第46話 一面
「────ルクスくんは、貴族学校での学校生活を楽しめているのかしら?」
フェリシアーナ様と二人で話していると、フェリシアーナ様は話題を変えてそう聞いてきた。
僕が貴族学校での生活を楽しめているのかどうかか……二回ぐらい揉めてしまったりして、そのことに対して不安になったりしたこともあったけど。
「授業の内容は僕が勉強したいことが詰まっていて、休み時間はフローレンスさんと話したりしているのですごく楽しいです!」
「そ……そう、フローレンスさんと話すのは楽しいのね」
「はい!あ、でも、もちろん今こうしてフェリシアーナ様とお話させていただいていることもすごく楽しいです!」
「っ……!」
僕が思いをそのまま伝えると、フェリシアーナ様は頬を赤く染めて言った。
「そ、そう言ってくれるのは嬉しいわね、私も……ルクスくんと話していると楽しいわ」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ、本当よ」
フェリシアーナ様にそう言っていただけたことが嬉しかった僕は、咄嗟にフェリシアーナ様の方に身を乗り出して言う。
「ありがとうございます!フェリシアーナ様!」
「か、感謝なんてしなくていいわ、私は思ったことを口にしただけよ」
「それでも、フェリシアーナ様にそう言っていただけてすごく嬉しいんです!」
「……」
フェリシアーナ様は少しの間だけ頬を赤く染めながら僕のことを見て何も言葉を発さなかったけど、そのあとはまたフェリシアーナ様と楽しくお話をして過ごした。
そして、しばらくすると、フェリシアーナは落ち着いた声音で言った。
「ごめんなさいルクスくん、少しだけ席を外すから、その間バイオレットと過ごしてもらっても良いかしら?」
「わかりました!」
僕がそう返事をすると、フェリシアーナ様は僕に優しく微笑んでからこの客室を後にした。
そして、客室にはフェリシアーナ様のソファの後ろに立っているバイオレットさんと僕だけが残される。
バイオレットさんとも話したいことはたくさんあったから、ちょうど良い機会────なんてことを考えていると、僕は先にバイオレットさんの方から話しかけられた。
「ロッドエル様、一つよろしいでしょうか!」
「え?はい、なんですか?」
僕がそう聞くと、バイオレットさんは僕のソファの後ろまで移動してきて言った。
「私の紅茶と、シアナさんやフローレンス様の淹れた紅茶はどちらが美味しかったでしょうか?」
……あぁ、そういえば、フェリシアーナ様がバイオレットさんは案外負けず嫌いだと言っていたような気がする。
とはいえ、ここで気を遣ってバイオレットさんの紅茶が一番美味しかったと言うのもバイオレットさんが求めているのとはおそらく違う────と思うけど。
「バイオレットさんの紅茶が一番美味しかったと思います、僕の従者のシアナのことを贔屓目で見たい気持ちはありますけど、バイオレットさんには今までたくさんの紅茶を淹れてきたということが紅茶を通して伝わってくる感じがするんです」
気を遣わなくても、バイオレットさんの紅茶が一番美味しかったため、僕はそう答えた。
すると、バイオレットさんは明るい声で言う。
「ありがとうございます!」
さっき紅茶の感想を言った時とは全然反応が違うから、おそらくフェリシアーナ様の言う通り本当に負けず嫌いなんだろう。
「バイオレットさんは、話せば話すだけ新しい一面が見えますね」
「……そうでしょうか?」
「はい、バイオレットさんのことを初めて見た時は、落ち着いた大人びた感じの雰囲気の方だと感じたんですけど、いざ話してみると明るい方だったり、今日も負けず嫌いなところだったり、他にもたくさんバイオレットさんの新しい一面を見てみたいです」
「そう、ですか」
バイオレットさんは、普段通りの声だけどどこか落ち込んだような声色でそう言った。
「……バイオレットさん?」
心配した僕がバイオレットさんのことを呼びかけると、バイオレットさんは明るい声音で言った。
「っ……!何でもありません!……そういえば、ロッドエル様にはあと一つお聞きしたいことがあるんでした!」
「もう一つ……ですか?」
「はい!ロッドエル様の、女性の着るお洋服の好みをお聞きしたいのです!」
女性の着る、洋服の好み……?
「どのような服でもあまり気にならないですけど、ドレス姿とかは綺麗だと思います」
「そうですか……ですが、一般的に普段使いできるものでも少しは好みというものがあるはずです!思い浮かびにくければ、わかりやすく今目の前に居る私がお洋服を着るところを想像してみてください!私に着て欲しいお洋服や着て欲しくないお洋服などはありませんか!」
バイオレットさんに着て欲しい服や、着て欲しくない服。
……少し考えてみたけど────
「バイオレットさんはとても綺麗な方なので、やっぱりどのような服でも気にならないと思います」
僕がそう伝えると、バイオレットさんは普段通りの声だけどどこか落ち着いた声音で言った。
「私は、綺麗などではありません……そのような言葉は、お嬢様のような方に使うお言葉です」
「フェリシアーナ様も綺麗な方ですけど、バイオレットさんだって綺麗な方────」
僕がそう言いかけた時、バイオレットさんは今まで聞いたこともないほど低く落ち着いた声音で言った。
「ロッドエル様……私は綺麗などではありません、何故なら……これが、本当の私なのですから」
そう言ったバイオレットさんは、僕が瞬きをした次の瞬間────黒のフードを被って、顔を見えなくしていた。
そして、低く落ち着いた声音で言う。
「ロッドエル様はこのような私でも……綺麗だと、仰れるのですか?」
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