第33話 変わらない結果

 昼休み、未来は悠里と虹花に妃子へ用事がある事を伝えてもらい、3人でお昼をしてもらう事にして井尻に呼び出された校舎裏へと向かった。


 校舎裏では既に井尻とその仲間達が待っております、


 コンクリートの地べたにしゃがんで購買のおにぎりやパンを食べていた。


「お、逃げずに来たのえらいじゃん!」


 井尻の仲間の男子生徒がニヤニヤと嘲笑う様に未来に言った。

 彼は以前に未来の腹を殴った男子生徒で、未来の事を下に見ているのだろう。


 その様子を見て、未来は井尻が数日前に自分に投げ飛ばされた事を仲間に話していないのだと悟った。


 井尻は食べていたパンを仲間の1人に渡すと立ち上がってやる気を仲間に見せつける様に肩を回しながら未来の方へやって来た。


「この前の帰り道の事話してないんだ? 懲りないね」


 未来はあえて挑発する様な言葉を発した。

 スキルが有るからと舐めプされてさっきのは本気じゃなかったと逃げられるよりは怒らせてから自分が舐めプする位がダメージがでかいだろうと考えたからである。


「五月蝿え! あれは間違いだ! 俺のスキルは岩も砕くんだ! 病院送りにしてもう悠里に付きまとえないようにしてやる!」


 上手く怒ってはくれた様だが、井尻の言いように未来はため息が出た。

 スキルを手に入れた人間がそれを使って誰かを病院送りにすれば大問題だろうし、悠里に付きまとっているのはどちらかというと井尻の方である。


 未来の様子を見た井尻の仲間達が「日和がひよってんぞー!」「キモいストーカー野郎はボコっちゃえ!」「自分がダメだったからって真斗の邪魔するからこんな事になんだぞ!」など好き放題ヤジを飛ばしてくる。


 しかしそのヤジからも井尻は仲間に自分の都合のいいようにしか話していない事が予想できた。


「もう後悔しても遅いんだ、ぞ!」


 仲間のヤジエールに気をよくしたのか、井尻はいきなり殴りかかってきた。


 格闘技の試合の様にlady fightで始まるわけではないが、話しながら殴りかかって舌を噛まないものかと思う。


 未来は井尻のスキルがどういったものか知らないが、殴りかかってくる様子は数日前と何も変わらない様に思えた。


 未来は井尻のパンチを最小限の体の動きだけで躱した。


 井尻は自分のパンチが外れたのが信じられないといった顔を一瞬したが、未来を睨みつけると体勢も整っていないのに反対の手でもう一発、更に未来が避ければもう一発と拳を繰り出してきた。


 未来はスキルを警戒して避けていたが、何も変わっていなさそうなので井尻の利き手のパンチを体を井尻の正面から躱す様に大きく避けると、井尻の足元に自分の足を出して引っ掛けた。


 未来の足に躓いた井尻はつんのめる様にして殴りかかった勢いのまま転けてしまった。


 ここまで未来が井尻のパンチを避ける様子など井尻が翻弄される様子を見て、井尻の仲間達のヤジは無くなり校舎裏はシンとしてしまった。


「おい、真斗大丈夫かよ?」


 井尻の仲間の1人が井尻に声をかける。


 それを聞いて未来が井尻の仲間達の方を見ると、井尻に声をかけた以前に未来の腹を殴った男子生徒が「ヒッ」と小さな悲鳴を上げて一歩下がった。


 周りのギャルな女子生徒達はなにか未来に言い訳をしている。


「ふざけんなよ!」


 その間に立ち上がった井尻が未来の背後から掴み掛かろうと飛びついてきた。


 未来はチラッと井尻を見ると、先日の焼き回しの様に投げ飛ばした。


 投げ飛ばされた井尻は先日と同じ様に痛がって呻いている。


「君達が井尻からどんな風に話を聞いてるか知らないけど、高宮さんに付きまとってるのは井尻の方で、僕は護衛してる側だから。君達も井尻の友達なら変な気を起こさないようにちゃんと見ててよ」


 未来の言葉に井尻の仲間達は勢いよく頷いた。


 その様子を見て、未来はもう一度井尻に忠告を話すと、校舎裏を去るのであった。




 未来が去った後、井尻の仲間達は井尻を助け起こすと、どういう事なのか井尻に問いただした。


「アイツは告白がダメだったからあの暴力で悠里を脅してるんだ!」


 井尻は都合のいい言い訳を話すが、仲間の何人かはその様子で察したのか引き気味である。


 しかし、類は友を呼ぶというか、仲間5人のうち3人という人数は井尻の意見を信じて応援しだした。


「それはなんとかしないといけないよな!」


「しかしどうしたらいいんだ! スキルだけでは悠里を助ける事ができなかった……」


「クラスの奴が言ってたがスキルを持ってダンジョンを脱出した自衛隊はレベルが上がってたって話だ」


 未来の腹を殴った男子生徒が井尻に一つの案を出した。


「レベルを上げれば悠里を助けることができる?」


「ああ。しかしどうやってレベルを上げるかだな」


「もしかして日和ってズルしてレベル上げてるんじゃないの?」


 ギャルの言葉を井尻と男子生徒は笑い飛ばした。


「なわけ! どうやってダンジョンに入るんだよ?」


「確かにぃ」


 自分達の都合のいい様に明後日の方向に進む会話に、まともな2人の仲間は理由を付けて去って行った。


 止める人が居ない井尻の暴走はまだつづきそうである。


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