第12話 入学祝いパーティー

 どうしてフェリシアーナ様がここに……!?

 と思った僕だったけど、この入学祝いパーティーには僕以外にもたくさんの貴族の人、それも僕なんかよりも爵位も実績もある名だたる人たちが居る。

 そんな人たちを差し置いて、わざわざ僕のところまで真っ直ぐ来たということは────僕は、ある一つの結論に辿り着いて、すぐにフェリシアーナ様に頭を下げた。


「すみません!フェリシアーナ様!僕、何か先ほど無礼を働いてしまったのでしょうか……!」

「え……?あぁ……ルクスくん、顔を上げて」


 僕が、何をしてしまったのかはわからないなりに謝意に誠意を込めて頭を下げていると、フェリシアーナ様が優しくそう言ってくれたので僕は顔を上げた。

 すると、フェリシアーナ様は優しい表情で言った。


「私は別に、ルクスくんに腹を立ててここに来たわけじゃないわ、私がここに来たのは、入学祝いパーティーに対するサプライズなのよ」

「サプ、ライズ……そう、ですよね!フェリシアーナ様が、わざわざ僕一人のためだけに行動を起こすはずないですもんね!」

「そ、そういうわけではないのよ?」


 僕は自分の出過ぎた思考を反省しながら周りを見てみると、周りの人たちはみんなフェリシアーナ様のことを見ていた。


「おい、フェリシアーナ様が居るぞ……!」

「本当ですわ、近くで見るとなんとお美しい…‥」


 その声を聞くと、さらに人が人を呼び、僕たちの周りには少しずつ人が増え始めていた。

 周りの人たちの反応を見るに、サプライズというのは概ね成功と言えそうだ……でも、そうなると一つ気になることがある。


「失礼かもしれないのですが、サプライズということでしたら、どうして僕に話しかけてくださったんですか?」

「さっき私と話していたルクスくんのお友達がどんな子なのか少し興味が湧いたのよ」


 そう言いながら、フェリシアーナ様は僕の隣に居る青髪の少女に目を配った。


「あなた、ルクスくんとはどういう関係?」


 一瞬、そう問いかけたフェリシアーナ様の目が怖いぐらいに冷たい目だったような気がしたけど、一度瞬きをしてからもう一度見てみると、フェリシアーナ様の目は普段通りの目だった……貴族学校の入学式にシアナの心配、入学祝いパーティーにフェリシアーナ様と直接お話しているということも相まって、少し疲れが溜まっているのかもしれない。


「私とルクス・ロッドエル様は、まだ関係性を名称として口にできるほどの関係ではありません、お話させていただいたのは本日が初めてなので」


 青髪の少女は、相変わらず優しく穏やかな表情と声音でそう言った。

 フェリシアーナ様はそれに小さく頷いて、落ち着いた声音で言う。


「そう……それにしてもあなたのそのドレス、少しでもめくれたら胸元が完全に露出してしまいそうね」

「このドレスは決してそのようなことにはならないように作られているので、第三王女様がご心配なさる必要はありません」


 僕もそのことは少し心配していたけど、そういうことなら心配する必要はなさそうだ。


「……」


 フェリシアーナ様もそう判断したのか、少し沈黙して青髪の少女に向けていた目を一度どこかへ向けてから、今度は僕の方に目を向けて口を開いた。


「ルクスくん、良ければ今から────」


 フェリシアーナ様は僕に何かを言いかけたところで、その続きを言うのをやめた。


「……フェリシアーナ様?」


 僕がそう呼びかけた後、フェリシアーナ様は少し俯いてから僕に微笑みかけてくれながら言った。


「なんでもないわ、あとは周りに居る人たちに軽く挨拶をしてサプライズは終了だから、そろそろ行くわね……また会いましょう」

「は、はい!」


 僕がそう返事をすると、フェリシアーナ様は最後にもう一度笑顔を向けてから僕たちの元を離れて、周りに集まっていた人たちに軽く挨拶をしてからこの会場を後にした。

 フェリシアーナ様が僕たちの元から離れたことで、僕たちの周りには人が居なくなり、僕の隣に居る青髪の少女が僕に話しかけてきた。


「ルクス・ロッドエル様は、第三王女様と何か親交があるのですか?」

「この会場に来る前に一度だけたまたま話しただけで、それ以外はほとんど無いです!」

「そうですか……では────お料理を食べるのを、ご一緒してもよろしいですか?」

「はい、お願いします!」


 その後、僕と青髪の少女は、入学祝いパーティーの時間を一緒に美味しい料理を食べて過ごした。



◇シアナside◇

 入学祝いパーティーの会場から出たシアナは、建物の影に隠れて立っていた黒のフードを被った長身の少女に話しかけた。


「……どうして止めたの?」

「そんなことは聞かなくてもお嬢様ならわかっているはずです」


 シアナは、青髪の少女から別のところへ視線を移した時、ダンスを踊っている人たちの方を見ていた────つまり、シアナはルクスのことをダンスに誘おうとしていた。

 が、それを視界の端に映った黒のフードを被った少女に止められ、特にルクスと距離を縮めることはできずに入学祝いパーティーの会場から出たということだ。

 黒のフードを被った少女がそれを止めたのは、男女でダンスをするというのは通常とても親しい仲、もしくは婚約者や男女の関係など、とにかく深い仲のものが行うことであり、それは決して第三王女であるシアナが後先を考えずにして良いことではなかった。


「わかってるわよ、自分が感情的になってるっていうのは……でも、ルクスくんが他の女と仲良くなるかもしれないって考えたら────」

「お嬢様の気持ちはわかりますが、まだまだこれから長い時間があります……今考え無しに行動を起こしても、お嬢様にとって良い結果をもたらすとは思えません」

「……そうよね、ごめんなさい、あなたが居てくれて良かったわ……とりあえず、今日でフェリシアーナとしてルクスくんと接点を作ることには成功した────今後、あなたにはそのフードを外して私に協力してもらうこともあると思うけれど、準備はできてるわね?」

「はい、どんな任務でも必ず遂行します」

「良い返事ね……私はメイドとしてルクスくんの帰りを出迎えないと────いえ、ルクスくんの帰りを私が出迎えたいから先に帰っているわ、あなたは引き続きルクスくんに近づく女が居るかどうかを見張って」

「承知しました」


 そう言うと、黒のフードを被った少女はシアナの前から姿を消し、シアナは貴族学校から出てロッドエル伯爵家の屋敷へと帰宅した。

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