魔王様だけがいない

なのの

第一章 はじまりは古城から

第1話 娘が出来た

 窓から心地よい朝日が差し込み、町が活発に活動する声が聞こえてくる。

 ここ、エイマスは港町ということもあって朝も日が出ない内から活発だ。

 仕事は夜だけなんて漁師が多いせいか、日中の町は雑踏とは無縁に近い。

 そんな町で暮らす俺も、幼い頃は父と同じく漁師になるものだと思っていた───


 俺の名はライオネル。

 両親が他界した今となっては、冒険者を生業としている。

 19歳彼女なし。そんな俺が何故か4歳になる娘ナタリアを預かる事になった。

 預かった理由は色々あるが、俺が広い家に一人暮らしである事が大きい。

 とはいえ、子育て経験の無い俺にとって、娘か年の離れた妹のような存在に馴染めていない状態だ。


「ナタリア、朝だぞ。起きるんだ」

 返事はないが、ナタリアは起き上がり目を擦り始めた。

 だが、挨拶の一つもない。

 俺に対して口を開くことは、未だかつて一度もない。

「朝食前に顔を洗って着替えてきなさい」

 彼女についてわかっているのは名前と年齢、身寄りがないという事だけだ。

 実は彼女を発見した状況のせいで冒険者組合から監視対象と指定されている。

 そう、ナタリアは危険人物である可能性があるのだ。

(まぁ、そう思ってる者はごく一部だけだがな)


 初めて会った時は、服は薄汚れ、長いボサボサ髪の幼女だった。

 そんな明らかに怪しい子をパーティメンバーで幼馴染のリタが率先して連れて帰ると言い出した。

 そして、町に戻ってリタがちょっと手入れすれすれば、どこかのお姫様かと思うような気品を漂わせた。

 といっても、ドレスとはほど遠い普通のものしか用意できなかったから、多分に俺の願望が含まれていたのだろう。

 最初の問題としては、リタ以外の者には口一つ開かない。

 それでは、そのリタが世話をすればいいのだが、彼女は三等聖女という立場で普段は教会に住んでいるので断られた。

 尚、三等というのは回復スキル持ちの中でも最下位となり、冒険者として生計を立てる事が多い。

 冒険者にとって回復スキル持ちが重要なのは明らかで、この稼業をしている限り教会に対して強く出れない訳だ。


 同居から3日目にして俺が出かける時、リタの実家に預ける事にした。

 そこでは3人の子供が居るので、家計的に引き取れないという事情がある。

 リタの両親については、俺からみても親のようなものだった。

 つまり、俺も世話になっていた時期があるのだから、あまり負担はかけたくない。

 平謝りで頼み込むと、俺はそそくさとリタの実家を離れた。


 手入れを依頼していた武器や防具を受け取り、冒険者組合での用事を済ませると酒場で呼び止められた。

 それはパーティメンバーのゴドウィンで、温和な盾戦士だ。いわゆるタンク役を担ってくれている。

 彼は妻子持ちでエルフのマリーネを除けばパーティーで最年長となる。

 彼は子育ての辛さを熟知しているのか、ナタリアとの関係について気にかけてくれていたのだ。

「それで?いまだに話の一つもできてないんだって?」

「ああ、他人だから仕方ないけどな」

「ま、そういう時期もあるさ。上の娘なんて、最近じゃずっとそんな感じだぞ!ワッハッハッハ」

「笑いごとじゃねーよ」

「んじゃあ、父親になってみたらどうだ。兄妹でも良いだろう。そういう安心があれば、少しは懐いてくれるかもな」

「そんな簡単にいくもんかね~・・・」


 悩んでいる所に酒が入ったのが良くなかった。

 いつの間にか日は暮れており、何杯飲んだかも覚えてない程に泥酔し、ゴドウィンに連れられて家に帰った。

「ナタリア~、帰ったぞぉ~~~」

 誰も居ない。

 俺の部屋も、元両親の部屋も、トレイにすら姿が見つからない。

 血の気が引いて焦っているのに、ゴドウィンがテーブルに俯せになって寝始めた。

「おいこら!おきろおお!!!」

 揺すってもこずいても起きないゴドウィンに苛立っていると、リタの両親の事を思い出す。

(そうだ!預けたままだった!)

 俺は足元が覚束ないながらも全力で走り、そして、リタの実家のドアを叩く。

「俺だ!開けてくれ!ナタリアを迎えに来た!」

「まったく、騒々しいね。慌ただしいのはいつまで経っても、変わらないね」

 リタの母親が呆れながらドアを開ると、後ろにはナタリアが立っていた。

「この子はアンタが帰ってくると信じて、ずっと起きてたんだよ。ほら、なんか言ってやりな」

 リタの母親のスカートをぎゅっと掴み、少し隠れていたナタリアが目に入ると、少し涙があふれだした。

「ナタリアぁあ、ごめんよおぉ、俺、ちゃんと父親になるからな・・・、だから許してくれよおお~」

 四つん這いになって頭を下げていると、ナタリアはそっと近づき、ゆっくりと俺の頭を撫で始め、ゆっくりとそして小さく呟いくように声を出す。

「どんまい」

 ナタリアの口から出た言葉が、どういう意味か理解できなかった。

 ただ、その時はナタリアが俺に向かって言葉をかけてくれた事が嬉しすぎて、ナタリアを抱きかかえ小躍りしてしたらしい。

 その直後、酔いが回ったのか、気を失って危うくナタリアを落としてしまいそうになったらしい。


 気が付けばリタの実家のリビングだった。

 日も上りきっていて、リタの両親は不在だった。

 ふと、胸元を見るとナタリアが俺にしがみつくようにして眠っていた。

「天使のようだ・・・」

 思わず漏れた言葉に、ナタリアが少し反応した。

「パパ?」

 澄んだ可愛らしい声が俺の脳天を突き抜けた。

 たった二文字の言葉に俺は感動し、気を失っていた。

 その直後、連呼された言葉が遠のく意識の中でこだまする。


 これが親バカ誕生の瞬間だった。

 後になって知った事だが、俺に話しかけなかったのは、何と呼べば良いか分からなかったかららしい。


─────────────────────────────────────

暫く別サイトでやってたので、カクヨムに書くのは久しぶりです。

それどころか長編書く事すら久しぶりです。

基本的には親バカハートフル系にしようと思っています。

感想など反応あれば非常にうれしいです。

これからもよろしくお願いいたします。

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