第6話「見抜かれる私」

「死にたいんだって?」


 凛ちゃんと呼ばれた女の子――本名は青山凛というらしい――と、偶然帰路が同じになった。


 彼女も高校の隣駅に実家があって、歩いても行ける距離なのだそうだ。


 だったら電車で帰れよというところだが、何故か私に付いてきて、そして言った。


 流石に唐突過ぎて、理解が追い付かなかった。


「え――えっと、あの」


「誤魔化さなくていいよ。咄嗟に突かれて言葉に詰まる程に、あなた喋り慣れてないってわけじゃないでしょ、室原さん」


 何か用がある時以外に、自分の名前を呼ばれるのは初めてだった。

「死にたいけど、死ぬ勇気もないからだらだら生きてるって感じかな。別に解決は望んでない。解決したら、また死ぬほど苦しみながら生きなきゃいけないから」

 ずばずばと心に言葉の匕首あいくちが突き刺さっていく。


 なんだ、この人は。


「あ、青山さ――」


「だからいいって。わざわざつかえた振りしなくって。それで、どうやって人に頼ればいいかも分からないから、可哀想ぶった顔して、己から何も発信しないまま誰かに助けてもらってきたと。自分としては、別に助かりたくもないし、死んじゃった方が楽だからそれでもいいけど、助けられ待ちしてるってところ? 本心を隠して、そういう自分に酔って、ひたってるわけだ、悦に」


「――――っ」


 いきなりそこまで言われると、苛ついた。


 というか――そうだ。さっき初めて会った時から、この人は私が死にたいことを気付いていた。


「気付かれないとでも思った? 鏡見なよ、自分の顔」


 誰からも、今まで気付かれたことはなかった。


 指摘もされなかったし、糾弾もされることはなかった。きっとそれは優しさだったのかもしれないし、本当に誰も気付かなかったのかもしれない。別にどちらでもいい。


 他人には嫌われていると思っていた方が、本当に嫌われた時に、傷付かなくて済むから。


 だから、初めてだった。


 ここまで踏み込まれたのは。


「――何が言いたいの?」


「別に。『あなたが生きようと死のうとどうでもいい』とかは言わない。一度でも顔見知りになった人が死ぬのは、いい気持ちじゃないからね。でもね。その顔を見せつけられる側にもなってほしいなって思っただけ。自慰行為見せつけられてるみたいで、すごく不快。そういう誰かが助けてくれるの待ってるみたいなの、一番嫌いなの。助かる気がないなら、誰にも迷惑かけずに勝手に一人で死んで」


「あなたに何が分かるの? 私のこと、何か知ってるの?」


 ああ、私、負け犬みたいな台詞言ってるな。恥ずかしい。でも、これ以外に何を返せばいいのだろう。


「何も分からないし、誰も分からないんじゃない? 周りの顔色ばっかり伺って押し込めて。それで相手に勝手に察してもらおうとしてたなら、分かるはずがないじゃない。そんなことも分からないの?」


「ずけずけと、踏み込んでくれるね。何も知らない癖に」


「何も知らないって何。たかだか十何年でしょ。顔や言動見れば、大体の人生くらい想像つくよ。何。自分は特別不幸だとか思ってたの?」


「――――」




(続)

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