第5話 結果が出ました。
「こ、これは…!」
「トリフ、筆記を頼む」
代表男性が書記官男性に命令しているが、私の目は四角錘のアイテムに釘付けで離せない。
「マツマイ様、どうされましたか?」
アイテムを掲げた、メーサと呼ばれた女性が怪訝そうに問いかけてくる。私はゆっくりとそちらへ振り向いて答えた。
「あの…読めません…」
「えっ」
「文字が読めなくて分からないんです…」
長い長い沈黙が降りた。私の体感では数十秒あったが、おそらく実際には数秒だろうと思う。しかたがないので後で誰かに読み上げてもらおうと決めたのとほぼ同時に、メーサさんが声を上げた。
「あっすみません、向きが間違っていたようですわ」
くるりと180度回転する四角錘。その面には日本語文字で書かれた鑑定結果が表示されていた。
「あ、日本語だ!」
「このプリズムファクトは、被鑑定者と鑑定者、それぞれが使用する言語で表示できる媒体なんです。」
「便利ですねぇ」
あの四角錘は鑑定そのものに作用するわけではなく、補助的なアイテムだったようだ。
今度こそ内容を確認していく。
名前:末舞 癒観(まつまい ゆみ)
年齢:28歳
運動:やや鈍足
魔力:潤沢
適正:土 火 水
固有:地下水脈探知
なんだ、”やや鈍足”って。確かに昔から走るのはおろか運動はすべてイマイチだったのは認めるが、ほかに良い言い回しは無かったのか。誰に文句をつけようか。目の前の鑑定士団代表だろうか。そこまで考えたが、文句を言ったところでどうしようもないと思い直し、やめた。Be Cool,Be Cool.
それよりも、今は固有魔法についてだ。この”地下水脈探知”がそうなのだろうが、なんだかとても限定的な能力な気がする。地下水脈がわかったとて、どうしろというのか。
これはあたりはずれ、どっちだろう。
「ほぉ、マツマイ様は魔力量が”潤沢”なようですな。魔法は生活に欠かせませんから、とても生活しやすいでしょうなぁ。」
「そ、そうなんですね。頑張っていっぱい練習します。」
鑑定士団代表がほめてくれた。文句付けようとしてごめん。
「固有能力については”地下水脈探知”ですか…、…過去の記録は見当たりませんので、詳細は不明ですね」
「記録なし、とはなかなかに珍しいお方だ。」
「はぁ、ありがとうございます…?」
トリフと呼ばれた書記官男性が教えてくれた話によると固有能力は唯一無二ではないようで、過去にはまったく別の異世界人なのに固有能力が重複していた事もあるらしい。
そして今回鑑定した結果の”地下水脈探知”は、過去に前例がないようで詳細が分からないため、今後定期的に教会の人間が立ち会っていくつか実験をして実態を明らかにしていくのだそうだ。
その間、私はディミクレオ領預りとなるらしい。まだまだお菓子がおいしい生活を続けることができそうでホッとする。
「それでは以上になります。」
「ありがとうございました。」
鑑定士団の方々はとても忙しい身の上らしく、必要なことをやり遂げたらさっさと退室していかれた。
最後にメーサと呼ばれた女性の後姿を見送った私は、緊張から来る疲れがどっと押し寄せてきたのでふらふらとソファーに座り込んだ。すると見計らったようにメイドさんが現れ、いれたてのお茶を出してくれる。いつも良くしてくれるメイドさんだったので自然と微笑んでお礼を言えば、にっこり笑って返してくれた。こういうやり取りに日々の癒しがあると言っても過言ではない。
「地下水脈探知…ですか」
「です。」
あれから一息ついてだいぶ疲労が回復したので、通いなれたティーナの部屋で報告会という名のお茶会を開いていた。今日もお菓子が絶品だ。
「正直、役に立つかどうかもさっぱりわからないんですよね…」
「そうでしょうか。わたくしにはとても有用な能力に思えますわ。」
本当にそうか、と首をかしげて考え込む私にはティーナの目がキラリと光って見えた。
「例えば領内で干害が発生した場合、水脈の場所がわかれば素早く井戸を増やす事ができます。」
「なるほど」
「逆に水脈が分かれば、掘ってはいけない箇所も把握できますわね。」
「なるほどなるほど…。そう考えると人の役に立てることができそうですね。」
ティーナはスルスルと私にはなかった発想で話をしてくれた。自分の能力は決して役立たずではないと、力強い目でうったえかけられる。
そうして奮い立たされた私は、今後はじまるという能力測定に高いモチベーションで挑むことができたのだった。
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