第19話 悪名を高めますわ

私が王となってからしばらくした後、案の定領内で反乱が起きたので討伐に向かいますわ。まあ今までの公爵や伯爵達の皇帝への税は収入の15%だったのに、いきなり倍の30%まで上げれば反発する人は反発しますわね。


農民から毟り取る税を5割から6割に上げましたが、それでも公爵や伯爵達は今までより収入が少なくなりますわ。別にこういう反乱自体珍しいことではありませんし、公爵の封臣の伯爵が反乱を起こして公爵に成り代わる、なんてこの世界ではよく聞く話ですわ。


私の領有していたナロローザ公爵領の、周囲3つの公爵領を纏めてナロローザ王国領と呼称するようになったのですが、そのうちの1つで反乱ですわね。残りの2つのハロザー公爵とアリー公爵は特に増税に対して文句を言わず、反乱にも加わらなかったので日和見気味ですわ。どうせなら、3つの公爵領で纏めて反乱が起きて欲しかったですわね。


というか反乱を起こしたコンスタイン公爵がナロローザ公爵領に攻撃するにはどちらかの公爵領を通過しないといけないので、そうなればこちら側での参戦になりますわね。


……県が伯爵領だとすれば、地方が公爵領になりますわ。日本の規模で言うならナロローザ公爵領が九州地方、こちら側についたハロザー公爵領が四国地方、アリー公爵領が中国地方。反乱が起きているのはコンスタイン公爵領の位置的に近畿地方と、ついでに愛知県や岐阜県を治める伯爵達も反乱していますわ。


これらをまとめるナロローザ王国領は、西日本ぐらいの規模ということになりますが、王国としてはこれでも規模は小さい方ですわね。この規模の王国が2桁はあるのがこの帝国の強みですわ。


反乱が起きたと聞いて、即座に領内へ戻ってみたら既にこちら側の軍800人が2000人を超える敵連合軍を追い返した後とか意味不明な状況でしたわ。簡単に倍以上の兵数差を跳ねのけるとかあり得ませんわよ。ハロザー公爵もアリー公爵もこちら側の軍として常備軍を300人ずつ援軍として寄越して来ましたし、拍子抜けですわね。


「リディア様。今回は領内の警備を務めるハウスガード100人と、アリー公爵軍300人が騎士団と共に戦ったため、こちら側の兵数は800人でした。アリー公爵領の防御陣地にコンスタイン公爵軍から攻撃する形での開戦でしたので、被害は少なかったです」

「……領内の警備を任せているハウスガードの方々も元騎士団や騎士団志望の人が多いですからね。で、当然今度はこちらから攻め入りますわよね?」

「はい。現在のナロローザ公爵軍はアリー公爵の槍兵300人、ハロザー公爵の騎兵300人、リディア様の騎士団400人にハウスガード100人の計1100人の軍となります」


領内の館でお留守番をしていたジョシュアに状況を聞くと、クレシアが軍を率いて対処したことを確認しますわ。勝手に反乱軍を鎮圧しないでくださいまし。ついでに今から反乱軍を主導しているコンスタイン公爵領に侵攻するようですので、最早私への凌辱チャンスは皆無に等しいですわ。


……農民から徴兵した人が多いコンスタイン公爵の軍は一度敗走し、死者や脱走兵が多く、既に軍規模は1500人を下回っていますからもうどうにでも出来ますわね。農民兵にはたまに強い人もいますが、基本的に同数どころか半数の常備軍にも勝てませんわ。


クレシアに任せっ放しでこれ以上私の評判や評価が上がっても困りますし、ここは私が軍の指揮をしないといけませんわね。とりあえず作戦なんて考えずに突撃しますわ。これが一番愚策だと思いますわよ。


「全軍突撃ですわー!被害なんて気にせずに蹂躙ですわー!ほら、いきますわよ!」


馬でかっ飛ばして前線に合流し、ナロローザ家の旗を振り回して敵兵をぶん殴ろうとしますが、殴ろうとする相手から騎士団員の剣で吹き飛ばされるのはどうにかなりませんの?あ、敵軍から降伏の使者みたいなのが来ましたわね。どうして私が戦場に着いて1時間で使者が来るのですか……?私を捕らえてどうこうみたいな知略を働かせる方は居りませんの……?


さて。必死に頭を下げるコンスタイン家の使者ですが、こういう場で積極的に私の評判を落として私を暴君だと世に知らしめたいですわね。そしてこういう時は、聖君っぽい人間の動きを予測して、それの真逆の行動を取れば良いと思いますわ。


『顔を上げなさい。抵抗は止めて、武器を捨てて、降伏しなさい。誰一人として罪に問いませんわ。これからは同じ王国民として共に生きていきましょうですわ!』


ちょっと聖君っぽい人の台詞を考えて、その真逆の台詞を言うことにしますわ。


「顔は下げたままでいなさい。降伏は止めて、武器を持って、抵抗しなさい。誰一人として許す気はありませんわ。王国領内からあなた方全員追放ですわ!」


これでよし!面会後、すぐに砦へと戻っていく使者ですが、ずっと震えていたのできっと怒りに燃えて必死の抵抗をして来ますわ。今回は負けてもいずれ復讐の機会を……!と内心燃え上がっているに違いありませんわ。


そして僅か30分後、砦からコンスタイン家の人間が次々に脱走する姿を確認しますわ。あまりにもあっけない幕切れですし、コンスタイン公爵軍に至っては勝手に瓦解を始めたので実質無血開城になりましたわ。……コンスタイン家からの使者との面会時の暴言が、世に広まって悪名が上がると良いですわね、

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