第3話 DO


「失礼します」


 ビルの中に入り少し進んだ後、峰山さんはある一室の扉をノックした。その扉は白く清潔感があった。

 扉の横には"DO本部"と書いてあった。


「おう入れ」


 部屋の中から聞き覚えのある、というより父さんの声が聞こえてきた。そして予想通り部屋の中には父さんが椅子に座っていた。

 部屋の中は広く、扉と同じく清潔感が漂う感じで、そこに父さん含めて三人の人物がいた。

 

 そして彼の胸元には指揮官と書かれたバッチが付けられていた。そう、僕の父親である寄元遊生はDOの指揮官。つまりDO内で一番偉い人なのである。

 ちなみに僕が入隊したのは父さんのコネとかそういうのではなく、ちゃんと努力して試験に受かったからだ。父さんはいつもはおちゃらけているが、こういう仕事関連は結構真面目にやるタイプなのだ。

 

 まぁたとえ父さんの方から裏口で入らせてくれると言われても、そんなのは僕の理想のヒーロー像とはかけ離れているので断っていただろうが。


「指揮官。彼が新人の?」


 父さんの近くに立っていた男の人が僕の方に一瞬視線を向ける。それはまるで品定めするようなものだった。

 その際にチラリと見えたその顔立は大変整っているもので、テレビなどで見るアイドルよりもイケメンに思えた。


「あぁそうだ。オレの息子の生人だ。みんな今日から仲良くしてやってくれ」

「仲良くって……ここは遊び場じゃないんですよ? それに彼は……これは峰山にも言えることですが、DOとして働くには若すぎませんか?」


 彼の言い方には少し棘があり、悪気こそなさそうだったが、その発言には妙な強みがあった。


「まぁ落ち着きなって風斗ちゃん。指揮官がしっかり判断した上で入れたんだから、自分らがとやかくいう事じゃないでしょ?」


 壁にもたれかかっていた三十代くらいに見える男性が、資料を読みながらイケメンの彼に軽く注意する。立場的に上の方から父さん、おじさん、イケメンさん。といったところなのだろうか?


「田所の言う通り。いくら自分の息子だからって、オレは甘くしたり裏口入隊とかはさせない。そういうオレの性格は風斗もよくしっているだろ?」


 父さんがいつもとは若干違う、少し真剣さを含んだ物言いで喋る。

 その言葉を聞いても風斗さんはどこか納得していない様子だったが、そうですねと暗い表情で呟き黙ってしまう。


「はい! じゃあ暗い空気を切り替えて自己紹介でもしようか! 指揮官は家族だからいらないとして、まずは自分からでいいか。

 自分は田所浩一郎たどころ こういちろう。警官からここに入った、まぁ結構長い間いるベテランってやつだな。まぁ困ったことがあったら何でも聞いてくれ! できる範囲なら力になるよ」


 おじさん。もとい田所さんは風斗さんとは違い陽気な感じで接しやすそうだった。


「俺は風斗真太郎ふうと しんたろう。ここに入ったのは五年前だ」


 田所さんとは違い短く端的で、必要最低限にまとめられていた。まるでこちらと必要以上の私的な関係を持ちたくないと主張しているように感じられた。


「僕は寄元生人です。ヒーローを目指したくてこのDOに入りました。今日からよろしくお願いします!」


 最後に僕が二人に自己紹介をする。これから背中を預ける相手なので、元気良くして第一印象を良くしようとする。


「自己紹介は済んだので俺はこれで失礼します。まだやってない仕事があるんで」


 風斗さんは一応しっかり聞いてはくれていたが、興味なさそうにして部屋から出て行ってしまった。

 

「あー……ごめんね? 風斗ちゃんはちょっーと他人に厳しくて一匹狼な所があって、悪い子じゃないんだけどね……」


 田所さんが気まずそうにしながら風斗さんの態度を擁護する。確かに先程の彼の態度は嫌味っぽいという感じではなかった。

 あくまで仕事の関係を保ち、必要以上に私的に関わりたくわないという彼なりの主張のようにも思えた。


「ちょっと気まずくなったが、とりあえず今日やること指示するぞ」


 苦笑いしている田所さんを尻目に父さんは早速仕事に取り掛かろうとしていた。


「まず生人にDOの設備とか色々説明と案内をしておきたいんだが、オレは今日外せない用事があるしな……田所、お前今日暇だったよな? 頼めるか?」

「えっ? 自分? あーいやー……その……調べ物があって……」


 田所さんは視線を泳がせながら、明らかに動揺しながら父さんの頼みを断る。


「何だ調べ物って?」


 父さんが少し詰め寄るように質問すると、田所さんは言葉に詰まって口を開くのに数秒かかった。


「んーそれは……あ、というより指揮官。寧々ちゃんに頼むのはどうですか? ほら、こんなおじさんより同年代の子の方が話しやすいだろうし」


 早口で、明らかに何かを隠しているというのはこの場の誰もがすぐに分かった。


「はぁ……分かったよ。そうしよう。また何をやらかしたのかはしらんが、事が大きくて自分だけじゃ対応仕切れなくなったらしっかり報告しろよ。

 これはお前を信用しているからこその判断だ。くれぐれも厄介事を起こすんじゃないぞ」


 父さんは釘を刺すようにして田所さんに睨みを効かせる。

 一方彼は愛想笑いを浮かべ早足で部屋から出て行きどこかに向かうのだった。


「というわけで悪いが頼めるか寧々?」

「はい。かしこまりました。今日は特に予定はありませんし、設備の案内とあと……適当な小規模のダンジョンでの実戦の確認でよろしいでしょうか? 恐らく三時間程度で終わると思いますが」


 峰山さんは前の二人と違って、嫌な顔一つせずに父さんの頼みを承諾した。相変わらず無愛想で淡々としていたが。


「悪いな。その真面目さにはいつも助かってるよ。それじゃ頼んだよ」


 父さんは感謝の意を込めて少し口角を上げて笑ってみせ、部屋から出る際に息子をよろしくと一言伝えてから部屋から出て行くのだった。

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