5話 悪魔vsロレッタ

ロレッタ視点


「そんなぁ……綺麗な街が台無しだよ……」


 現場に辿りつくと、歴史ある建物が瓦礫の山と成り果てていた。一体誰がこんな酷いことを!?


「姉さんあれを見てください!」


 子分の1人が指を示した先には、人の形をした悪魔? が飛んでいた。背中には巨大な黒い翼が生えていて、明らかに邪悪なオーラを纏っている。


 すかさずユーゴは下っ端に指示を出した。


「お前ら! ロレッタ姉さんには指一本触れさせるな! 全力で時間を稼げ!」


 ユーゴの命令に従って、下っ端達は四方に散って火の魔法を放った。


「姉さん、俺たちが時間を稼ぎます。その隙に奴に特大の一撃を打ちかましてやって下さい!」


「分かったわ。ありがとう」


 私はアニメや小説の知識を頼りにそれっぽく魔力を手に集中させてみた。なんだか手の平が熱くなる。これならいけるかも!


「みんな、どいて! ファイヤーボール!」


 太陽の様な巨大な火の玉が一直線に向かって飛んでいく。全力で放った一撃は悪魔に直撃して大炎上した。でも流石に腕が痺れる。魔力を使いすぎたのかな?


「グオォォォォぉ!!」


 悪魔は叫び声を上げると、のたうち回って必死に火を止めようとした。そのせいで建物に衝突して綺麗な街並みがまた壊されていく。


「………って、危ない!」


 崩れていく建物の下に小さな女の子が泣いているのが見えた。このままだと潰されてしまう! 私は悪魔に背を向けると、無我夢中で駆け出した。


(あれ? そういえば前世で死んだ時も猫を助けようとしてこんな風に走っていたよね?)


 あの時は少し喧嘩が強いだけだった。でも今は違う。今の私は魔法だって使えるロレッタお嬢様なのよ! 絶対に助けてみせる!


「エアーボール!」


 圧縮された空気の塊が女の子に降り注いで来た瓦礫を吹き飛ばす。よかった……間に合った……


「姉さん危ないです!」


 ほっとしたのも束の間、悪魔が投げ飛ばした瓦礫が私の背後にあった家に直撃して崩壊し始めた。やばい巻き込まれる!


 ダイブをする様に死に物狂いで回避した事でペシャンコにはならずにすんだ。でも足が重い……それもそのはず私の右足は瓦礫で押し潰されていた。


「待っていてお姉ちゃん! 今助けるね!」


 さっき助けた女の子が懸命に瓦礫をどかしてくれる。だけど全然抜けない……


「姉さん! 今助けます!」


 子分達も手伝ってくれたけど、今はあの悪魔をどうにかしないと!


「ロレッタ!!!!!」


 悪魔は私の名前を叫びながら近づいてくる。どうしてあいつは私を狙っているの? 悪魔の顔をよく見ると、少しだけバーバラに似ている気がする。まさか私に言い負かされたのを恨んであんな風に?


「多分、あの悪魔は私の事を狙ってるわ! あんた達はこの女の子を連れて逃げて!」


「嫌です! 姉さんを置いてくなんて出来ません!」


「いいから逃げなさい! 早くして!」


 私の剣幕に押されて子分たちは渋々頷くと、女の子を連れて逃げ出した。せめてあの子だけは助けたい! 私のせいであの子に何かあったらいけない!


 悪魔は子分たちには見向きもしないで私を見下ろす。やっぱり狙われているのは私か……


「ねぇ……貴方はバーバラなの?」


「えぇ……そうよ」


 悪魔に成り果てたバーバラが右手をかざすと、バチバチと音を立てて雷が発生した。あんなものを受けたらとても助からない……まだ距離は少しあるのに私の髪の毛は電気に吸い寄せられて上に伸びていく。


「さぁ、これで終わりよ! 苦しみながら死になさい!」


「…………っ‼︎」


 いよいよ死を覚悟した時だった、視界の端に黒い影がすごい勢いで飛んでくるのが見えた。黒い影は銀色に輝く剣を抜くと悪魔の翼を切り落とす。


「ぎゃぁああああ!!! 何をするの!!」


 悪魔は顔を歪ませて悶え苦しむ。その隙に黒い影は素早く後ろに回り込むと、首チョップをした。早すぎる手刀……私じゃないと見逃しちゃうね……


 バーバラは元の人の形に戻ると、電池の切れたオモチャの様にプツッと静かになった。そして鎧を身に纏った騎士に連れて行かれる。えっと……助かったのかな?


「お嬢さん、今助けますね!」


 黒い影はくるりと振り返ると私と目があった。その瞬間、ドキッと鼓動が昂った。整った顔立ちに、細身だけど鍛えられた体。そして銀色の短く切り揃えた髪が良く似合っている。やばい、めっちゃイケメンじゃん!


「お怪我をされている様ですね、よく見せて下さい」


 イケメンの男性は瓦礫をどかすと、慣れた手つきで手当をしてくれた。やばい! 顔が近い! それに大人の男性の匂いがする。喧嘩一筋だった私には刺激が強すぎる……


「あっ、えっと、ありがとうございます」


「お礼を言うのは僕の方です。街を救っていただきありがとうございました!」


「でっ、でも私が下手に悪魔を止めようとしたせいで街がこんな事に……それに怪我人もいる様です……」


「自分を責めないでください。貴方がいなければ今頃街はもっと酷い事になっていました。国を代表してお礼申し上げます」


 イケメンさんは目を細めて優しく微笑む。ダメだ……これ以上一緒にいると命が何個あっても足りなさそうだ。それと国を代表してとは一体?


「申し遅れました……僕の名前はクリフト。この国の第二王子をしています」


「えっ、王子様なの!?」


 クリフト様は少し恥ずかしそうに頷くと怪我をした住民の保護に向かった。王子様……そりゃかっこいいわけだ……

 

「ロレッタ、無事ですか?」


 クリフト様の後ろ姿をうっとりと眺めていると、カトリーヌが心配そうな表情で走って来た。


「足を痛めたのですか?」


「うん……でも大したことないよ。それに手当もしてもらったし」


「ダメです。ちゃんと見せて下さい!」


 普段は大人しいカトリーヌが珍しく大声を出す。そして私の足に手を当てるとブツブツと呪文を唱えた。すると痛みがスゥーッと消えて軽くなった気がする。


「凄い! カトリーヌは回復の魔法が使えるの?」


「はい、少しだけですが……」


「じゃあ私はもう大丈夫だから他の人を助けてあげて」


「う〜ん……出来ればそうしたいのですが、私の魔力量が少ないせいでこれ以上は使えません……」


 カトリーヌはしょんぼりと肩を落とすと、小さな声で「ごめんなさい……」っと謝った。でもちょっと待って……魔力が足りないのなら……


「ねぇ、カトリーヌ、私の魔力を使って。魔力量には自信があるから!」


 私はカトリーヌの手を繋ぐと魔力を送るイメージをしてみた。深く息を吐くたびに力が抜けていく気がする。こんな感じでいいのかな?


「凄いですロレッタ! これほどの魔力を感じたのは初めてです。今ならあれが出来るかも!」


 カトリーヌは胸の前で手を組むと、祈る様に複雑な呪文を唱えた。


「傷ついた者たちを癒やせ、ヒーリングベール!」


 カトリーヌを中心に温かい風が町中を駆け巡り、傷ついた人々を優しく包み込む。瞬く間に皆んなの怪我が直っていった。これは凄い!


「流石カトリーn……」


 あれ? なんだろう? 上手く呂律が回らない。それに目が回る。おかしいな……


「ロレッタ? どうしたの? しっかりして下さい!」


 異変に気付いたカトリーヌが心配そうに私の顔を覗く。「大丈夫だよ」っと言おうとしたけど言葉が出てこない。うぅ……頭が痛い……それに耳鳴りが酷い……


「ロレッタ殿? 一体何が?」


 今度はクリフト様の声がした。私は頭を抑えると、崩れ落ちる様に倒れて意識を手放した。

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