第47話 おはよ
「おはよ」
「ふえっ!?」
変な声が出て、気付いたら俺は飛び起きていた。弾みでベッドが揺れている。
お、お、俺、なんて夢見て……強姦? いや、合意? いやでも、俺にとっては強姦だわ。
あば、あばばば……
行為時の感覚がリアルじゃなかったのが、幸いだった……粘膜同士の擦り合いを生々しく胎ん中で感じていたら、俺はベッドに嘔吐していたかもしれない。
いつだってキスができて、背中に乗れて、どこでも、いつも一緒で……抱き合うし、水浴びだってするし、そのまま、流れで、こ、交尾だってする関係で……
そ、それにしても、お師匠様とアルエット王子は、かなり原始的な愛し合い方するんだな。外で、しかも甘えん坊な子供たちの前でも気にせずに、卵を生んだら次の卵を生むために、それが自然かのように……。え、なんか、お猿さん? アルエット王子って、人間じゃないの?
「ねえ、おはようは?」
「え?」
ベッドには枕が二つ並んでて、そのうちの一つにノワールが頭をつけて、俺を見上げていた。
うう、なんだか視界が悪いな……ああ、そっか、眼帯したまま寝てたんだった。もう目は痛くないし、外してみた。あー、すっきり。
あれ? 手足が縛られてないぞ……って、思い出したわ、もうそこまでの拘束はされてないんだった。毎日当たり前のように縛られてたから、混乱しちまった。
「ねえ、おはようは?」
「あ、お、おはよ……」
「白目剥いて、うなされてたね」
「え……」
「どんな夢見たの? 話せたら、教えて」
ノワールは、俺が外した眼帯を、ものすごく汚い物のようにつまんで、ゴミ箱に放り入れながら、そう言った。
もしかしたら、俺が思うほどノワールに深い意味はなかったのかもしれないけれど、話せたら教えて欲しいって言う、そのゆるい言い方が、ほんの少しだけ俺を落ちつかせてくれた。
でも……とてもじゃないけど、寝起きですぐに話せる内容じゃなかった。だから、まず、手始めに、アルエット王子の見た目だけ、詳しく話した。顔は泉に映ってたから、いちおう説明することはできるしな。
「しっぽ?」
「うん。なんでかなぁ、夢に出てくるアルエット王子には、白い尻尾が生えてるんだ」
「他には? 白目を剥くほど、怖い目にあったの?」
え……ええええ〜? アルエット王子になって、お師匠様から強姦、いや、同意? もうわかんねえや、とにかくヤっちまったって話すの、嫌なんだけど……だあああ! 夢だ! 夢なんだアレは! 実際に俺が犯されてたわけじゃない!!
俺は泣きそうな自分に叱咤激励しながら、ノワールに話した。
ノワールがいつにも増して真剣な顔で、大きく頷いた。
「これで確信が持てた。イオラは間違いなく、アルエット王子の生まれ変わり」
「マジで? なんでそう思ったの?」
「だってボク、アルエット王子に会ったことあるから。イオラが話してくれたこと、全部知ってる」
は???
会ったことがある???
しかも、お師匠様とアルエット王子の、その、そういう事してるのも、見たことがあるって???
「あの、その、つまり、全部って、お師匠様とアルエット王子の――」
「うん、知ってる。だってその場にいたから」
「いたぁ??? どういう、ことだよ……お前いくつなの?」
掠れた声で尋ねる俺に向かって、ノワールは穏やかに微笑んだ。その顔が、やたら可愛く見えた。
「森の王とアルエット王子、たくさん交尾してた。卵もたくさん生んだの。ボク、全部知ってる。だって、すぐとなりで眺めてたから」
「お前、何者なんだよ」
ついに質問してしまった。明らかに人外を目の前にして、お前の正体はなんだと、面と向かって問うのはけっこう怖かったけど、もうこの流れで尋ねるしかないだろ。
「ボクの話、とっても長いから、歩きながら話そう。イオラの朝の支度もさせてねって、サフからお願いされてるし」
「あ、ハイ」
とりあえず、ベッドから出ようって話になった。王族御用達のベッドのせいか、寝心地だけはいいんだよな。三度寝も四度寝もできちまいそうで、ちょっと怖い。ポヨポヨと弾むベッドから、俺たちは下りたのだった。
「イオラ、お腹すいた?」
「うん、ちょっとなら何か食べたいかも」
ずっと忘れてた空腹という感覚を、体がじわりと思い出していく。じつに数年ぶりの空腹に、俺は自分のお腹をしげしげとさすった。少しずつだけど、俺、元の体に戻っていってるんだな……。
ん……? なんだ、このモコモコする感触は。パジャマの襟をグイと引っ張って、服の中を見てみたら、チビ達が潜り込んで寝てた。
窓際の鳥籠を見ると、扉が全開していた。妖精嫌いなサフィールが鍵を開けてやったとは考えにくい。多分、昨日のクッキーで魔力を補充したチビ達が、久しぶりの魔法で鍵破りしたんだろう。そして、俺の服の中に潜り込んで眠ったと……ほんとに赤ちゃんだな。
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