第35話 海の使い

 さて、都市ではいろいろあったが無事に学園へと帰還した。帰還すると部屋には、ロッテとキルスが膝を下ろし、頭を下げていた。



「団長、今回動きが遅かったのは敵の天神人を誘き出す為だったのですね。わたくしも動かなくて正解でしたわ。初めから敵の実験場を突き止め消して仕舞えば、天神人は訪れませんとも」

「あーしも分かってたよ。泳がせて、分かっていても放置してたのは上位階級が来るのを待ってたって。団長を相手も警戒してるしね、実験都市はノーマークであると思わせて叩く……やるねー」




 はい、毎回勝手に事実を誇張して誤認してくれる仲間が俺には居るよ!!!



「ゼロ様は全てを分かっておいででした。流石ですね。全てはゼロ様の手の上なのです。聖神アルカディアを一番信仰してるのがゼロ様ですから」




 レイナも調子に乗って適当なことを言ってしまうのだ、こいつは俺のフォローをしてくれてるけど盛りすぎないように注意して欲しいところだ。




「全てはあのお方の思し召すままに」




 この一言で俺は締めた。これ以上何かを言っても意味はないだろうし、俺は言うことはできない。全部適当だし、あのお方は居ないし、信仰などない。



 これ以上は俺は語らないと言うことで全ては終わった。




 最近、革命団は歴史について更に知見を深めているとか、六大神も調べ続けていると言うけど、何も出ないだろうに。神なんて居ないのに。





「あ、学園の宿題そろそろやらないと」




 ロッテとキルスが帰った後に、適当に学園の宿題をしていると部屋のドアをコンコンと叩く音が聞こえた。そこには俺の黒鳥が手紙を咥えて、待っていた。




「お、どうした」




 黒鳥からの手紙を貰うと、送り主がパパンであると分かった。パパンって有名だよな。この間もパパン絡みだったし。




「おや、旦那様からの手紙ですか」

「そそ。なになに?」

「読んであげますよ。えー、ゼロよ、この手紙が無事届いたことを嬉しく思う」



 パパンって絶対カッコつけて手紙出すよな



「本題に入る。イルマと言う私の同級生がいる。現在、とある海辺の屋敷にて歴史研究を行う考古学者になっているのだが、最近面白い本を手に入れたそうだ。著者は芥川龍太郎。以上だ」

「パパン、最高の父親だよ。さっさと回収するぞ」

「えぇ、あ、あと。お前誕生日いつだったか? と書いてます」

「パパンって誕生日近づくと家族に誕生日きくんだよ。自分の祝って欲しいから」

「可愛いところありますね」





 さて、早速パパンの同級生であるイルマという人のところに向かおうとしよう。すぐに準備を開始して、俺は部屋を飛び出た。





──はい、着いた



 走っていたら、すぐに着くことができた。レイナも俺に走りながらついてきた。



「海辺旅行とはワクワクしますね!」

「遊びじゃないんだぞ」

「水着持ってきちゃいました」

「あっそ」

「ふふふ、こんな美女のナイスボディですからね本心では見たいんでしょ? んん?」



 うざいから置いておきた方がよかっただろうか。荷物たくさん持ってきているんだがこいつ……



 何しにきたんだよ




 海辺に存在している、とある一軒家を見つけてそこの扉を叩いた。二回ほど叩くと中から声がする



「どうぞ」



 中に入ると、超小さい女の子がいた。小学生くらいの子だ、パパンの同級生が住んでいると聞いていたのだが、その娘さんとかだろうか




「あら、怪訝な顔してるじゃない」

「お母さんはいるかな?」

「こんな形だけど、貴方のお父さんと同級生よ、ゼロ君」

「え?」



 

 小学生かと思ったけど



「お若いですね」

「あら嬉しい」




 こんなに若返れるなんて、ママンが聞いたら殺到して色々と聞き込みを始めそうな人だな。背も小さいし、顔も小さい。


 茶髪ロールな髪型の女の子、いや女性か



「では、貴方がイルマさん」

「そうよ、ゼロ君。あのゴルザ君がわざわざ連絡をよこすなんて珍しいわね」

「そうなんですか」

「えぇ、息子に本を渡してあげて欲しいんだなんて。こんなのをわざわざ頼むなんて……よほどのことね」




 そう言って彼女は一冊の本を出した。それは芥川龍太郎、つまりは俺が厨二時代に適当に描いた本だ。


 今では適当に書いた神の真実が、ガチで考察されて高値で取引されている。


 恥ずかしいので回収を俺は目的としている!!



 これは必ず、全て回収する




「ゼロ様! ゼロ様! 外が晴れてますよ! 水着で一緒に泳ぎましょ!」




 こいつは本当に呑気で……てか元を辿ればこいつのせいじゃね? 俺の本を売ったのはレイナでは




「きゃ! 急に尻をつままないでください!!」

「お前が悪い」

「神ですよ!? こっちは!?」




 さて、いい加減イルマさんから本をもらおうか。俺のストレス発散は済んだことだし。



「さて、本をあげたい……と言いたい所だけどちょっと待って貰うわ」

「なぜ?」

「少し使うのよ。この本、ちょっと興味深いの」



 興味深いも何も、俺が適当に書いた本だから返して欲しいんだけど、まぁ、恥ずかしいから言えないけどさ。



「そんな大した本じゃないですよ」

「そんなことないわ」



 どこが!?



「ここ、この海は嘗ての六大神の一つ。海王神ブルーアイズと聖神が戦った場所なのよ」

「いやー、ゼロ様ここは良い海ですねー」




 何言ってるんだ? この人は……やっぱりパパンって厨二病だから、その関連の人も厨二なんだろうな。


 そして、レイナは安定のマイペース。既に水着に着替えてるし。胸と尻はデカい、身長もでかい、態度もデカい。それがこいつだ。




「嘗て、この海には大きな大都市があったと言われているわ。それを潰したのが邪神アルカディアとされているけど、この本には海王神こそ大都市を滅ぼそうとしたと」

「適当に書かれただけでは?」

「この記述、ゴルザ君が書いていた本の情報に似ている。彼神話に詳しかったの、誰よりもね」




 そりゃ、パパンの書斎にあった本とかを使って書いてるからな。元ネタが同じだからな。


 パパンも俺も適当に厨二でやってるだけだろ、絶対に神様とかは居ないだろうしさ。パパンも神様が居ないって分かってるから、神話とか誰にも言わなかっただろうしさ。



「暫くしたら、貴方にあげるわ。だから待ってもらおうかしら」

「まぁ、良いですけど」

「それとこれをタダであげるわけにもいかないわ。これ、今すごい高値で取引されているみたいだし」




 っち、この人意外と足元見てくるな。まぁ、億の代物をタダでくれるだけでもありがたいか。



「さて、ゼロ君、レイナちゃん。私の調査に付き合ってもらおうかしら」

「なんの調査ですか」

「深海……よ」

「深海……魚でも取りますか?」

「そんなわけないでしょ。遥か3000年前、神々の争いがあった時に存在する都市。それは海の底。それを調査するの」




 海底都市ねぇ、神様と関係あると考えているんだろうけど。この人もパパンみたいに拗らせてるんだろう。しかし、パパンは厨二は卒業してるから、パパンの方が大人だな。




「ゼロ様、オイル塗ってください。オイル! 前と後ろと上と下、全部!」




 馬鹿は放っておいて。この人から本を貰わないことには何も始まらない。仕方ないから手伝うとするか。



 深海に行くのか。前世と今世で合わせて三回くらい行ったことあるな




「私一人だと、寂しかったのよ。ただ、海底は魔法がないと死んでしまうのよ。私がかけてあげるわ」

「特級魔法使えるんですね」

「それくらいできるわ」




 流石はパパンの知り合い。特級クラスの魔法は使えて当たり前だろうな。




「深海に来て貰うわよ」

「はい」

「──それはやめておいた方がいいかと」



 

 俺とレイナ、イルマさんの計三人がこの部屋で主に話をしていた。しかし、ずっと話さない男が一人居るなって思っていた。




「誰! あなた!」




 イルマさんが驚いている。あ、彼氏か何かと思っていたが知り合いでもなんでもないらしい。


 見たところ、ちょっと怪しい風貌のイケメンだ。海藻みたいな髪型である。



「まもなく、それは目覚める。遥かなる時を超えて……神は目覚めるのだ。全てを海に帰すために」



 なーに言ってるんだこの人? レイナも変な人だとビビってしまったのか俺の背中に抱きついている。無駄にデカい乳が当たってるな。




「もう一度聞くわ、誰? 勝手に人の家に入んな、殺すわよ」

「殺せないですよ。わたしは。母なる海の使いなのだから」

「……海の使いですって」

「えぇ、近しい滅亡に抗う哀れな人よ。受け入れるべきですよ。もう、破滅するしかない、かつての海底都市のように」




 意味深なことを言っている男の人。俺も現在進行形で代行者をしているからなぁ。


 外から見るとこんな感じなんだろう。うわぁ、痛い痛い!!


 なんか含みをもたしているだけで、それだけなんだよ。



 こいつも厨二か!!




「やはり、世界は滅亡に向かっているのね……でもね、貴方は、貴方達は甘いわ。人間はそんなにやわじゃない。争い続けるわ」

「無駄なこと。やはり人間とは愚かなのですね。ならば、来るといい。滅びと母なる神の奇跡をお見せします」

「……」

「海底の底で。お待ちします。お待ちいたします」




 変わった話し方だな。俺も昔、だってばよ! みたいな口調で話していたのを思い出した。



 変な厨二男は捨て台詞を吐いて転移魔法で消えた。




「ゼロ君、どうやら面倒になってきたけど。大丈夫かしら?」

「まぁ、海底に行って本がもらえるなら」

「ふふ、あれを見て飄々とできるなんて流石はゴルザ君の息子ね。メイドさんも大丈夫かしら?」

「ひゃ、ひゃい!!」

「びびってるわね」




 こいつ、本当に気分屋なんだな。急にビクビクしてずっと服の裾を掴んでいるんだが。



「ぜ、ゼロ様、ちょっとびっくりして漏らしちゃいました……」

「海底に入るから、どうせ濡れる」

「て、適当ですね! もっと心配してください!」

「はいはい」

「ゼロ様は飄々としてますけど、あの存在やばいですって! きっと悪魔でしょう、しかも上位存在! 神に近いですって!」




 神に近いとか。あんなの生後三日くらいで倒せたであろうレベルだろ。


 俺の生後三日で倒せるレベルなのが、神に近いわけがない。神っていうのはもっと人の領域では及ばない存在だろうに。



 そんなこんなで海底に出発することにした。

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