箱の楽園

津多 時ロウ

第一話 オモチャの戦車

 まるでブロックのオモチャか大昔のテレビゲームのように、ところどころ角ばった真っ白い戦車が、ビルの角から勢いよく飛び出してきた。

 それは急ブレーキをかけてギャリギャリとアスファルトを滑りつつ、大砲の虚ろな穴をこちらに向けてくる。


「アカリ! シールド展開!」


 僕が叫ぶように指示を出せば、アカリと呼ばれた少女は「はーい」と場違いに呑気な声を出す。

 しかし、続く動作には一切の無駄がない。

 ポニーテールを揺らしながら両手の手のひらを前に突き出し、それを左右に開く。

 すると同時、手の動きにリンクするように、僕らの前には赤みがかった半透明の壁が現れた。


 ドン! 轟音が一つ鳴る。

 けれど、砲弾は僕らに当たることなく、その壁に阻まれた。


「スイ! 履帯を狙え!」

「了解」

「ヒナは砲身を潰せ!」

「うん!」

「ケンジは僕と一緒に来い! 攪乱するぞ!」

「うっさい、命令するんじゃねえ」

「カイトはスイと俺たちの援護!」

「はいさー!」


 ドン、と再度の轟音が鳴り、やはり壁に当たって届かない。

 そのときにはもうアカリを除く五名は走り出していた。

 スイの大きなライフルから放たれた弾丸が、片側の履帯を破壊し、走行間射撃に移りかけていた戦車を無様に回転させる。その間にも、カイトのマシンガンから射出された無数の鉛玉が戦車に細かい傷を付けていく。

 ヒナ、僕、ケンジの三人はカイトに砲身を向けようとしている戦車目掛けて、四車線道路を猛然と駆ける。

 僕は途中でツインテールをはためかせるヒナを追い越し、無事なキャタピラにロングソードで切りかかった。

 当然、弾かれるが、これでいい。なぜなら――


「おらあ!」


 坊主頭に血管を浮かび上がらせたケンジの怒号と、大砲に負けないほどの轟音があたりに響き、メリケンサックを装着した拳で戦車のキャタピラを凹ませる。


「ゴッツーン!」


 直後、ヒナが高くジャンプし、自身の身長と変わらぬ大きさのハンマーを、戦車の砲身目掛けて振り下ろした。

 ガン! という音が鳴り、それはぐにゃりと曲がる。


「総員、攻撃!」


 僕の掛け声で、戦車への攻撃はいよいよ苛烈になる。

 もはや砲塔を回転させることしかできなくなっていた戦車は、なす術もなく全ての攻撃を受け入れ、最後には無数の小さな立方体となって弾けて消えた。


 ――これは、僕たち〝リビーラー〟が真実を求めて彷徨った記録である。

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