第21話 お茶会

 シアナと一緒に、馬車でフローレンス公爵家の屋敷まで来た僕は、その屋敷の大きさを見て驚いた。


「これが……フローレンスさんの、家……」


 大きさだけじゃなくて、装飾もとても凝っている。

 しかも、広々とした庭には綺麗な花がたくさん咲いていて、今まで色々な貴族の人の屋敷を見てきたけど、フローレンスさんの家が一番綺麗だ。


「綺麗な屋敷だね、シアナ」

「……そう、ですね」


 シアナはどこか歯切れが悪いようだったけど、きっとこの屋敷を見てその綺麗さに感激しているんだろう。

 僕たちが少しの間建物や庭に目を奪われていると、門が開いて優しい表情をしたフローレンスさんが出迎えにやって来た。


「ルクス・ロッドエル様、本日はこのフローレンス公爵家の屋敷まで足を運んでくださり、ありがとうございます」


 今日のフローレンスさんの服装は、ドレスを着てはいるが入学祝いパーティーの時ほど露出のあるものではなかった……やっぱり、あの時が特別露出の大きな服だったんだろう。

 僕は、挨拶をしてくれたフローレンスさんに、同じく挨拶をする。


「こちらこそ、僕のことをお茶会に誘ってくれてありがとうございます、フローレンスさん」

「いえ……」


 そして、フローレンスさんは僕のことを挨拶した後、シアナのことを見て疑問を抱いたようだった。


「……そちらの方は、メイド服を着ているということはルクス・ロッドエル様のメイドの方ですか?」

「あ、はい……すみません、呼ばれたのは僕だけだったので勝手に連れてくるのは失礼かなと思ったんですけど、どうしてもって聞かなくて……迷惑でしたら、今すぐ家に帰します」


 申し訳なく思いながらそう言った僕だったけど、フローレンスさんは相変わらず優しく穏やかな表情で言う。


「迷惑だなんてことはありませんよ……ほとんど接点の無い公爵家の人間から主人がお茶会に誘われて心配なされたのでしょうから、そうですよね?」


 フローレンスさんがシアナに向けてそう聞くと、シアナは頷いて言った。


「はい、ご主人様とフローレンス様のご迷惑になる可能性は考えましたが、それでもどうしてもご主人様のことが心配で……」

「結構です、是非あなたも一緒にお茶会を楽しみましょう……お名前をお聞きしても良いですか?」

「シアナと言います」

「シアナさん、よろしくお願いします」


 そう言って、フローレンスさんはシアナに優しく微笑みかけた。


「では、行きましょうか」


 そして、僕たちはフローレンスさんの案内で、そのお茶会をする場所にやって来た。

 そこは、この広い庭の一つの場所で、テーブルとそれを挟んでいる二つの椅子を中心として周りには数多くの花が囲まれている。

 何かを食べたり、それこそお茶会をするのにはとても良い雰囲気の場所だ……そこには、もうすでにティーポットや手軽なお菓子などが用意されている。

 僕が来ることしか想定されておらず椅子が二つだったためフローレンスさんがもう一つ椅子を持ってくると言ったが、シアナが立ったままでも大丈夫だと言って、フローリアさんと対面になるように座った僕の後ろに立った。


「フローレンスさんの家、とても綺麗ですね」

「フローレンス家は建築やお花に力を入れているので、そう言っていただけると嬉しいです……この家も、私には勿体無いほど綺麗な屋敷だと感じています」

「そうですか?フローレンスさんも綺麗な────」


 僕がフローレンスさんも綺麗な方だと思いますよ、と言おうとした時、後ろに居るシアナから突然口を塞がれた。


「シアナ……!?」


 僕が驚いていると、シアナが僕の耳元で囁くように言う。


「ご主人様、あまり女性のことを褒める発言は控えた方がよろしいと思います」

「ど、どうして?」

「理由は……ご説明できませんが、とにかく私以外の女性を褒めるような発言はお控えください」

「シアナのことは褒めてもいいの?」

「一日中褒めてくださっても良いです」

「そ……そう、わかったよ」


 理由はわからないけど、シアナがそうした方がいいって言うならきっとそうしたほうがいいちゃんとした理由があるはずだから、とりあえず今はシアナの言う通りにしておこう。

 その後、フローレンスさんと他愛も無い話をしていると、フローレンスさんが少し深い話をしてきた。


「ルクス・ロッドエル様は、意中の相手の方はいらっしゃるのですか?」


 意中な相手……好きな人とか、婚約者とかが居るのかってことだ。


「今のところは……居ないです、僕のことをそう思ってくれてる人も居ないと思いますよ」


 僕がそう言うと、一瞬シアナの居る後ろの方から物音が聞こえたけど、本当に一瞬だったから特に気にせずフローレンスさんの方に意識を集中する。

 すると、フローレンスさんは僕に微笑みかけながら言った。


「そうですか……では、仮に私がルクス・ロッドエル様に婚約を申し出たら、どう致しますか?」


 ────フローレンスさんが僕にそう聞いてきた瞬間、僕の後ろからとんでもない殺気を感じた。

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