第2話 都市伝説と町おこし
僕の名前は時方悠。
この現代の理不尽に心を痛める一少年だ。
日本には、いや、世界には、数多くの都市伝説のようなものが存在している。
そこに行くとこんな目に遭う、あんな奴がいる。エトセトラ、エトセトラ。
正直、どうでも良い話だと思うのだけど、最近の配信ブームもあってか、そういうところへわざわざ行く者も多いらしい。
度し難い話だ、と思う。
「全くその通りね。悠ちゃん」
「千瑛ちゃんか」
幽霊兼AIの新居千瑛が現れた。
「都市伝説なんて20世紀の遺物かと思いきや、最近配信系の拡大とともに復権しているらしいわね。AI機能で調べたら予想外に多くて、さすがの私もびっくりしたわ」
「みんな、ネタに困っているんだね」
ラノベ小説だって、フォーマットさえ踏まえていたらいくらでも書籍化したいという話は聞くよね。売れるかどうかは別にして。
「しかも、最近では過疎化して都市伝説に頼って人を呼び寄せようとしているところもあるらしいわ。嘆かわしい限りね」
「そうなんだ……」
ただまあ、普通のことをやっても注目を浴びることはない。
配信で炎上系に走る者がいるように、町おこし村おこしでも炎上系に走りたくなるところはあるのかもしれない。
「……ジェイソン村って知っている?」
「13日の金曜日に出てくるジェイソンみたいなのが出てくるやつのこと?」
確か『金田一少年の事件簿』にもなかったっけ。他にもあるのかな?
「そうよ。自前の怪談やら都市伝説すら用意できず、自己のアイデンティティを他所のネタから拝借しようとする愚鈍な地域が作り上げた幻想よ」
その言い方は酷過ぎない?
「ちなみに作者が見たある都市伝説系の本によると、全国に12個くらいあるらしいわ」
そんなにあるのか。
確かに安易というか、もう少し考えたほうがいいだろうって気はする。
「ということはつまり、次が13個目ということよ」
「あらま」
「作者が調べたわけではないし、敢えてネタとしてその本は12としていたのかもしれないけどね。それはともかくこの前、金曜町という土地を見つけたわ。過疎地で何でも良いから起爆剤となるネタが欲しいって。だから、協力することにしたの」
何という無謀なことをするんだ、金曜町。
もう少し頼む相手を考えるべきだよ。
「ということで、IQ300の自称天才科学者・
もはや事態は絶望的だ。
金曜町、何と哀れなのだろう。
絶望している僕を無視して、彼女はプロモーションビデオを見せてきた。
そこにはいかにもジェイソンという仮面をかぶった男がいる。
一体仮面の下は何者なのかというくらい、筋肉が発達している。
「彼はジェイソンたるべく改造を受けたのよ。そのパワーはフンコロガシのごとく。体重の1000倍のものを持ち上げられるのよ。さすがに本物のような110キロの巨漢を用意することは難しくて80キロしかないけど、80トンまでのものを持ち運べるわ」
「80トン!?」
驚く僕をあざ笑うかのように、ジェイソンは用意されている90式戦車【公称50トン】を放り投げ、ものすごい勢いで包丁を振り回している。
「更にその生命力と俊敏性はゴキブリのごとくよ。核ミサイルの直撃を受けても死ぬことはないし、時速300キロ程度で走れるわ」
「ジェイソンそこまで強かったっけ!?」
そこまで行くとジェイソンというより、ランボーでしょ。
そんなのが国内にいるなんて勘弁してほしいんだけど。
「大丈夫よ。彼が活動できるのは13日の金曜日だけよ。それ以外の日に行っても、金曜町は平和だわ」
「そんなのが暴れたら、数年平和でも一日だけで街は廃墟になると思うよ?」
「大丈夫よ。彼は知能はないから、金曜町を離れることはできないわ。乗り物が使えないというのは大変よね」
時速300キロで走れるなら、半日もあれば日本中どこでも行けるんじゃないだろうか?
「でも、これでどう町おこしをするわけ?」
「13日の金曜日の最終バス、23時26分到着ツアーを組んだのよ。運の悪いツアー客は死ぬけれども、そうでないものにはとてつもないスリルになるわ」
とんでもないツアーだ。
しかし、このエンタメ狂時代、こんなスリルを求める者がいるのかもしれない。
「この日だけ、地域警察が金曜町だけ銃器使用許可を解禁するのよ。だから、サバゲーで物足りなくなったものが実弾を思う存分楽しむことができるのよ。そんなものを食らってもジェイソンは死なないけどね」
何という恐ろしいツアーを企画するんだ。
山登りで批判される人達が可愛く見えてくる。
「将来的には国内外からの犯罪者受け入れも計画しているわ。12時に街の中央に放り込んで生きのこったら無罪放免よ」
作者注:金曜町という地域は存在していません。ただし、金曜日に市を開く金曜市(金曜市場)は存在しています。
でも、貴方の持つ地図を良く見てください。
ひょっとしたら、隣町が金曜町だったりするのかも……?
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