第33話 宴の準備

 宴が始まる……という事で俺は材料調達のために山に入った。


 ダンジョンは時間間隔が狂うという言葉があるが、今の時間は日の出前。


「てっきり、夜が来るのかと思っていた。まぁ、狩りを始めるにはいい時間帯だ」


 狙いは肉! 当たり前だよなぁ? 鹿肉や猪肉、そして野鳥の肉などなど……


 この地の豊かな自然が提供してくれる素材を求めて、俺はさらに山の奥へと足を運んだ。


 ん? 道具はどうするのかって?


 確かに、ダンジョン探索のから食材調達への急な予定変更ではある。


「だが俺は、簡易化した小型の狩猟道具を常に持ち歩いているのだ!」 


「なんでモンスター退治に無意味な物を?」と冒険者仲間から笑われたり、怪訝な顔でみられたりする。


 だが、俺にとってみれば、これはサバイバルキットのような物だ。


 もしも、遭難した時にこれがあれば、生存率を高める事ができる。


 加えて、俺の姿をよく見てほしい。このユウキ・ライトの姿を!


 ほら! ほら! 小型ながら弓を腰に付けているだろ!


 悲しいかな、モンスターとの戦いでは使う事はないがな!


 さて――――


 森に入ると、まずは足跡を探す。


 だが、中々に難しい。 当然だが、俺は狩人ではないからな。 


 野伏レンジャー斥候スカウトの訓練でも受ければ、もう少し狩りも効率的にできるようになるかもしれない。


 あのハンニバルだって、見習いながら短期で魔物使いの修行をしていたくらいだ。 

 

 俺だって野伏や斥候の見習いにはなれるはず。

 

「まぁ、考えてみる余地はあるな……おっと! 足跡発見だ」


 地面には新しい蹄の跡があり、これを辿っていけば鹿の群れに出会えるだろう。


 静かに進みながら、周囲の音に耳を澄ませる。鳥のさえずりや風の音に混じって、枝が折れるかすかな音が聞こえた。


「いたな……」と思わず呟いたしまった。


 山に入ると独り言が増えてしまう。悪いクセだ。


「……いや、独り言が多いのは、いつも通りか」と苦笑。さて――――

 

 視線を前に向けると、小さな開けた場所に数頭の鹿が草を食べているのが見えた。


「狙えるかな?」と息を殺し、ゆっくりと弓を構える。


 狙いを定め、心の中で、


(5、4、3……)


 とカウントダウン。


 緊張感が高まる中、矢を放つと、狙い通り一頭の鹿が倒れた。


「よし! うまくいった」


 急いで近づき、鹿がまだ息があることを確認すると、狩猟用のナイフを使ってとどめを刺した。


「これで1頭目の鹿肉が手に入った」


 持ち帰るには重いので、その場で解体を始める。

 

 通常なら、これだけで数日分の食料。けど、今回は複数人の食料が必要になる。


 もう少し狩りを続けよう! 


 さらに森の奥へ進むと、今回は猪の足跡を見つけた。


「鹿の次は猪か。随分と幸先が良いなぁ」と思わず笑みが零れ落ちる。 


 猪は危険だ。少なくとも鹿よりも……


 だが、その肉はとても美味しい!


 慎重に足跡を追い、茂みの中で草を掘り返している猪を見つけた。


 距離を詰めるために気を付けながら近づき、弓を引いた。しかし――――


 (あっ!)


 俺の放った矢は風に乗って、軌道が逸れて行った。 


 矢は木に突き刺さり、トン!と音。


 猪はその音に気づいた。 逃げ出していった。


「うがぁ! もう少しだったのになぁ」


 気を取り直してさらに進む。すると猪の通り道と思われる場所があった。


「ふっ! やはり俺は運がいい!」


 縄で作った罠を設置する。身を隠して、しばらく待つ――――


 すると罠にかかった音が聞こえた。


 猪が罠に足を引っかけてもがいている。


「よし、南無阿弥陀仏!」と俺は近づき、ナイフで仕留めた。


「これで2頭目の肉も確保だ」


 今の俺はルンルン気分だ。 自然と鼻歌も披露する。


 この時期の猪の肉は脂が乗っていて、煮込み料理や焼き物に最適なのだ。


 こちらもその場で解体し、持ち帰る準備をした。


 最後に狙うのは野鳥だ。


 草木が茂る間を慎重に歩く。 小枝を踏み抜いて、ポキッ! と音が鳴れば、野生動物は逃げてしまう。


「慎重に、慎重に!」と自分で言い聞かせながら進むと――――


「いた!」 


 息を整え、集中力を高めた。 心の中でカウントダウンを始める。


(10、9、8……)


 弓をゆっくりと引き絞り、狙いを定める。


(7、6、5……) 


 心臓の鼓動が耳に響く中、一瞬の静寂が訪れる。


(4、3、2、1……)

 

 矢羽根が指を離れ、弓弦の音が森に響く。


 羽ばたく音が一瞬だけ聞こえる。


「外したか!」 


 だが、次の瞬間には鳥が地面に落ちる。


 どうやら、俺の放った矢は命中していたらしい。よかった、よかった。


 俺は、念のために静かに近づき、獲物を確認する。無事に仕留めたことを確認し、満足感が胸に広がる。


 これで宴の一品がまた1つ増えた。鳥を手に取り、次の獲物を求めて再び森の奥へと歩き出す。


 こうして、山の中で鹿、猪、そして野鳥の肉を調達することができた。


 これだけの肉があれば、豪華な宴を開くことができるだろう。


 山の恵みに感謝しながら、俺は村へと戻り、早速料理の準備を始めることにした。




 

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