第26話 距離
楽しく話していた僕とフェリシアーナ様だったけど、そろそろ日も落ちてきたのでフェリシアーナ様は帰宅することになって、僕はフェリシアーナ様のことをフェリシアーナ様の乗ってきた馬車が置いてある門の前まで見送りに来た。
「ルクスくん、今日はありがとう、とても楽しかったわ」
「僕も楽しかったです、本当にありがとうございました!」
フェリシアーナ様に向けてそう伝えた僕は、次にバイオレットさんの方を見る。
「バイオレットさんもありがとうございました!」
「こちらこそありがとうございました!ロッドエル様!」
バイオレットさんは僕に頭を下げながらそう言って、バイオレットさんが頭を上げるとフェリシアーナ様が言った。
「ルクスくん、近々行われる貴族学校の王族交流会でまたお話しましょうね」
王族交流会、一ヶ月に一回貴族学校が主催で行うその名の通り王族の人と貴族学校の今後この国を背負っていく貴族の生徒たちが交流する場だ。
フェリシアーナ様は入学式の時に一度貴族学校に来てくださっているから、フェリシアーナ様に限らず王族の人が貴族学校に来てくださるのはもっと先かと思っていたけど、気づけば僕ももう貴族学校で半月以上は過ごしている。
王族交流会の日も、そう遠くはない。
「はい、またフェリシアーナ様とお話できることが今から楽しみです!」
その会話を最後に、フェリシアーナ様とバイオレットさんは馬車に乗り、その馬車はここからでは見えないところまで走って行った。
今日は、フェリシアーナ様の新しい一面を知れて、フェリシアーナ様とかなり距離を縮められたような気がして、僕は何だか嬉しかった。
◇シアナside◇
メイド服に着替えたシアナと、黒のメイド服を脱いで黒のフードを被ったバイオレットは、二人で一緒にロッドエル家の屋敷へ向かっていた。
「今日の計画は概ね成功ね、今日で間違いなくフェリシアーナとしてルクスくんと距離を縮めることができたわ」
シアナがそう言うと、バイオレットは小さく頷いて言う。
「そうですね、ですがまだやはりロッドエル様に堅さが窺えますので、これからも丁寧に距離を縮めていく必要があります」
「わかってるわ、次は貴族学校の王族交流会の時が勝負ね」
「はい……ですが、王族交流会の時は今回のように全てを完璧に運ぶことは難しいでしょう」
王族交流会は今回のように二人だけで接するのではなく、王族と貴族学校の生徒多数で行われる交流会。
生徒同士の交流も要素の一つではあるが、やはり王族と生徒たちが関わると言うのが主とされている。
────だが、シアナとバイオレットが気にしているのはそのことではなく。
「あの女……メイドとしてのシアナの正体が私だってことにまではまだ気付いていないと思うけれど、もしかしたら王族交流会の時に何か私が下手を打てば正体がバレてしまうかもしれないわ────いえ、ずっとルクスくんの傍に居るかもしれないということの方が面倒ね」
「フローレンス様のことですね、確かにフローレンス様は決して油断できない相手です……が、王族交流会という王族が主とされている場においては、こちらに分があると考えられます」
「そうね、やり方はいくらでもあるから、それは後で考えるとしましょうか」
そう言うと、シアナは一度大きく深呼吸し────次の瞬間、大きな声で言った。
「そういうことなら今日の私とルクスくんの話をしましょう?まず、今日は初めてルクスくんの淹れてくれた紅茶を飲めたことが嬉しかったわ!普段は私がシアナとして紅茶を淹れているから、ルクスくんの紅茶を飲む機会が無かったものね!」
シアナはとても勢いを持たせてそう言ったが、続けて言う。
「私の淹れた紅茶をルクスくんが飲んでくれるというだけで私にとってはこの上ないほど幸せなのは言うまでもないのだけれど、やっぱりルクスくんの淹れてくれた紅茶を飲めるというのもまた別の形の幸せだと感じることができたわ!」
そして、さらに勢いに乗ったように続けて言う。
「ルクスくんがシアナとしての私のことをあんなにも褒めてくれたもの嬉しかったわ!褒めてくれたと言えば、ルクスくんが私に向かってハッキリ綺麗と言ってくれたことね!シアナとしての私に対しては、フェリシアーナとしての私のことを綺麗だと思っていることは教えてくれたけれど、直接言われるとやっぱり感じるものが違うわね!あと、ルクスくんの最後の別れ際の私と話すことが今から楽しみって言った時の目!あの目もルクスくんの魅力の一つなのよ!あの綺麗で眩しくて純粋な目!はぁ、ルクスくん……本当に早く婚約したいわ」
その調子で、シアナはしばらくの間ルクスについての話を続けたが、ロッドエル家の屋敷に近づいてきたところで、バイオレットに向けて言う。
「────今日ルクスくんと距離を縮められたのはあなたの功績が大きいと思っているから、あなたには感謝しているわ」
「ありがとうございます、お嬢様」
そして、ロッドエル家の屋敷に到着したシアナと、身を隠したバイオレットが屋敷に戻ると、シアナはルクスの部屋へ向かいそのドアをノックする。
「ご主人様、ただいま戻りました、入らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「シアナ!うん、入ってきて良いよ」
部屋の中からルクスの声が聞こえてきたため、シアナはルクスの部屋へ入る。
すると、嬉しそうな顔をしたルクスがシアナのことを出迎えてくれた。
「おかえり、シアナ!」
「はい、ご主人様」
「今日はシアナが居なくて少し寂しかったけど、フェリシアーナ様と今まで以上に距離を縮められたような気がするよ」
シアナが居なくて寂しいと言われ嬉しくなり、ルクスの口からフェリシアーナと距離を縮められたと言われてさらに嬉しくなったシアナは、どうにか口角が上がらないように必死に抑えていた。
「そ、そうなんですね、ご主人様」
「うん!フェリシアーナ様は、本当に優しくて綺麗な人で、本当にもっとお話したいなって思ったよ!」
遠回しに自分自身のことを褒められているシアナは、頬を赤く染めながら言う。
「そ、そう、ですか……それは、良かったです」
その後、少しの間ルクスが今日あったことをシアナに話し、一度話が落ち着くとシアナはルクスの部屋から出て自室へと戻った。
自室に戻ったシアナは、姿を現したバイオレットに話しかけられる。
「褒められていましたね、お嬢様」
「思わず口角が上がりそうになったわ……」
そう返事をしてから、シアナとバイオレットは王族交流会のことについて話し合うことにした────王族交流会まで、あと約一週間だった。
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