第316話 不快

◇フェリシアーナside◇

 ────二日後。

 国王により呼び出されたフェリシアーナは、玉座の間へと赴いていた。


「お父様が私のことを呼び出されるのは貴族学校の入学式挨拶の時以来かと思いますが、本日は何用でしょうか」


 一応、敬語を使ってはいるものの。

 仮にも親子の会話にしては義務的で、どこか刺々しさすら感じられる口調で言うと。

 国王は、口を開いて言った。


「お前の耳には入っておらんかもしれんが、数日後にレザミリアーナの婚約者を見つけるための他国王族交友会がある……そして、レザミリアーナはその中から婚約者を決める予定だ」

「それが?」

「此度の交友会はレザミリアーナのための場であるためお前を招くことはできないが、お前が望むのであればすぐにでもお前のための場も設けることができる」

「……要するに、私もレザミリアーナお姉様のようにその場で婚約者を探せと仰られるのですか?」


 その言葉に、国王は頷いて。


「そうだ」

「そういうことであれば、私は以前から何度もお伝えしているように既に心に決めた男性が居るのでそのような場は不要です」

「伯爵家の男、だったな……」


 その返事を聞いた国王は、少し間を空けてから口を開いて言った。


「いい加減子供じみた反抗はやめんか、お前が子供じみた反抗をやめれば、その場で今お前が好いている男以上の者と出会うことができ────」

「彼より素敵な男性など、この世界に存在しません」


 ルクス以上の男性。

 という、フェリシアーナにとってはルクスのことを貶めているとも取れる発言に対し。

 通常であれば即刻剣を抜いているところ、だったが。

 相手が相手のため、フェリシアーナはそう力強くいうことだけでどうにか留まった。

 それに、と続けて。


「私はお父様に反抗しているわけではなく、自らの気持ちに従っているだけです」


 フェリシアーナが、そのこともしっかりと伝えると。

 国王は、眉をひそめて言う。


「……あくまでも、その男以外と婚約するつもりは無いと言うのだな」

「はい」


 ────私がルクスくん以外の男性と結ばれるなんて、想像しただけで気持ち悪いわ。

 フェリシアーナが心の中で冷淡にそう思っていると、国王は口を開いて言った。


「ならば、今日はもう良い……下がれ」

「失礼します」


 国王に背を向けたフェリシアーナは、目を虚ろにすると。

 そのまま、玉座の間から去って行った。

 そして、玉座の間から出ると同時に目を虚ろにするのをやめ。

 玉座の間の前で待機していたバイオレットが、フェリシアーナの後ろに控える形で王城内の廊下を歩き始める。

 すると、バイオレットがいつも通り落ち着いた声色で聞いてきた。


「お父君からのお話は、どのような内容でしたか?」

「ただただ不快にさせられただけだったわ」


 そんなことより、と続けて。


「屋敷に戻ったら、今後さらにルクスくんと結ばれるために活発になることが予測されるエリザリーナ姉様、をも上回って私がルクスくんと結ばれるための計画を立てるわよ」

「かしこまりました」


 ────フェリシアーナの居なくなった玉座の間にて。

 国王は、一人小さく呟いた。


「最近は婚約の話をして来なくなった故、もしや諦めたのではないかとも考えたが……」


 やはり、と続けて。


「そうでは無かったか……だが、あやつにとって姉であるレザミリアーナが此度の交友会を通して王族と婚約し、エリザリーナも今の想いを諦めたともなれば、あやつも今の想いを諦める他無いだろう────となると、やはりフェリシアーナではなく、エリザリーナの方から着手すべきだな」


 そう呟いた国王は、小さく口角を上げた。

 いくらエリザリーナやフェリシアーナが優秀だと言っても、国王である自分には敵わないのだという確信を持って。


 だが────既にがあることを。


 ────この時の国王は、まだ知らない。

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