第2話 新たな扉

定時制高校への道は、美咲にとって未知との遭遇だった。新しい制服を着て、未知の場所へと足を踏み入れるその瞬間、彼女の心は緊張でいっぱいになった。だが、その緊張の中には、わずかながらも期待の光が混じっていた。


校門をくぐると、様々な年齢や背景を持つ生徒たちが自分の道を歩いているのが見えた。定時制高校は、通常の高校とは異なる多様性を持っていた。ここでは、各自がそれぞれの事情を抱えながらも、前に進もうとしている。


初日の授業、美咲は後ろの席に静かに座った。周りを見渡すと、彼女と同じように緊張している生徒もいれば、リラックスしている生徒もいた。先生は、穏やかな口調で授業を始め、「ここでは、みんなが自分自身でいることができる。大切なのは、お互いを尊重し合うことだ」と話した。


その言葉が美咲の心に柔らかく響いた。ここでは、自分が自分らしくいられるかもしれない。そんな希望が、彼女の中で静かに芽生え始めた。


昼休みになると、一人の女の子が美咲のところに近づいてきた。「こんにちは、私はアキ。あなたも新しい生徒だよね?一緒に昼食を食べない?」美咲は、アキの優しい微笑みに安心感を覚えた。少し戸惑いながらも、彼女はアキの誘いを受け入れた。


食堂での会話は、美咲にとって新鮮な体験だった。アキは、美咲の吃音に気づいても全く気にする様子がなく、むしろ彼女が話しやすいように配慮してくれた。その優しさが、美咲の心を温かくした。


放課後、アキは美咲に学校の小さな庭を見せてくれた。「ここは私のお気に入りの場所。静かで、心が落ち着くんだ」とアキが言った。二人は、そこで沈黙の中で過ごした。言葉を交わさなくても、何かが深く通じ合っているような感覚が美咲を包んだ。


その日、美咲は新しい友情の始まりを感じながら、家路についた。定時制高校の一日目は、彼女にとって予想外の温かさと受容をもたらしてくれた。新たな扉が開かれた瞬間、美咲は自分の中に変化が起き始めていることを感じていた。帰宅する道すがら、彼女は少しだけ前向きな気持ちでいっぱいになった。美咲にとって、これはまさに新たな始まりの日だった。

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