第42話 テリサバース教会の崩壊③
――テリサバース教会side――
我が右腕となっている神官が持ってきた情報は、テリサバース教会にとって恐ろしい内容だった。
あの【シャルロット・フィズリー】の人形がまだ生きているという事だ。
――とっくに壊れただろう。
――我らの当時の過ちを表に出すことは無いだろう。
――もう脅威に怯えることは無いのだ。
『メデュアナシア』よ、永遠であれ!!
そう思っていたのに、そう教わって来たのに、誰しもが、一度テリサバース教会に保護されていたシャルロット・フィズリーの話は戒めとして聞かされるくらいに、我らテリサバース教会にとって、とても恐ろしい存在である事を――【悪魔のような人形】である事を知っているのに、我らが最も欲しい情報を握っているのがそのシャルロットだというのだ。
「ああ口惜しい。何故シャルロットの手元に欲しい手札が何時も何時も!!!」
「ですが、安易に刺激すれば、我らが聖女様に危害を加えられるかもしれません」
「そのような事になったらどうすればいいか!」
「相手は歴代きっての悪女ですぞ!!」
「嗚呼、聖女様どうかご無事で……」
テリサバース教会のトップの私を含め、重鎮達とで会話する円卓会議。
シャルロットを刺激すれば確かに聖女様のお命にかかわるかも知れない……それだけはさせてはならない!!
我々に出来る事等少ない……。
ハルバルディス国王を監視する訳にも行かず、兎に角情報収取が大事だと気づいた。
ハルバルディス王国全体を協会が監視するという物だ。
重要拠点はボルゾンナ遺跡のあるシャーロック町を重点的に。
神父が沢山いては問題でしょうが、あそこにこそシャルロットの隠している『聖女様』がお住まいなのだと解っている。
一番ボルゾンナ遺跡に近いからな。恐らくそうだろう。
「聖女様は人の為に尽くすお方です。直ぐに見つかる事でしょう」
「そうなれば直ぐに保護して差し上げなければ」
「出せる神官は何人までが限界でしょうか?」
「シャーロック町の教会に問い合わせをしなくては」
そうガヤガヤとしてきた時、ノックをする音が響き渡り一人の神官が出て来ると、「何時もの面々がお越しになりました」と言う連絡を受ける。
――ああ、今日はその日であったか。
――大事な話をしている時に全く厄介な。
だが、彼等の持ってくる金と食料のお陰で飢えていないのだから有難いと思うしかない。
案内役は何時も私の役目だ。
「これは皆様お揃いで……今日も多くの救援物資に感謝致します」
「よいよい、我々は同士ではないか」
「ここに来ればいつでも天国が見られる……。本当は我が屋敷にて飾りたいのに、全く国王も人形師達も頭が固い」
「こうやって足を運ばねば会えぬというのも、また一興ですよ」
そう言って多額の金貨も貰い、私は彼らを案内していく。
案内するのは地下。それもシャルロットが隠されていた地下だ。
ええい、忌々しいと思いながらも笑顔で歩き、シャルロットの部屋だった場所を開ければそこには――。
「「「「おおおおおおお……」」」」
「では、存分に楽しまれてくださいませ」
そう言って一時間ではあるが彼らの【玩具】が眠る部屋を閉じる。
この部屋の事は誰にも言っていない。
言ってはならない。
貴族達から集めた子供の人形や美しい人形が集められている事を知られれば、テリサバース教会の名声は地に落ちる。
だが、いくら探したところで見つかりはしない。
シャルロット・フィズリーが居なくなってから始めた事だ。あのシャルロットすら知らないだろう。
知っているとすれば――なくはないが、その人形が生きているとも分からない。
アンク・ヘブライト……。
奴がこの情報を握っていれば事だが……まぁ、奴ならば早々動きはしないだろう。
あれから貴族人形を集めていないし、一先ずは息をひそめて置けばいい。
しかし、【ロストテクノロジー】を使ってでも人形師の作る人形は作れないのだから残念だ。
美しい小型の像や等身大の美しい女性は作れるのだがなぁ。
確か『フィギュア』とかいったか。
其れ専用の部屋も用意してあるが、後で貴族たちは挙って買っていくのだろう。
全く、奴等は良い金蔓だ。
「彼らが満足したらお帰り頂いて結構だ」
「畏まりました」
「だが、一時間経ったら声を掛けていつも通りに。延長料金は大事だからな」
「はい」
そう言うと地下を出て外を歩く。
まだまだ雷雨のこの地域は全く持って気分が沈む。
こういう時は『メデュアナシア』の美しい寝顔でも見てから気分を入れ替えよう。
広い廊下を抜け、とある塔に入りそのまま地下へと進んでから隠し扉を開けて更に奥へと入る。
じめっとした空気は雨が降り始めてからだ。
昔はカラッとした良い天気だったというのに……だからこそ、『メデュアナシア』の部屋だけは特注で作らせた魔道具で乾燥させ湿気を飛ばしている。
常に美しさを保つ為にも『メデュアナシア』の周りは特に綺麗にしておかねばならんのだ。
蝋燭に火を灯し入った先には――『メデュアナシア』だけの部屋。
此処は一部の者たちしか知らない、特別な場所。
「ああ、メデュアナシア……君は今日もなんて美しい寝顔なんだろうね」
ガラスケースに眠る3歳くらいの美幼女、メデュアナシア。
この秘密を守る為に、テリサバース教会はどれだけの罪を重ねて来ただろうか。
だが、それだけの価値がある……それがこの『メデュアナシア』なのだ。
テリサバース教会は死者を冒涜する行為としてミイラ作りを辞めさせた。
作らせたミイラは全て燃やし尽くした。
だが、唯一当時の【ロストテクノロジー】持ちが作り上げたこの『メデュアナシア』だけは、焼くことは出来なかった。
皆が反対したのだ。
――ならば隠そうと。
神への冒涜かもしれないが、人間欲には勝てないのだと当時の人間も、今の人間もそう思う。
神へ冒涜よりも、自分たちの欲が優先だと――。
何時か罰が当たるだろう。
その罰が何時落ちるかは分からない。
この雷雨も、神々の島へと亡命した【天候を操れる程度の能力】を持つ【シュノベザール王国元賢王・シュライ】からの嫌がらせだというのも分かっている。
あの時、奴を放っておけば面倒な事にはならなかったというのに……。
全く。当時担当した者は処刑したが、それでも怒りが収まらぬ。
嗚呼、メデュアナシア。清らかなるメデュアナシア。
君を守る為に出来る事はなんでもしよう。
永遠の美しさを称え、神と同格であると膝をつこう。
どうか、荒んだ心を癒しておくれ……。
そして是非、聖女様のお力で更なる美しき姿で君をこの部屋で眠らせたい。
せめて世界樹の実さえあれば……君は美しい声を取り戻すだろうか――?
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