第10話 マリシアの身体の持ち主とマリシアの分離を考えつつ、メンテナンスの仕事に向かう。
――新しい書物と言うのは毎回ドキドキする。
今日は午後から人形のメンテナンスがあるから午前中だけしか読めないが、一日全て使える日が欲しいくらいです。
とは言え、結婚の事もあるので今は忙しいのは仕方ないですね。
実はあの手紙の後、ミルキィが誕生日を迎える前に入籍する事が決まりました。
既に書類は出し終わっていて、後はテリサバースの教会で入籍式を行うだけになっています。
お互い仕事が一旦落ち着いたらにしようと言われたんですが、俺としてはミルキィの気持ちを尊重したいので何時でもいいと伝えるとミルキィは頬を真っ赤に染めて「じゃあ来月の花の月に」と言われ、来月入籍をする事になりました。
「花の月」は花を頭に飾り婚約者や恋人がいる人はお揃いの色の花冠を付けて町でデートが出来るんです。
それを一度は体験したいと言う事だったので、俺は笑顔で頷いて許可を出しました。
ミルキィだって一度は恋人と同じ色の花であるきたいでしょう。
その花の月のお祭りの日に入籍です。
実に楽しみですね。
「さて、新しい書物ですが……地図が載ってますね。古代地図でしょうか」
「ノートで手書きの地図があったと言っておったな」
「ええ、こちらのノートですね。比べながら見ましょう」
そう言うとノートを広げ本の地図と照らし合わせると同じでした。
ただ、ノートの方が詳しく書かれているようで、脳だけの人形があるハルバルディス王国は昔は一つの研究機関だったと書かれています。名前はかすれて読めませんが、そこからこのシャーロック村のあのボルゾンナ遺跡は確かに【人形保護施設】と書かれてあり、本の方にはその名は残っていませんでした。
ノートと読み比べながら進めて行く作業。
【人形保護施設】では、保護して欲しい人形たちが挙って逃げてくる最終的な駆け込み場所でもあったようです。
見回りも頻繁に行われており、一人で活動できる強い人形のみが外での活動を許可されていたとも。
「今は亡き国の事も記載されてますね。古代ではあったんでしょうが。今は亡き王――ジャポン国の生き残りは鉄の国サカマル帝国を立ち上げていると聞いていますし」
「ほう、あのサカマル帝国か。何でも数年前城が壊されて今の統治は素晴らしいと聞くのう」
「そうですね。俺のかけている眼鏡も今では大分普及されてきたものですし」
「宝石の国ダイヤ王国のガーネット商会の店舗で買ったものじゃな」
「ええ。これは優れものですよ。スペアを2本も買いましたしね」
家用、箱庭用、後は予備用で持ってますが、予備用はアイテムボックスに入れています。
それくらい画期的なアイテムなのです!
何より万年筆はいい! 今では手放せないアイテムですね!
「人形保護施設では多くの人形たちが暮らしていたようですが、統括していたのがやはりピリポとその妻、ヤマだったようですね。そして保護された人形たちの身体を直すのが人形であり人形師だったコウとエミリオ、心が壊れた人形を治療していたのはセレスティアと。助からず死ぬ人形の方が圧倒的に多かったとノートには記載されてます。ノートの筆者は……デュオ?」
「天才少年の頭脳を持った人形じゃったな。逃げたと言われておる」
「ええ。このノートの最後に書かれてありますが、一度施設は政府によって攻撃され、それで古代書……ノートが幾つか外に出たようですね。まだあの施設……ボルゾンナ遺跡には彼らがいると言う事でしょうか」
「可能性はある、眠っておるかもしれんな」
「近いうちに両親の墓参りもありますし、ちょっと調べる為に行ってきます」
「それがええ。一応護衛にマリシアを連れて行くのを忘れるな? ワシも行くがのう」
「ええ、一緒に行きましょう」
そして本に目を向けると――なんでも施設と政府は対立したそうです。
それは、アニマとアルマを保護したことでの事だったようですが、政府は二人の破壊措置命令を出し、保護施設は、保護された人形は何人たりとも破壊措置はしないと言う事で対立。政府は保護施設を攻撃したものの、強固なバリアに阻まれ人形たちとアルマとアニマを見つけることが出来なかったそうです。
人形保護施設を攻撃しても無理だと悟った政府は交渉を持ちかけましたがそれを人形側は拒否。その後施設が開くことは一度もなった――……。
一度も無かったと言うのなら、何故マリシアは外にいたのか。
恐らくバリアの薄い場所に居て外に放りだされた……というのが濃厚ですね。
マリシアを戻さねば……。
近いうちにマリシアの魂を切り替え、人形保護施設に連れて行けば扉が開くかもしれない。
調査団が来る前に何とかせねば。
「マリシアを戻すのか?」
「ええ、危険な賭けですが」
「そうか……確かに危険な賭けじゃが、中の状態も気になる。連れて行こうかのう」
「そうですね」
「しかし、そうなるとマリシアの代わりの人形を作らねばならんぞ?」
「狩りと護衛に特化した人形でも作りますよ」
「ほっほっほ」
そう言って苦笑いをすると、俺はマリシアを保護施設に帰す決意をした。
それに、古代書にマリシアの事が一つも書かれてないのは見つからなかったのだろう。
祖先が保護した時には既に動かなったというし、政府でも見つけられない状態だったと言う事でしょうし、保護施設の人形が探さなかったのも気になる。
人形たちが無事なら良いですが……。
「早めに行ってみようと思います」
「うむ」
「とはいえ、この本を全て翻訳して突っ返してからですけどね」
「ほっほっほ!」
「こちらの新しく来た本も興味深いには興味深いですが、俺の知っている内容を纏めたって感じだったので」
「それもそうじゃな」
後は清書しながら……と万年筆を持ち翻訳を書いて行く。
半年も掛からず直ぐ終わりそうで肩透かしだ。
それにあの施設はバリアを壊そうとすれば攻撃が飛んでくると言うのは両親の死亡で分かっている。
別の方法をとるしかないのは明白なのだ。
でも、アンクの妻だと言う【ニャム】がマリシアなら――?
きっと中に入れる……そう信じている。
その後午前の仕事も終わり、人形のメンテナンスに行くことになったけど、今回の依頼主はホーリーだった。
何でも自分では魔力詰まりを直すのが難しいと言う依頼で、今日は娼館に向かうのだ。
ホーリーの作った娼館、少々行きづらいが仕方ない。
そこで娼婦たちの魔力つまりが無いかの確認をしなくてはならない。
今回ミルキィは流石に「一緒はちょっと」と言われたので俺とマリシアで行くことになる。
件のミルキィは介助人形の注文が入ったらしく、そっちを作っている所だ。
月の使者も終わっているし何とかなりそうだとホッとしていた。
ちなみに俺が魂を入れた二人は、問題なく動いているようで介護用人形の方は介護をしている老人に「母ちゃん」と呼ばれ大事にされているらしい。
また、弟妹人形の方も大事にされているらしく、兄の自覚が芽生えた息子にいい影響を与えてくれているとお礼の手紙が来ていたそうだ。
それらを聞くとホッとする。
テレナの事もあった為、やはり気にはなるのだ。
そして午後、皆で食事をしてから片付けを妖精さん達に頼みホーリーの自宅へと向かう。
ホーリーも歩いて30分の所にある屋敷に住んでいて、マリシアと共に向かうと執事らしき人が出て来てホーリーとリリシアが出て来た。
「待たせて悪いね。ミルキィ嬢と結婚するんだってね、おめでとう」
「ありがとう御座います」
「そんな君に娼館をお願いするのは心苦しいけれど」
「いえ、俺はミルキィにしか反応しないので」
「それは凄いね」
「いえ、当然かと?」
「君はヤンデレの素質があるよ、ふふふ!」
「ヤンデレ……」
確かにその気はないがそんな風に見られる事はあったにはあった。
だが、マリシアもミルキィも気にした様子もなかったので大丈夫な範囲なのかなと思っていたけれど――。
「病んでるのなら大歓迎だよ? 俺もリリシアに病んでるからね」
「それは知ってます」
「ふふふ! では行こうか」
こうして一緒に歩きながら町に向かい、町はずれにある娼館に入って行くとホーリーは顔パスで俺は客と思われたようだが「彼はメンテナンスにきたのさ」と伝えると案内された。
既にそういう事をしている客も多く、客を取っていない娼婦人形からメンテナンスをしてく。
「娼婦人形の寿命は20年としているんだ。入れ替わりも激しい時は激しいけれど、長く愛される人形はいるにはいるからね」
「なるほど、お客様のお気に入りって奴ですか」
「見目麗しい女性を抱きたいのは男の性だね」
「ですが、奥さんに似せた人形も家には置いている所も多いでしょう?」
「おいてない家が発散に来るのさ。後は置いてても別の女性を抱きたいとかね」
「俺には分からない感覚です」
「ミルキィ嬢に似せた娼婦人形を作るつもりは?」
「俺は人形作れないんですよ。それにミルキィに似せた娼婦人形を作るつもりもないです」
そう診察しながら話をするとホーリーはとても驚いていた。
「俺は本人がいれば満足ですからね」
「分かる、分るよ。俺もリリシアがいれば満足だからね」
「それに、今は男性用避妊具も量産が始まっていい具合だとも聞いてますし」
「へぇ……男性用避妊具を使うのかい?」
「そうですね」
「余程ミルキィ嬢を大切に思っているんだね」
「ええ、罰金を払ってでも二人は子供を作らせようと思うくらいには」
「あはははは! 君も中々豪胆だね!」
「俺は祖父母が亡くなって一人の時間が長かったので、賑やかな家が希望なんですよ」
「確かにそうだったね……。そうか、俺もリリシアとの間の人形を作ろうかなぁ」
「良いのではないですか? 俺も早めに弟妹人形を作って欲しいくらいですし」
「ふふふ! あはははは! トーマは俺にそっくりだね!」
「それはどうも」
そう言いつつメンテナンスは進んで行き、女性の秘部に関してのチェックは作った本人にしか分からないのでホーリーもちゃんと仕事をしている。
「この二人はあそこがそろそろ限界だから一旦引き上げて新しい膣を作らないとかな」
「あそこ……」
「君も早く経験するといいねぇ。抜け出せないくらい気持ちがいいよ?」
「考えておきます」
こうしてメンテナンスが全員終わる頃には夕暮れ時で、ホーリーはリリシアとホテルに泊まって帰るらしく、俺は先に帰ると言ってシャーロック村の自宅に戻りそこから家に帰った。
しかし……どの娼婦人形を見ても下半身はうんともすんとも言わなかった事にホーリーに「同士……」と言われたのは、なんとなく遺憾である。
いや、ミルキィにしか反応しないと言うのは凄く自分を褒めたいが。
「お帰りなさい!」
「ただいま帰りました」
「沢山の美人を見て来たんでしょ?」
「ええ、でも下半身はうんともすんとも言いませんでしたね。ホーリーに同士と言われましたよ」
「あらあら」
「やはり俺はミルキィにしか反応しないみたいです」
「も、もう!!」
「イチャイチャは良いけどご飯作って~。今日はシカ肉取ってきたからさ!」
「分かりました。美味しく作りましょう」
こうして晩御飯を作り、皆で食事を摂って会話に華が咲いたのは言う間でもなく――。
「明日は特に依頼が来てないので一日翻訳の仕事を箱庭でしてますよ」
「分かったわ」
「あいよ」
「ワシも手伝いにいくかのう」
「そうですね、お願いします」
そう言いつつ、サッサと仕事を終わらせて人形保護施設に行こうと心に決めていた。
そして半月後――。
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