明日、君の好きなものを 知るために①
「眠れないのか」
…… という言葉とともに、目の前にウーロン茶の入ったコップが差し出された。
時刻は深夜3時。
21時頃に就寝するという相手は、6時間後の3時きっかりに起床して何をするのかと言うと、さんぽとのことだった。真っ暗ですけど。日の出にだって1時間歩いても出会えない。
だが、やはり時間通り起きてきた彼は、おもむろに冷蔵庫からお茶のポットを取り出してコップに注ぎ出した。
自身が飲むために注いだものだとばかり思ってたので、驚いて彼を見上げれば、きょとんとした表情が見下ろしている。
そういう顔をされると、最初に聞いた年齢とは思えないほど、若く(というか幼く)見えるのだが……
このハナガタミに棲息している年長者はお兄ちゃんといい親分といい、軒並み年齢詐欺なのか。
あ、目の前の彼の相棒が、年相応というか、……向こうは向こうで年相応以上に見えるんだったな。やっぱり年齢詐欺だ。
「Gracias」
なんて思いながら、礼を言ってお茶を受け取った。
『隊長』と仲間に呼ばれる彼は、それを見て小さく笑うと、今度は自分の分のコップにお茶を注いだ。
「眠れないわけじゃなくて、」
そして、すとん、と俺の隣に座るので、つむじを見下ろしながら続ける。
うわ隣に座られるとほんとにびっくりするほど小さい。トモカ嬢とほとんど変わらない、と思ったけどそういやジンくんと身長一緒だったわ。
ジンくんはもっと小さい印象あった。掌サイズくらいのイメージある。
「眠くならない、みたいな」
「不眠症か」
すっぱりと返してくる。
「たしかに不眠っちゃ不眠だが」
不都合はないよ、と俺は笑った。
実際、これまで必要なときに不覚に眠くなったりはしない。逆に変に睡眠をとってしまうと、起き抜けが非常に悪いのだ。
彼は「そうか」と素直に頷いた。
「ならば問題はないのだが。
俺が睡眠をとらないと、たまに変なところで寝てしまう方だから、あまり不都合がないのが想像つかなくてな」
彼はこんな見た目でも軍属だし、呼ばれている通り、一隊の隊長である。
傍にいる仲間(部下なのかな?)がやたら喧しい反動もあって、どちらかというと物静かなで大人びた(というか実際大人だし)印象が強いわけだが。
変なところで寝てしまうと言われると、途端に容易に想像もできるから不思議だ。
「道ばたとかで?」
「さすがにそれは」
え、とやや引かれたような様子でこちらを見上げられた。変なところと言うから……
彼と縦が同サイズのわんこくんは、よく廊下で( ˘ω˘)スヤァとしている。
夏の暑いときなんかは涼しくて良いのだそうだ。サイズがコンパクトなのでみんなそっと避けて歩くのだが、夜ノちゃんが来てからは廊下で寝ることも少なくなったかもしれない。
だがまあ、どうやら彼はそうではなかったようで。
「中庭で」
俺が首を傾げると、彼は一口お茶を飲んでから答えた。
「猫がいると、一緒に寝てしまう」
「それ、結構よく見るけど」
たまにとは。
俺が返すと、彼は、あれ?と首を傾げる。あ、この隊長ちゃん、割と緩そうだぞ。
あの4人の中で、さすが隊長クラスは落ち着いているのだなと思っていたけど、この人は単にのんびりしてるだけかもしれない。
「あの、白い人と」
「アルパカかな」
小さく口元を綻ばせて、彼は言った。
そうなのだ、なぜか彼らは、あの白い人をアルパカと呼んでるのだが、白くてふわふわしてそうなところくらいしか、かの動物と共通点は無いぞ。アルパカ(動物の方のね)は、あんなカラーだけどラクダの仲間だから、気性荒いし。
どちらかというとグレートピレニーズとか、そういう大型犬のイメージなんだが。
「あいつも昼寝するの好きだからな」
ふふ、と彼は笑う。
で、彼とそのアルパカくんは、よく一緒に中庭で寝ているのを見る。
一緒にとは言うものの、たぶん、この彼が先に寝ていて、アルパカくんが後からその横に転がるようだ。
だから本当に、大型犬がトコトコやってきて傍らに寝そべるみたいな、そんな雰囲気があるのだった。
まあたしかに、寝ることが好きなことは好きなのだろうけど、
横の彼に言うとあれなのでこれは心にしまっておくのだけど、大型犬が小型犬を気にかけて周りをウロウロしているような、そんな空気なんだよな。
「もう少し朝まで寝ていれば?
さんぽはそれからでもいいんじゃない?」
えーとなんだっけ、昼寝をすることは身体上良いことと聞いたことがあるけど、さすがにこの時間に起きるくらいなら朝まで寝ていればいいのに、と思ったのだ。
すると、彼は「そうだなあ」とのんびり頷いた。
「それこそ、習慣なんだろうな。
昼間は部下の訓練に付き合うから、早朝に自分の訓練をこなしてしまうんだ。あと一応隊長職だから、細かい書類整理なんかもあるし。
夜よりも朝の方が、俺は捗るから」
「なるほどね」
緩そうな空気を持っているので、油断すると彼が隊長だというのを忘れてしまいそうになる。
さんぽ、とまとめ過ぎだったが(なぜそれでまとめたのか)、ちゃんと仕事をしているのだ。
「じゃあ、いつもお仕事がんばってる隊長ちゃんに、今日の夜は好きなものを作ってあげよう」
少し唐突だったか、そう言って笑いかけた俺を、彼は不思議そうに見上げた。
いや、俺も今、事の経緯を思い出したのだが。
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