天使ちゃん

「ふへへへ」


 素晴らしい……前世では決して満たされることのなかった自身の承認欲求が大量に寄せられてくる感想を前にして満たされていくのを感じる。

 は、ハイエナ行動最高。

 これからちょっと命の危機に瀕している冒険者たちを探す行為に移ろうかな。

 もうそれだけで僕の生涯の夢が叶うような気もしてくる。自分の友達を作るという最上位の夢を。


「うぅん……」

 

 そんなことを僕が考えていたタイミングで。

 自分の後ろで眠っていた少女から声が上がる。


「っ!?」


 僕は慌ててそちらの方へと視線を送る。


「うぅん……こ、ここは」


 は、はやい!?起きるのが早い!?うめき声からの起き上がり、そして状況把握のために周りを見渡すのが!ま、まずい、僕の脳はまだ戸惑っているっ!」


「あ、貴方は……?」


 僕が思考停止している間にも、少女は勝手に話を進めていく。


「えっ……あっ、そ、その」


 あ、あわわ!?

 何を話せばいい!?どんなことを話せば!?まずは自己紹介!?いや、自己紹介って言っても何をっ!?自己とはなんだ……僕は死んで生まれ変わっている身。

 何を、名前は何だ!?前世のままじゃまずいよね!?ぼ、僕の設定は一体どういう風にぃぃぃ!?


「……あっ!貴方は……私を助けてくれた!」


 色々と考えた末、僕の思考回路は限界を迎えた。


「にゅーう」


 僕はその場で自身の身体を溶かしてしまう。


「あぁぁぁぁぁ!?どこに行くのぉ!?」


 そして、そのまま下へ下へと沈んでいくのだった。


 ■■■■■


「逃げてきてしまった」


 僕の過去の記憶を振り返れば恐らくは五年ぶりくらいになる初対面の人との会話。

 それを前に自身の恐怖を押さえつけることが出来なかった僕は思わず、あの場から自身の体を溶かして逃げてしまった。

 命を助けたことに加えて、あの子を上にまで届けなきゃ……届けなきゃじゃん!?

 僕は逃げちゃいけない理由を思い出した体を硬直させる。


「ま、まずまず……!?あの子を助けることを暗に交換条件として助けてあげたみたいなことがあるし、しぃ……嫌だなぁ。人と話すの。よ、よし……」


 今すぐに彼女のもとに戻って話しかけた方が僕にとっても得になることはわかっている。

 でも、今日は目を合わせたし十分かな、うん。僕は頑張ったよね。

 ほら、しっかりと恩を売り続けてもう相手の頭が上がらなくなるくらいの状態にしてから話しかけるほうがいいかもしれない。うん、そうだよ。


「よっと、お願い、天使ちゃん」


 僕はその場で自身の手元で圧縮させた光の性質を変化。

 それで作り出すのはAI程度の思考能力を持っている人型実体、天使ちゃんである。

 おっきめなフィギュアくらいの大きさしかないこの子ではあるけど、その実力は下層の魔物を一人でボコボコに出来るレベルである。

 この子をあの少女、ライナちゃんの元に向かわせれば完成だろう。


「お願いね?」

 

 僕は天使ちゃんを放ち、あの子の対応を任せる。


「よし……それじゃあ、僕は今日の寝床探しをしようかな」


 無事に問題を解決した僕は、気を取り直してダンジョンの中で自分の寝床を探していくのだった。

 

 

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