2章 第4話 託されたもの

「レグルスは僕しか使えない?」

 星辰は思わず月影の顔を見た。


「そう、二号機のテールムはあなたのお父上しか使いこなせなかった様に。実際、あなたはレグルスを使いこなしてみせた」


「あれは無我夢中だったから……」


「無我夢中でも、レグルスを使いこなしたのは事実です」


「レグルスは僕しか……あ、そうか、だから犯罪組織が僕を狙ってる?」


「そう、一号機のディアボルスはお父上が破壊し、二号機のテールムも地球に降り立つ前に機能を停止しました。この銀河でアルブスAIを搭載しているファミリアは現状レグルスのみ。そして、それを使用できるものは、あなただけです」


「だから、僕をさらって仲間にしようとしてるのか……」


「おそらく、それだけレグルスには価値があると奴らは考えているのでしょう」

 月影は、ここで眼鏡をくいっとあげた。そして、話を続ける。


「アルブスAI搭載のファミリアは神にも悪魔にもなります。成長した一号機のディアボルスがひとつの星を破壊するところを見たことがあります。その一号機を破壊したテールスも同等の力を持っておりました……」


「な……」

 星辰は絶句した。


「お二人を追っていた犯罪組織の中には、星辰君のご両親を殺すためではなくさらって無理やり仲間に組み入れようとする組織もあった様です。テールムはお父上しか使えなかったし、アルブスAI搭載型のファミリアはお母上しか製造できませんでしたから」


「そんな能力があったら、たしかに殺すより仲間にした方が利用価値が良いって考えるかも……だから犯罪組織はやっきになって二人を追ったんだ」


「そう。その旅のはてに地球に来ました。しかし、その旅もお二人にとってつらい旅だった。お母上はもともとお体が弱く、お父上は長い戦いで体が傷つている上、逃亡中も犯罪組織に追われ続け地球に来た時には……」


「二人ともボロボロだった?」


「ええ、地球で日常生活を送るには問題ないようでしたが、長い戦いと逃走がお二人のお体を蝕みました。ゆえに若くしてお二人は……」


「そうか、そうだったんだね……」

 星辰がまた、うつむく。


「……言い方にデリカシーがなかったですね。申し訳ありません」


「ううん。大丈夫」

 星辰は少し目をこすった。


「そんな状態だったからお父さんはもうレグルスは使えなかった……」

 星辰が言う。


「そう。あなたはレグルスを使える適正がありました。そこで地球を守る使命をあなたに託したのです。しかし、それも断腸の思いだったでしょう。あなたの人生に重いものを背負わせてしまうことに……」


「だけど他に手がなかった」


「……」

 星辰の言葉に月影は静かにうなずいた。


「ですが、お二人はあなたのことを愛しておりました。これは間違いないです」

 月影が言った。


「……うん」

 星辰がうなずく。


「地球を守るなんて、話が大きすぎてピンと来てないけど……」


「それがお父さんとお母さんの意志だって言うなら、その使命を受け継ぐよ。僕しかできないんでしょ?」


「そうですね。でも私もみんなも出来る限り手伝います。ご両親から星辰君を託されましたから」


「そうか、先生が紅鏡家の一員になって僕の先生になったのは、お父さんとお母さんから頼まれたからだったんだ」


「……そうですね」


「……僕のために、ごめんなさい」


「また、なぜ謝るのです?」


「先生には、先生に人生があったのに僕のために紅鏡家入ったから……」


「そのようなことを……君のお父上にはお世話になったのです。君にその恩を返しているんですよ。それに紅鏡家はお給料も良いですしね」


「でも……」


「まあ、星辰君が気にすることではないですよ。私が自分で選んだ人生です。後悔などありません」


「うん。分かったよ」

 星辰は月影の目を見て言った。


「それなら……良かったです。他に聞きたいことはありますか?」


「うーん、両親のこと、僕の生まれ、宇宙の悪い奴が僕を狙う理由、地球に貴重な鉱物、レグルスのこと、結構聞けたかな?もう大丈夫かな?」

 星辰が右手の指を折りながら言った。


「そうですか?確かに随分喋りましたね。今日はここまでにしましょうか?」


「うん」

 星辰がうなずく。


「ああ、あと星辰君を狙っている犯罪組織ですが、星辰君のことは気づいたもののオリハルコニウムとアダマンチウムについてはまだ気づいてない様です」


「気づいたら大勢で攻めてくるかもだものね。まだ地球が狙われてないのは救いかな。だとすると、現状では僕とレグルスをさらうのが狙い?」


「そうなります。まずは奴らの刺客を迎え撃つ戦いになるでしょう」


「戦い……」

 星辰がつぶやく。


「不安ですか?」

 月影が聞いた。


「ちょっとだけ……でも、大丈夫。悪い奴がくるなら迎え撃ってやるさ」

 星辰はそういうと少しはにかんだ。


「それに、僕に目を引き付けておけば悪い奴らから地球のことから目をそらせるかも?」

 星辰が続けて言った。


「……それは星辰君をおとりにする様で、あまり気は進みませんが……」

 少し険しい顔をした月影が答えた。


「でも、その方がきっと良いよね?」

 

「……星辰君……」

 月影は少しうつむいた。


「私たちも星辰君を全力で守ります」

 そして、顔を上げると星辰にこう言った。


「ありがとう」


「あとは星辰君にも自衛のための手段として、通常の勉強や運動の他に格闘技やファミリアの動かし方の訓練も行うつもりです」


「本当?」


「ええ、そのために私がいるのですから」


「分かった。僕、がんばるよ」

 星辰が元気よく答える。


「ああ、でも……」

 星辰が少し首をかしげる。


「どうかしたのですか?」

 その様子に月影が聞く。


「あの二人の女の子。アクイラとウルラって言ったっけ?」

 星辰も月影に聞いた。


「ええ。そうです」


「先生はあの二人は知ってる風だったよね?」


「宇宙で指名手配されている二人ですから」


「そうなんだ。僕と同じくらいの年なのに……」


「その二人がどうしたのですか?」


「いや、あの二人や公園にいた宇宙人たちは、なんで僕とレグルスが地球にあることが分かったんだろう?それだけは不思議だなって思って……」

 星辰が疑問を言った。


「それでしたら、多少の見当がついてます」

 月影が星辰の疑問に答えるように言った。

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