第17話 ダブルヘッドタウロス!

 俺は警戒していた。 


 モンスターとモンスターを合成する。 ほら、ゲームの展開でもよくあるだろ? 


 人間がモンスターを組み合わせる事は世界の禁忌である。


 その禁忌を破った人間には罪と罰を与えられる……的な展開。


 最悪、真っ黒な球体にミノタウロスとグリフォンの首だけあって――――


「……シテ ……シテ コロシテ……」


 みたいなカオスみたい怪物との戦闘。 そんな状態も少しだけ期待してたりした。 


 でも、そうはならなかった。 普通に召喚術師アッガイのスキル『合成』は成功していた。


 通常のミノタウロスよりも大きなハイミノタウロスであったが、2体分の合成とあってか質量2倍。さらなる巨大化を遂げている。


 さらに両肩からグリフォンの顔が生えていて、しっかりとした意識と知性の光が目に宿っていた。


 巨体を宙に浮かすために背中には巨大な羽が生えていた。


 そんな怪物の後ろで初めてスキルを使用したアッガイは興奮しているようだった。


「わかる、わかるぞ!? ふ、フワッハハハハハ……! これはスキルの能力……君の名前は『ダブルヘッドタウロス』だね。よし、命令をするぞ……全力で暴れる姿を見せろ!」


「おいおい! テンションがおかしくなっているぞ」と俺は思わず突っ込んでしまった。


 だが、それと同時に彼のテンションが高くなっているだけではない事に気づいた。


「初めてのスキル発動で力が暴走してるのか? はいはい、力に精神が振り回されている状態なわけね」


 なんだっけ? ダブルヘッドタウロスって名前だっけ?


 頭が2つダブルヘッドの方は肩についてるグリフォンの方だと思うけど、それでいいのか?


 俺は剣を構えて、戦闘状態に入った。


 意識をダブルヘッドタウロス……長いな。ダブロスって略すことにしよう。


 意識をダブロスに集中していると、肩についたグリフォンのくちばしが開いた。


 なんだ? 魔力を感じる。グリフォンが得意とする風魔法をダブロスも使用するつもりなのだろうか?


 『肉体強化』の魔法を発動した時の俺には、攻撃魔法は驚異でなくなる。 

 

 魔法を剣で切り払うことができるようになる。


 どうやらダブロスの狙い……グリフォンの双頭から放たれたのは超音波。 


「一体、なんのつもりだ?」


 俺は防御も回避もしなかった。 『肉体強化』の必要すらなかった。


 なぜなら、ダブロスの超音波攻撃は俺が立っている場所から大きく外れて、背後に着弾したからだ。 


 ん? 背後……背後だって!?


「あっ!」と俺は思い出すと同時に振り向いた。 この戦いの勝敗は、背後にある土城に入っての攻防戦。

 

 ダブロスの一撃は、簡単に土城を吹き飛ばした。


 元々、ここはギルドの裏側に設置された修練場。 空中でバラバラになった土城は、そのままギルド本部の2階にぶつかった。


「あっ……私の部屋が、ギルド長室の窓が割れて、大量の土と意思がががが」


「しっかりしろ、リリティ! お前の部屋は致命傷だ。ガックリしろ!」


「なんて事をいうのさ!」


 そんなやりとりもあったが、これで試験が終わってしまった。残念だが、4級冒険者の試験なら、近いうちに受け直そう。


 例のサトルバシッコバくん……いや、サトルバシコッバくんだったかな?


 サトルくんも昨日受けたばかりと話ていたんだ。 すぐに受け直して……


「続行」とリリティの鶴の一声が響いた。


「聞こえなかったのかな? これは冒険者の定性や姿勢を見る試験だ。結果よりも過程を評価して合否を決める試験だよ! 諦めるのはまだ早い!」


 いや、力説してるけど、自室を壊された恨みを俺か、あるいはダブロスくんの死をもって償わせようとしていないか?


 私怨が凄いのだが……


 ここで俺からだけではなく召喚術士アッガイ魔物使いザクレ側からも意義申し立てがあった。    


「ギルド長も今の力をご覧になりましたよね? 私たちのダブルヘッドタウロスは強すぎます。第四級の試験に使うのは無茶なのでは」


 ん? あぁ、この2人には知らされていないのか?


 本当は、自分が審査されている側なんて思ってもないのだろうなぁ。


「仕方がない。真相を開示しましょう」


 リリティは俺を指しながら続けた。


「彼の名前はユウキ・ライト。ただの第5級冒険者ではない。あの勇者に匹敵する力を持っていて、このギルドでは秘密の特別任務を受ける時、彼を向かわせる。わかるかね? 彼の実力は特級冒険者に等しいのだよ」


 アイツ、何を…… って全部嘘じゃないの凄いなぁ。 本当のことだけ言って誤魔化そうとしてる!


「つまり、これは君たちにとっても試験なのだよ。新しい『スキル』を使い、2人の力を合わせたのならば、君たちは特級冒険者として相応しいかどうか……」


「特級! 私たちが!」


 アッガイとザクレの2人は目を輝かせた。 まずい、空気が変わってきたぞ! 


 特級冒険者。それは冒険者にとって憧れ。


 勇者が世界の驚異と戦うために国が選出した最強の者ならば、


 特級冒険者は冒険者ギルドが選考する最強集団である。     


「そして彼が、私たちを審査してくれる特級冒険者なのですか!」


「……(にっこり!)」とリリティは否定しなかった。


「わかりました。彼に認めていただけるように私たちは……全力を出します!」


「出さなくていい、出さなくていい」なんて言う俺の言葉は届いていないみたいだ。


「うぉ!」と急にザクレくんが気合いを入れ始めてびっくりした。


 それから両手を『ダブルヘッドタウロス』に触れた。


 まずい。あれは、何らかのスキルを使用する前兆。 おそらく使役したモンスターを強化する専門スキルか?


 俺の予想通り、ザクレくんは……『強化』を発動した。


「通常の強化スキルか。それだけなら、なんとか……」


 だが、俺は失念していた。 1人が保有できるスキルの数は決まっていない。


 だから、俺は彼が続けて、次のスキルを使用する事を阻止することはできなった。


「続けて『スキル』使用!――――


『凶化』! 

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