第四話 リーダー①

 僕がリビーラーのリーダーに選ばれた理由は何だったろう。

 市長の勘だったような気もするし、何か理由を説明されていたような気もする。

 だけど今、僕らの目の前にいるのは市長ではなく、小さな箱が集まった戦闘ヘリだった。



 ■ ■



 オペレータールームで箱が集まった兵器、通称〝箱兵器〟出現の報を受けた僕らは、自衛隊から提供を受けた緊急輸送車両に乗って、すぐに現場へと急行した。市民から寄せられた目撃情報によれば、それはいわゆる軽トラの形をしていて、郊外にあるゴミの焼却場の周辺をウロウロしているとのことだった。通報はあったものの、今のところ人的被害は出ておらず、これを速やかに撃破することが虚空蔵市民の安全に繋がるはずである。

 現場に到着した僕たちは、いちいち文句を言うケンジを無視してきびきびと降車する。

 遥か上空にはヘリコプターが一機、留まっていて、重く空気を切り裂いていた。恐らく自衛隊かどこかが情報収集でもしているのだろう。

 ところで自衛隊から提供され緊急輸送車両と言っても、装甲車ではなくコガタと呼ばれる四輪駆動車で、降りることに特別の技能は必要ないし、乗り心地も一般的なものだが、ケンジは乗り心地が悪いだの、ケツが痛いだの、面倒だなどといちいち言うのだ。僕を含めた四人は、それをすでに空気のように感じているから、はっきり言ってどうでもいいことなのだが、カイトは違う。

 ケツが痛いとケンジが言えば、「うぇーい。じゃあ俺と一緒に空気椅子しちゃう? してみちゃう? 伝説の三本勝負しちゃう?」などと絡み、一時的にケンジを大人しくさせる技を身に着けていたのである。

 僕の幼馴染ながら、とんでもない奴だなと正直に褒め称えたい。だから、僕、ヒナ、スイ、アカリの四人は安心してカイトにケンジを押し付け……対応を任せることができるのだ。

 そんな微笑ましいやりとりもありながら、目撃情報のあった場所と、焼却場の周辺を徒歩で探ってみたのだが、どうも件の軽トラもどきが見当たらない。


「ヒナ、道路に怪しい点はあったか?」


 ヒナは身長百四十八センチと六人の中で最も背が低く、そして最も目が良かった。

 道路や地面の違和感は、彼女が気付くはずだと話を振る。


「分かんない」

「分からない? あるなしじゃなくて?」

「そう、分かんない」

「何が分からない?」

「んーとね、例えばこのタイヤ痕」


 ヒナが指さした先には暗い色のアスファルトの上に、乾いた土のタイヤ痕が確かに残っていた。


「これ、箱の軽トラで間違いないと思うんだ」


 そのように言われて皆でじっくりと見れば、土の跡はところどころ正方形が残っていて、通常のタイヤ痕とはやはり異なる。


「本当だ。凄いな。それで、何が分からないんだ?」

「これね、途中で消えてるんだ。こっち来て」


 ヒナを追いかけ、丁字路を折れたすぐ先で、その特徴的なタイヤ痕は消えていた。タイヤに付着していた土がなくなったのなら、急には消えず、土の道からここに出てきたとするなら、ここのすぐ近くには未舗装の道がない。

 忽然と消えたタイヤの跡。

 普通の車であればそれも謎の一つになるのだろうが、相手は箱兵器である。タイヤ痕が消えたのではなく――

 そのとき、アカリが「はーい、リーダー、はいはいはーい。私、分かりました」とのんびり挙手をした。


「はい、アカリ君」

「はい、先生。軽トラごと消えたんだと思います」


 恐らくここにいる誰もが、その結論に辿り着いていると思うのだが、アカリがこれ以上ないくらい得意顔で言うものだから、僕としては「正解です。よく出来ました」と返す他ない。

 そうなるとケンジが「けっ」と悪態をつき、カイトとヒナは「凄い!」などと言いながらアカリに惜しみない拍手を送るのだ。訓練中に何度も見た光景ではあるが、この流れがあると、不思議と隊の雰囲気が良くなるから利用しない手はないし、アカリももしかしたら分かってやっているのかも知れなかった。

 そんな茶番の中にあってスイはいつも冷静で、今回も「箱兵器が消えたのは、用事が済んだから?」と疑問を呈す。

 気付けばヘリコプターのブレードスラップ音が、もうすぐ近くに迫っていた。

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