脳内ジャッジ ~スキル【審議】という訳の分からないものが俺の頭の中に住み着きました。行動は奴等に全て支配され、望んでもいないのに英雄に祭り上げられていきます~

武蔵千手

第1話 脳内にヤバい奴等が住み着きました


「あなたのスキルは【審議】です」


「……はぁっ!?」


 厳かな雰囲気が漂う神殿の中で、目の前にいる壮年の司祭様が放った言葉に俺は、驚嘆の声を張り上げた。

 

 いや、だってそうだろ。なんだよ、スキル【審議】って……訳分かんねぇよ!


 この世界には魔法やスキルなんてものがある。なんで存在しているのか? それは創造神様がこの世を創った時に決められた事なので、矮小な俺にはさっぱり理解はできない。

 

 とにかくそういう訳でこの世界では大陸や国によって多少の差異はあるが、概ね成人した十五歳前後で一人一つ、スキルを授かることができる。

 

 その場所というのが今、俺が居る場所だ。今日の誕生日でめでたく十五歳の成人を迎えた俺は、農民の守護神である豊穣と緑を司る女神フォーティリア様を祭る神殿にて、スキル授与の儀式が終わった所だ。


 正直俺は勇者だの英雄だの、男なら誰しもが憧れるであろう血湧き肉躍る冒険譚などには、一切興味が無かった。

 

 ダンジョンなんて云う危険極まりないものに挑む奴等の気がしれないし、冒険者になって様々な任務をこなす? 冗談じゃない。

 盗賊や山賊を相手にするなんて命がいくらあっても足りない。魔物なんて言葉が通じない分、もっと厄介だ。


 だから俺は、両親が成人の祝いとして購入してくれた畑を耕しながら、のんびりと悠々自適に暮らしてゆければ良いと思ってる。

 何も無い日常、退屈な日々かもしれない。でも結局そういうものが幸せなんだって、小さい頃から両親を見て感じていた事だ。



 もちろん俺は健全な年頃の男だ。冒険には興味はないが、女の子には興味がある。気が優しくて、子供好きで、料理は……別に出来なくてもいい。俺が出来るしな、うん。


 そんな子と結婚して、子供は……まあ神様の祝福に任せて一緒に日々畑を耕しながら、そこそこの暮らしをし、そこそこの幸せを感じながら妻や子供、孫に看取られて一生を終える。

 

 素晴らしいだろ? これが俺の描いた人生のスローライフプランだ。


 だからスキルは、農民関連のものが授かれば万々歳だったのだが……。


「司祭様! 審議って何ですか!?」


「うーむ……言葉から連想するに、裁判で使うスキルではないでしょうか?」


「さ、裁判!? いや俺、文字の読み書きと算術は両親から教えられて出来ますけど、法律の勉強なんて一切してませんよっ!?」


「いや、それは私に言われても困るのですが……」


 司祭様が困り顔で言う、当然だろう。俺も逆の立場だったら言葉を濁すしかない。 


「そ、そうですよね……失礼しました」


「いえ、どうぞ落胆なさらずに。神は無用なスキルをお与えにはなりません。きっとそのスキルもあなたの役に立つ時が来るでしょう」


「はい、有り難うございました。えーと、それじゃ寄進の方を……」


「ありがとうございます。御心のままに……」

 

 この儀式、タダという訳ではない。貨幣による寄進が行われており、農民である俺も例外ではない。金額は幾らでも構わないとされているが、身分が上がるにつれそれに見合った金額を寄進しないと恥だと云われている。

 ただし浮浪者や、孤児施設上がりの人は無料であるのが通例だ。

 

 余談だが、物品による寄進は昔は受けていたようだが、今はその慣習はなくなった。腐った物や明らかにゴミと思われる物品を置いていく不届き物が相次いだから、らしい。

 ……罰当たりすぎる。俺だったら絶対そんな事はせんぞ。


 そう思いながら、ズボンのポケットに入れた財布を取り出し、幾らにしようか逡巡しゅんじゅんしているとは前触れも無く、突然俺の脳内へ白昼夢のように舞い降りたのだ……そう、これが全ての始まりだとは、この時の俺は知る由もなかった。











【審議中】(′・ω)(′・ω・)(・ω・`)(ω・`)






「ファッ!!!???」


「ど、どうなされました!?」


「あ、いえ、その、あの……」


 突如脳内に現れたその妙なに対し俺は、司祭様にどう説明して良いのか分からずに、しどろもどろになる。

 

 これは顔なのか!? 審議中ってなんだ!? 何が起こっている!!!????

 俺の頭はおかしくなってしまったのか!?

 

 そんな事を考え混乱の極みに達しているとソレは突如、新たな変化を俺に見せてきたのだ……もちろん脳内で。


【判決】(´·ω·`)(´·ω·`)(´·ω·`)(´·ω·`)

     ⊃[お財布まるごと]⊂


「ブゥッフォッ!!!!????」


「ウワァッ!?」


 思わず目の前の司祭様に吹き出した唾を吐きかけてしまったが、俺は悪くない。多分。

 

 何だ、お財布まるごとって……これじゃあまるで俺が、司祭様に財布ごと寄進するみたいじゃないか! 家にまだ少しあるとはいえ、ほぼ俺の全財産だぞ?


 馬鹿馬鹿しい、そう思ってこの脳内のへんちくりんな奴等を無視し、唾を吐きかけたお詫びも兼ねて金貨一枚を渡そうとした瞬間、俺の自由意思に反して身体と口は予想外な行動を取り出す。


「すみません司祭様、お詫びにこれ財布ごと全部寄進します!」


 ちょっと待て! どういう事だ!?

 ハンカチで俺の唾を必死に拭き取っていた司祭様が、差し出した財布をゆっくりと手に取る。


「えーと、宜しいのですか?」


「はい、もちろんです!」


 宜しくねぇよ!? 身体の自由が効かないんだけど!? 何『もちろんです!』とかお目々キラッキラッで言っちゃてんの、俺は?


「ありがとうございます。あなたに女神フォーティリア様の祝福が御座いますように」


 祝福どころか、呪いみたいな感じになってますけどっ!?

 

 そんな俺の心の叫びも空しく、司祭様に一礼をすると足が勝手に動き拝殿を後にする。

 

 神殿の出口を跨いだ瞬間にようやく身体が自由になり解放されたのだが、もはや色々な事が起きすぎていて、身も心も疲労困憊こんぱいだった。


_____________________

お読みいただき、ありがとうございます!

この小説は中編となります。

 



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