30話 愛する我が子

ロレッタ視点


 交流会が終わりようやく落ち着いてきた。カール様は約束通りバーバラが育てた作物と、カトリーヌが作った魔法薬を大量に購入してくれた。


 どちらも好評で、定期的に買う契約までしてくれた。今後もカール様とは仲良くしていきたい。でも……


「はぁ〜 疲れた〜」


 私は大きく伸びをすると、自分の部屋のベットにダイブした。ここ最近、ずっと働き続けていたせいか、肩と腰が痛い。


「にゃぁ〜お」


 ベットでゴロゴロしていると、白猫のシャーロットが隣にやって来た。頭を撫でてあげると気持ちよさそうに喉を鳴らす。この子と出会ったのが何だかとても昔の事に思える。


 前世で猫を助けようとしてトラックに跳ねられて、ロレッタという令嬢に生まれ変わった時は本当に驚いた。


 その後は本当に様々な事が起きた。バーバラに濡れ衣を着せられたり、浮気者の元第一王子のアランを問い詰めたり、厄龍を倒したりもした。王妃になってからも色々あって大変だったなぁ〜


「これからは、貴方とゴロゴロする時間をもっと作るからね〜」


 私はシャーロットを抱きしめると、フワフワの毛並みに顔を埋めてみた。それにしてもやけに体が重い、それに気分もあまり良くない……空気の入れ替えでもしようかな?


 私はシャーロットを横に置くと、ベットから起き上がって窓を開けようとした。けど、体を起こした瞬間、激しい目眩に襲われた。


「………っ‼︎ 何これ……」


 ぐらりと世界が反転して平衡感覚がおかしくなる。次に目が覚めた時は医務室のベットの上だった。


「よかった……気がついたんだね」


 隣にはクリフトが心配そうな表情で私の手を握り締めていた。


「あれ? 私どうして……」


「たまたま様子を見に行ったら、倒れていたんだ。それですぐに運んだんだよ」


 そうだった、確か空気の入れ替えをしようとしたら急に目眩がしてそのまま倒れて……やばい、思い出したらまた気分が悪くなってきた。


「ロレッタ、大丈夫か!? すぐお医者様を呼んでくるよ!」


 クリフトはそういうと、部屋を飛び出して行った。




* * *


 街で評判のお医者様が来ると、早速私の診断が始まった。


「なるほど、目眩と吐き気……このような症状は初めてですか?」


「はい、初めてです」


「何か心当たりは?」


「うん……最近忙しくて睡眠時間が減った事かしら?」


「それは良くないですね。所で、最後に月のものが来たのはいつですか?」


「えっ? そういえば……今月はまだですね……最後に来たのは2ヶ月前かしら?」


「なるほど……ロレッタ王妃、おめでとうございます。間違いなくご妊娠です」


「えっ、わっ私が!?」


 お医者様からの予想外の診断に上手く理解が追いつかない。私のお腹の中にクリフトの赤ちゃんがいるの!?


「ほっ、本当ですか?」


「はい、おそらく2ヶ月目に入ったと思われます。ロレッタ王妃、もうお一人のお体ではありませんので、どうがご無理だけはしないで下さい」


「私が妊娠……」


 私はまだ膨らんでいないお腹を優しく撫でてみた。ここに私たちの赤ちゃんが眠っている。そう思うと愛おしさが込み上げてきて幸せな気持ちになる。


 とりあえず診断が終わったので、クリフトも招き入れた。


「どうだったロレッタ? もしかして深刻な病が見つかったんじゃ……」


 クリフトは今にも泣き出しそうな顔で私の手を握る。本当に心配性ねぇ……


「大丈夫、安心して、私……妊娠したみたい!」


「えっ、なっ何だって!?」


 クリフトは理解の追いついていない表情でポカーンとする。ふふっ、まるでさっきの私と同じ反応ね。


「本当かそれは!?」


「えぇ、本当よ」


「そうか、それは凄い! 今日は最高の記念日だね!」


 クリフトは私の背中に腕を回すと自分の方に引き寄せた。そして顔を近づけて私の唇に……


「こほん!」


「「はっ‼︎」」


 お医者様が気まずそうに視線を逸らして軽く咳き込む。危ない、危ない、2人だけの世界に行ってしまう所だった……


「仲が良いのはよろしい事ですが、そういうのは誰も見ていない所でお願いします」


「「すっ、すみません……」」


 その後は、これからの生活で気をつける事を2人で真剣に聞いた。そしてお医者様がお帰りになると、互いに抱きしめて笑いあった。




* * *


 クリフトの計らいで私の仕事は出来るだけ減らしてもらった。日に日にお腹が膨らんでいき、たまに大きく動く事もある。


 そんなある日、キリキリとお腹に痛みが走った。最初は我慢できたが、次第に強まっていき、今まで経験した事のない激痛が訪れた。


 すぐに私は医務室に運ばれた。周期的に来る激痛に耐えながら、どうにか呼吸を整えて力を込めた。何時間にも及ぶ激痛の波は部屋に響く鳴き声と共に収まった。


「おめでとうございますロレッタ王妃、元気な男の子ですよ!」


 白い布に包まれた赤ちゃんは元気よく泣き声を上げる。私は産まれたばかりの我が子を慎重に受け取った。ずっしりとした生命の重みを感じる。


「ロレッタ! 産まれたんだな!」


 ずっと外で待っていてくれたクリフトは、赤ちゃんの鳴き声を聞くと部屋に飛び込んで来た。


「うん、可愛いわね、目元はクリフトに似てるかしら?」


「そうだね、髪の色はロレッタと同じ金色だね」


「ふふっ、そうねぇ、クリフト、この子の名前なんだけど……フィリップはどうかしら?」


「うん、よく似合ってるよ!」


「ですって、フィリップ」


 フィリップは私の腕の中でスヤスヤと眠っている。この子が私たちの赤ちゃんなんだと思うと、感慨深さと愛おしさが湧いてくる。


「これからは3人で支え合って生きていこうな」


「えぇ、そうね」


 私とクリフトはフィリップの小さな手を繋いだ。しかし、そう遠くない日に今度は可愛らしい女の子が産まれてくるのだが、当然、この時の私が知るよしもなかった。

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