるのだッ!」
「リュウゴくん、とどめだよ!」
「ああ……いっけえええええええ! これで、終わりだああああああああ!」
火柱が勢いよく立ち上がる。ジュンラの声はもはや聞こえてこない。
リュウゴの火力は凄まじい。慢心するクセや常識に難があるのはウィークポイントであるが、ゾーンに入った時のパワーは一流の能力者さえあっと言わせてしまう。だからこそリュウゴには多くのファンがいるし、それを見抜いてあの異能力騎士団に短期間であれど在籍できたのかもしれない。
もくもくと黒煙が立ち込める。陽炎が皆を包む中、リュウゴは思わず笑みを浮かべる。
「えへへ……やった、倒したぞ大ボスをぉぉッ!」
「リュウゴくん……やっぱり、本当にすごいよ! キミなら絶対合格だよ、この試験に!」
「あったり前よー! このオレが、本領発揮できたならなッ☆」
配信中であることなど忘れ、無邪気にスマホ片手に跳ね回る。そのカメラ映像は酷いものであろうことは火を見るより明らかであるが、その時不穏なコメントがふと投げられた。
ふらいどぽてと「おい全く効いてない!」
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