第407話 ルクスの信念

 先ほどまで言葉が飛び交っていた玉座の間に訪れた、突然の静寂。

 そこには、やっぱりフェリシアーナ様の第三王女様としての風格があることを僕が感じていると。

 他の兵士の人たち同様、凍てついたように動かなくなっていた国王様が、そのことを認めないというように表情に意地を浮かべながら言った。


「お、臆するな、お前たち!確かにフェリシアーナが現れたことには驚いたが、口が達者なだけで状況は何も変わっておらん!!今我らはこやつらのことを取り囲んでいて、口で何を言おうが、結局こやつらはこの国王の軍門に降るほか無いのだ!!」

「状況が変わっていない?相変わらず、状況把握能力が低いのね」

「な、何……!?」

「さっきの話は、ここに居たのがメイドという前提の話でしょう?けれど、シアナは私……つまり、第三王女フェリシアーナなのよ?これで、ルクスくんの弱みに付け込むような真似はできなくなったし、何より────」


 着ているメイド服の内側から携えていた剣を抜くと、力強い口調で言った。


「この私が居る以上、ルクスくんに害を為そうとするあなたたちのことは絶対に許さないわ」

「フェリシアーナ様……」

「安心して、ルクスくん……ルクスくんのことは、必ず私が守るわ」


 優しい声色で言うと、微笑みかけてくださるフェリシアーナ様。


「……」


 フェリシアーナ様は、僕のことを守ろうとしてくださっている。

 そしてさっきの僕も、シアナのことを守りたいと本気で思っていた。

 それなら、フェリシアーナ様のことは?

 なんて……そんなことは、自分の中で問いかけるまでも無い!

 その思いのままに剣を抜くと、僕は口を開いて言う。


「フェリシアーナ様!フェリシアーナ様が戦われるのであれば、僕も一緒に戦わせてください!」

「っ……!?ダ、ダメよ!ルクスくんのことは私が必ず守るから、ルクスくんは私の後ろに────」

「僕は守られるだけではなく、フェリシアーナ様のこともお守りしたいんです!」

「っ……!守られるだけでは無く……守りたい?」

「はい!僕は守りたいものを守るために、今までずっと、自分なりに精一杯頑張ってきたんです!なので……一緒に戦わせてください!」

「ルクス、くん……ルクスくんは、本当に、どこまで────」


 言いかけたフェリシアーナ様は、少し間を空けてから言った。


「わかったわ……なら、一緒に戦いましょう」

「っ!はい!!」


 その言葉を合図として、僕とフェリシアーナ様は同時に剣を構える。

 そんな僕たちのことを見た国王様が、声を荒げて言った。


「なっ……!ほ、本当に、この国王と正面から戦おうと言うのか!?」

「戦う?今戦おうとしているのは、お父様では無く兵士たちでしょう?ルクスくんのように何かを守るために努力もせず、今もなお玉座に座っているお父様が戦うなんて言葉を使わないでくれるかしら」

「ぐっ……!お、お前……!!も、もう良い!!お前たち!!相手は所詮二人だ!!数の差で押し潰してしまえ!!」


 憤慨した国王様の指示通り、兵士の人たちは僕とフェリシアーナ様に突進するように距離を縮めると、手に持っている槍を突いてくる。

 だけど────普段一緒に鍛錬を積んでいるフローレンスさんの細剣の突きに比べれば、というか比べるまでも無く遅いため。

 僕は、フェリシアーナ様と背中を預け合いながら、自分への攻撃は最小限の動きで避け、互いに当たりそうな攻撃は弾き、こちらも攻撃を加える。

 そんな動きを繰り返していると、ついさっきまで僕たちのことを取り囲んでいた兵士の人たちは、あっという間に気を失ってその場に倒れ込み。


「なっ……なっ……な……ん、だ……と……」


 残ったのは、玉座に座りながら顔を青ざめ言葉を失っている様子の、国王様ただお一人となった。

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