第6話 ギルド長のスキル

 これまでのあらすじ。


 ギルド長に喧嘩を売られた――――以上。


 完全に姿を消したギルド長。 なんのスキルを使ったのか?


「最初は『気配遮断ステルス』のスキルかと思ったが、『透明化「インビジブル』」の可能性もあるな」


 有名な戦闘系のスキルならわかりやすい。


 だが、世の中には固有をスキルを発動する奴もいれば、複数のスキルを同時に発動できる奴がいる。


 そうなってくると推測する事は容易ではなくなる。 さて、ギルド長のスキルはどうかな?


「さて――――」と俺は立ち上がり、室内を歩き回る。


「いつまで待っても攻撃はこない。どうやら、直接攻撃に使うスキルじゃないみたいだな」

 

 その結果、ギルド長のスキルがわかった。


「これは『結界バリア』のスキル。それも閉じ込める系だ」


結界バリア


 相手の攻撃を通さない透明の遮蔽物を作るスキル……ってのが一般的だ。


 戦闘で防御に使うスキル。けど、それだけじゃない。 


 結界に入った自分や味方を強化する効果。逆に敵を弱体化させる効果。


 レアスキルになれば、特殊効果を付加したものがある。 


 例えば、魔法を使えない者を一時的に魔法を使えるようにしたり、 


 敵に特定の攻撃だけ使用禁止にさせたり……まぁ、ここら辺を言い出せばキリがない。


 あとは…… 人間の認識を歪めて、『結界』から遠ざけるタイプもあれば、敵を閉じ込めたりする。


「どうやら、コイツは敵を閉じ込めるタイプの『結界バリア』みたいだな。要するに、俺を閉じ込めて拷問しよって魂胆だろ?」


 俺は、独り言をしているわけではない。ギルド長に話しているつもりなんだが、返事がない。


 返って来るのは「……」という無言だけだ。


 結界内の言葉が外部には遮断され聞こえていない場合もある。けど―――― 


「けど、こっちの様子はわかるだろ? 流石に会話が成立しないのなら、交渉も拷問も意味がないからな」


 ぶっちゃけ、俺はスキルによる攻撃を受けても焦りはなかった。


 勇者だった頃にも、結界に閉じ込めらることはよくあったからだ。


 魔族やモンスターは『スキル』を持っていないので、当然ながら人から受けた嫌がらせだ。


 金を地位を持ってる貴族連中は隠しごとが多い。 はっきり言うと悪人が多かった。


 そう言う連中は、力を求めて外部から『スキル』を多く持ってる人を一族に取り込んだりするから、遺伝的に強力なスキルを持つ者が生まれやすい。


 そういう連中が悪意をもって勇者を攻撃してくる。 下手なモンスターや魔族よりも質が悪い。


 たぶん、俺が結界に閉じ込められた回数の世界記録保持者だぜ。


「あまり、勇者オレめるなよ!」


 俺は魔力を体に流して肉体を強化していく。 


 その行動に、ギルド長は呆れたのだろう。 ついに言葉を発した。


「無駄ですよ。内側から攻撃して結界を破ろうなんて……それは、流石に結界を甘く見ていると言うもの」


 だが、甘く見ているのは彼女の方だ。


 『肉体強化』の魔法。 勇者である俺が本気で使えば、拳だけで部屋そのものを消し去ることができる。


 結界の弱点。 内側の形状が変化するほど、破壊してやれば、大抵の場合は結界が維持できなくなる。


 だが――――


「だが、それじゃ面白くないよな? 腕力だけで暴れて解決ってのは、優雅スマートじゃない」  


 突然だが、俺は異能バトル系の漫画が好きだ。 未知の能力を見破り、無敵の能力の弱点を突く。


 憧れの主人のように、ここはカッコ良く決着と行こうじゃないか。


「やれやれだぜ」と呟きながら 


 「グレートにヘビーってやつですよ、コイツは」


 意図的に笑みを浮かべてみせた。それから、室内にあるだろう目的の物を探す。


 照明器具。 現在は、魔石を使った蛍光灯が主流ではあるが……あったぜ。

 

「こういう場所じゃ、緊急時に必要だもんな。 蝋燭ろうそく火打石ひうちいし


「あらあら」とギルド長の声には笑いが混じっていた。


「結界内で火事でも起こすつもりなのかしら? 私の結界は火事くらいなら壊れない。 それにあなたが火に包まれても私は助けないわよ」  


「そうかな。試してみるつもりはあると思うけどな」


「馬鹿な子。もう少し聡明な人材だと……待ちなさい。その紙は何ですか!」


「何って燃料だよ。 そう言えば、この紙……前回の依頼から帰ってきた時、荷物に紛れ込んでいたよな。何の紙なんだろうなぁ?」


 そう言いながら、俺は紙を――――『スキル』を使えるモンスターを生み出した実験の資料を――――蝋燭の火に近づけた。


「自分が何をしているのか、わかっているの! その紙を燃やすんじゃありません!」


 結界が歪む。 ギルド長が現れたかと思うと、素早く俺の手から資料を奪い、慌てながら火を消し始めた。


『結界』を使う相手と戦う時の対策。 相手が『結界』を破棄しなければならない状況を作ればいい。


 まぁ、人質とかだな。


「何てことを、これを処分するなんて個人の判断で決めれるものじゃないのよ!」


 ギルド長は涙目で、こちらを睨みつけて来る。


「……って言うか、若返ってないか? 俺よりも若く、10代中盤くらいに見えるけど」


 いや、もしかしたら、もっと若い? 見た目は10代前半くらいか?


「なっ! み、見ましたね! 私の正体を!」

 

「ん?」と俺は、ギルド長の頭から尖がり帽子を取った。


「あっ! 返せ!」と慌てる様子の彼女。 その彼女の耳は、長く尖がっていた。


「エルフだったのか。人間の町に紛れて、ギルド長なんて地位までついてる奴なんて初めてみた」


「く~!」とギルド長を顔を赤く染めながら、睨みつけて来る。


 どういう感情なのか? 怒りと羞恥心だろうな……きっと。


「ごめん、ごめん。いじめ過ぎたな、猛省」と俺は謝りながら資料を手渡した。


「……いいの?」とギルド長は目を見開いて驚いた。


「まぁ、自然主義のエルフに委ねるなら良いだろう。信頼を勝ち抜いてきたご先祖さまに感謝すんだぞ」 


 エルフは調和と協調を重んじる民族だ。 信頼している仲間にもエルフはいた。


 まぁ、最初から研究を然るべき機関に渡すつもりだったのは、ここだけの秘密だ。


 信用ができない個人や団体に渡すつもりはない。最初にそう言ってるよな?


 なに、言ってない? まぁ良いじゃん。


 利己主義よりも社会の最大幸福。  それが俺の信念ポリシーだよ。


 俺は部屋から出ようとした。 まさか、結界は継続していないだろうが、ドアを開ける時に少しだけ緊張した。


 廊下を歩く俺に「ま、待ちなさいよ」と声がした。


「どうした、ギルド長?」


「お、お礼がまだよ。あ、ありがとう。これからもギルドをよろしくね」


「あぁ、こちらこそよろしく……ん? どうかしたのか、そんなジト目で見つめて」


「ジト目が何か知らないけど、私の事を子供扱いしないでよね」


「そうか。長寿種エルフだから、年上なんだよな。つい、うっかり!」


 まぁ、見た目が若いと精神も体に引っ張られる。 


 そういう話を昔のVtuber界隈で聞いたこともあるので、実年齢は上でも精神年齢は下なんだろうと思っていた。


「それから、私の名前はギルド長じゃないわよ 次からは私を本名で呼ぶことを許すわ」


「本名は? 聞いていなかったよな?」


「よく聞きなさい。私の本名は――――


 西の森で春に生まれた三番目の娘 リリティ・ディ・ティンウィリアリエルティエンディア=チャイコフスキーよ」


「え? なんて?」


 最後にチャイコフスキーって言わなかった?  それと途中で噛みそうな部分なかった?  


 ティンウィリアリエルティ……え?


「聞こえなかったのかしら? もう一度言うわよ。 西の森で春に……」


「わかった、リリティ! これからよろしくな」


「ちょっと! 勝手に呼びやすそう部分だけ呼ばないで!」


 エルフの少女(ギルド長) リリティと友達になった。

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