第5話 配信スタート!

「じゃあ私はこれで失礼するよ。頑張ってね生人君」


 さっき言ってた仕事に向かうのか、美咲さんは僕に微笑みを向け手を振りながら退室していった。


「行きましょうか。準備はよろしいですか?」


 峰山さんもランストを取り出しダンジョンに潜る準備をし始める。


「いやその前に配信の設定をしないと」

「そうでしたね」


 DOでもそれ以外の人でも、ダンジョンに潜る際にはランストの機能により配信を行うことが義務付けられている。その理由は大きく分けて二つある。

 

 一つ目は他国への後ろめたい事は行なっていないというアピールである。ダンジョン内は完全に隔離された空間である。仮に配信義務がなかったらそこで兵器の実験をいくらでも隠匿できてしまうのだ。

 二つ目に一般人へのダンジョンへの理解を深めるため、そしてダンジョン関連の仕事へ興味を湧かせるための宣伝が目的である。実際に配信がきっかけでそういう仕事に就いた人も一定数いる。


「今回の配信は……」


 峰山さんがランストを操作して配信画面の設定をしている。僕自身も設定をしないといけないため、いつも通り設定をし始める。


「ん? そんなサムネとタイトルじゃダメだよ」


 僕はチラリと見えた、峰山さんが設定した配信画面にダメ出しをした。

 タイトルは堅苦しいもので、タグすら付けていない。サムネはよくあるフリー素材を使ったもの。

 正直あまり興味が湧くような、その配信を見たくなるような感じではなかった。


「すみません。わたくしはこういうのが苦手でして……」


 峰山さんが今まで一番気まずそうに、申し訳なさそうに目をこちらから背ける。

 

 そういえばDOの配信は少し見たことがあるけど、あんまり話題にもなってないし、堅苦しくてあまり面白くなかったな。

 

「もしかしてだけど、DOにこういうの得意な人って誰もいないの?」

「そうですね……わたくしはこの通りからっきしですし、風斗さんは真面目すぎて見ている人のウケなんて考えませんし、指揮官と田所さんは感性がおじさん過ぎてこういうのはできませんし」


 あー……確かに父さんはこういうの苦手そうだよなぁ……

 

 僕の父親は流行や新しいものに疎く、スマホは最低限の検索と連絡くらいにしか使っていない。配信とかが苦手と言われても何ら不思議ではなかった。


「わたくし自身もっと多くの人にDOの配信を見てもらって、活躍を認知してもらうべきだと思います。でも、わたくしにはどうしたらいいのかが分かりません。

 ですので教えてくれませんか? あなたのその、ヒーローを目指しているからこそできる人を惹きつける方法というものを」


 人を惹きつける。確かにそれは僕がなりたいヒーロー像に直結している要素だった。

 みんなが憧れてくれるような、誰かの生きる希望になれるヒーロー。そんな存在になる為に僕は十年前からずっと頑張ってきた。


「もちろん! と言っても、今から教えるのはヒーローっぽくないものだけどね。じゃあまず配信設定画面を少し貸してね」


 僕がそう言うと彼女は快くランストを手渡してくれた。その画面を見て、どのようにしたら視聴者の興味を惹きつけられるのか考える。

 現状を整理すると、DOの配信は堅苦しく面白さに欠け、配信知識がある人物もいないという状況だ。その事を踏まえて僕は配信画面を設定していく。

 注意を引く色合い。視線が奪われるサムネイル。それに今の若者の興味などを考慮する。


「すごい手際がいいですね……こう言うのは慣れていらっしゃるんですか?」

「多少はね。何回か触ったら大体やり方は分かったよ」


 僕がダンジョン配信を始めたのは三ヶ月前。最初はダンジョン配信専用の動画サイトの扱いに苦戦していたけど、美咲さんが手取り足取り教えてくれたこともありすぐにできるようになった。

 

 そうこうしているうちに配信画面の設定をし終わった。

 僕の方の配信には初のDOとして頑張る旨の内容を書き、活動名で尚且つ変身形態の名前でもある"ラスティー"をサムネにも載せることで僕のファンがこの配信に注意を向ける可能性を高くした。

 

 一方峰山さんの方には僕と彼女の変身した形態を他の配信から切り取ったものをサムネにして、サプライズやコラボなど若干嘘も混じっているような気もするが、完全な虚偽ではない人の興味を引きやすい内容をタイトルやタグに設定した。

 

「はい。これで大体オッケーかな? 少なくともいつもよりかは人が集まりやすいとは思うよ」


 僕は借りていたランストを返却する。彼女はそれを受け取り僕が設定した画面をまじまじと見つめる。


「いつものわたくしや風斗さんがやっているものより面白そう……」


 無意識にだろうか、峰山さんがボソッと一言だけ呟いた。どうやら彼女の納得いくものを作れたようだった。


「でも本番はここからだよ。見に来てくれた人を退屈させないような、最高の配信をしないと」

「えぇそうですね。それと一応分かっているとは思いますが、もしこの配信中にDOの呼び出しがあったり、生命の危険を感じた場合はすぐに脱出してくださいね?」


 ダンジョンは人間がいなくなる度に再構築されるので、DOが攻略、そして制圧したダンジョンを潜って資源の回収などをする。

 DOが既に制圧済みのものは特殊な装置が付けられており、自分の意思一つで即座に元の場所まで戻ることができるのだ。そのおかげで今までDO以外の一般ダンジョン配信者の死傷者はいない。


「分かってる。命あってこそだからね。本当に……自分の命は大切にしないといけないから」

「良い心構えですね。それでは行きましょうか」


 峰山さんがランストを下腹に押し当てる。ベルトが出現してそれは自動で彼女に巻き付いた。僕も同様にしてベルトを装着する。

 そして息ぴったりに、同時にお互いデッキケースから自分のスーツカードを取り出した。

 僕の取り出したカードには【スーツカード ラスティー】と書かれていた。


「変身っ!!」

「変身」


 僕達はカードをセットする。僕はいつもみたいにテンションを上げて変身したが、一方峰山さんは正反対で冷静で静かな雰囲気だった。


[ラスティー レベル1 Ready……]

[エンジェル レベル1 Ready……]


 峰山さんは白と黄色の天使をイメージさせるものを、僕は紫に白い線が入った……正直今でも何をモチーフにしているのかよく分からない鎧を纏った。


「さぁ!! ヒーローの出番だ!!」


 僕は決め台詞を呟きながらウィンドウに表示された先程選んだダンジョンを二回タップして、峰山さんも同様にして、僕達はそのダンジョンへと向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る