TS転生

「あるときを境に、魔族たちの手によって平和な世界が踏みにじられていくに夢を見るようになった。夢の中での私はただ亡骸となっている男性たちに縋りつき、泣いている姿ばかりを晒していた。気味が悪く、何処かリアルに迫るその夢を前に恐怖の感情を抱いていた私がその夢の中で出会った人物を現実で見かけた時、物語は大きく動いていく───」


 西洋の欧州を舞台とした剣と魔法の異世界の場で繰り広げられる乙女ゲーム、CLOCK ONE。

 通称クロワン。このゲームのあらすじがたった今、自分が口に出した文章である。

 このゲームは乙女ゲーム界隈に革命をもたらすような神ゲーであると語る自分の妹が熱烈にプレイしながら発狂していたものであり、あまつさえ僕にまでプレイすることを進めてきたゲームである。

 ネットではありきたりではあるけど出来は良い、という結構良いけどそこまでではないよね?という意見が散見される中。

 そんな意見を知らない小学生の妹のごり押しに負ける形で僕も彼女と共に幾度もプレイし、とうとうあらすじまで暗唱出来るようになってしまったある意味で忌々しいゲーム。

 それが僕の中におけるクロワンである。


「うぅむ……レイユかぁ」


 そんなクロワンにはとある一人の悪役令嬢、レイユ・ストレーガが登場する。

 幾度も死亡シーンを見させられたレイユが幼少期の姿。

 それが今、自分の前に置かれている姿見に映っていた。


「……まさか、自分が悪役令嬢に転生するとは思わなかった」


 僕の前に置かれている姿見が映しているのは当然の如く自分の身体である。

 そう。

 前世においては一般的な高校生として過ごしていたはずの僕を身体。

 それを今、姿見はレイユ・ストレーガの姿として映していたのだ。


「うーん」


 ここに至るまでの経緯も明瞭にわかっている。

 前世に置いて、僕はトラックに引かれて死んでしまっているのである。

 そこで普通の人間であればジエンドとなるであろうところを僕は何故か女の子の赤ん坊として転生したのだ。

 それからと言う僕は美人なママンのおっぱいを吸ったり、女の子の身体になった己の姿をマジマジと見てみたり過ごしてきたのである。


 そんな生活を送ること三年。

 ある程度一人で問題なく動けるようになった僕はようやく、満を持して姿見の前に立ってみたところ。

 自分の姿がレイユであったというわけだ。

 見間違いということもないだろう。

 普通に両親がレイユのだったし……姉妹の可能性を追っていたのだが、実は本人だったみたい。


「……うーん」


 生まれが断罪される定めにある悪役令嬢であった。

 それは悲劇と言えるのかもしれない……だが、だがだ。

 とりあえずそこは一旦置いておいて。


「改めて見ると、普通に可愛いな。こいつ」


 僕は今の自分の姿に酔いしれる。

 液晶を通して見ていたレイユという存在……二次元の存在であるとそこまで深くこの見た目の綺麗さについては考えたことのなかった僕であるが、実際の本物を前にするとここまで違うのか。

 僕はしばらくの間、姿見に映る自分の身体の美しさに酔いしれ続けるのだった。

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