第44話 致命傷

 ウォーターカッターは当たった。当たったのだ。普通なら貫通するが、あの魔物はバケモノは普通ではなかった

 キマイラはウォーターカッターをものともせずアランへ走る

 アランは即座にエマにやったときと同じ砂埃をキマイラの顔面にぶつけて目潰しをするが、キマイラは怯むことなく走ってくる。キマイラはアランに跳びかかる


「(あっぶね~!ギリギリよけれた)」


 アランは身体能力を強化し、右に走って回避する。もう少し遅かったらアランは肉塊になっていただろう


「アラン!どうなってる!倒せるんじゃなかったのか!」


 ホフはアランに怒声をあげる


「誰も絶対にとは言ってない!それよりも最悪の可能性が出てきたぞ!」


「最悪の可能性⁈」


「もしかしたら、このキマイラは神獣級かもしれない!」


 神獣とは神から生まれた獣もしくは神力を持った獣のことである。神獣は自身を生んだ神の信仰を間接的に受けることができるため、討伐することは一部例外を除いてほぼ不可能と言われている。


「全員無事か!」


 その声が聞こえた方向を見ると、エマたちがいた。きっと煙を見て駆けつけてくれたのだろう


「アラン!よそ見してると!」


 アランはエマを…助けに来た仲間を見てしまった。ホフの注意ももう遅い


「(これ…死ぬな、俺)」


 アランは悟った。もうすでに結果が分かっている…目の前にはキマイラの巨大な爪があった

 その瞬間一本の剣がキマイラの顔に当たる。ヴォルがとっさに剣を投げたがキマイラは止まらない

 アランの体から血しぶきが出る。どう見ても、誰が見ても致命傷だ。血まみれの体をキマイラは巨大な前足で踏みつけ確実に殺すために体重を乗せる。キマイラはアランを殺すべき敵だと認識した。初めて自分を殺せる存在に出会ったと、だから殺す。    

 自分が死なない…いや殺されないために…自信を創ってくれた神に泥を塗られないために


「アラン!」


 マルンはアランのもとへ走る。踏みつぶされても叫び声一つ上げないアランのために走る。だがキマイラが走ってくるマルンを睨みつける


「マリー!」

 

 エマはマリーの名前だけを呼ぶ、それだけでも何をすればいいのかが分かるほど二人の信頼と仲間としての経験だけで理解できるからだ


「言われなくても分かってますよ!」


 マリーは風魔法を一点集中で強風のごとき風圧でキマイラをまるで磁石に吸い寄せられる金属のように吹っ飛ばした


「アラン!大丈夫…なわけないよな」


 マルンはアランの口に手をかざして呼吸を確認する


「まずい、アランの呼吸が止まってる。回復魔法を早く!」


「確かにまずいわね…ここまでの重傷者を相手にしたことがないから回復できても生きてるかどうか」


 マリーは回復魔法をかけながら自分の不安を口にする


「マリーはそのままアランを頼む、マルンはマリーの周りに血の匂いでおびき寄せられた魔物が近づかないようにマリーの近くにいてくれ、他の者は私と一緒にあのキマイラを討伐する」


 エマは指示をするが、マリーの補助なしで勝てるか不安になっている


「エマ、不安なのが表情からまるわかりよ、私も前に出るのだから不安なことは勝てるかどうかでなく『絶対強者』が私たちの足を引っ張らないことではなくて?」


「言ってくれじゃねーか、心配しなくてもお前たちはただ観戦してるだけであっという間に終わらせてやるよ」


「ヴォル、そんな安い挑発に乗っている暇があるなら投げた武器を拾いに行け」


 どうやら私の杞憂だったか


「前衛は私と一緒にこい!」

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