第37話 あの時、こんな事してた……
「おじさん、俺は何も痛い事はされてないよ」
「ええ? だけど、中からすごい悲鳴が」
「う……恥ずかしいから、このまま一生誰にも言わずに、やり過ごそうと思ってたんだけど……あのとき、王子と……その……ヤってたんだ……合意で……」
おじさんは何を言われたのかわかっておらず、しばらくぽかーんとしていたが、やがて目も口も大きく開けて、耳まで赤くなってしまった。
「おじさんの大事な職場で、変なことしてて、ごめん……。おじさんが聞いてた俺のうめき声みたいなのは、全部、その……」
恥ずかしくて、最後まで説明できなかった。目も合わせられなくて、床ばかりに視線が泳ぐ。こ、これであのイカレ王子様が、やばいヤツだけど非道ではないって、伝わるといいな。
「彼の名前はイオラ。今は王子のお城で一緒に暮らしています」
げ、何を言い出すんだよ、余計なこと言うなよ。
「毎晩のように王子を求めて、キスや愛撫をねだる始末。行為の最中はずっと王子を愛称で呼び続ける有様で、おかげでこちらは強引な夜伽に苦しめられずに済んでおります」
おじさんが頭のてっぺんまで、茹でダコのようになって俺を凝視していた。その視線が、めちゃくちゃ刺さってくる……内容も微妙に全部合ってるから、俺の羞恥心も刺激される。
あ、胎が……どくどく、してきた。
まさか、王子との妄想話を誰かに話しただけでも、胎の中が妊娠の準備を始める、とか……? 冗談よせよ 胎の奥が脈打ってるのがわかる……
「ほ、本当に合意なんだね? 王子に捕まって、無理やりひどい事をされてるわけじゃないんだね?」
う……これは答えなきゃダメなヤツか……うぅ、胎の血流が良くなってきたのか、熱くて脈打ちが早くて 激しくなってきた……
「ぜ、全部、本当のことだよ……。俺、なんでかルナリア王子のこと、好きになっちゃってさ」
「浴室ではずっと王子に抱きついて、離れません。今日は自ら王子の膝に乗り、子種の催促を」
そんな言い方するなー!! あのとき風呂でヤッちまったみたいじゃねーかー!
「サ、サファイア姫、もういいよ、俺が痛い思いをさせられたわけじゃないって伝われば、それで、もう――」
「そう言えばイオラは、初対面だったルナリア王子と、こんな所で初体験を済ませたのですね。どのようにして誘ったのですか? 馴れ初め話、わたくしも詳しく知りたいです。このおじさんだって、その辺が一番気になっているのでは?」
こいつ!! その辺は全部嘘なんだから、適当にスルーさせろよ!
「こんな所で本当にヤるわけねえだろうがよ!(小声) どう話を盛れって言うんだよ!(小声)」
「では、僕が話をまとめてあげますね(にっこり&小声)」
え なんか、すっげーヤな予感が……
……その、巷で噂の困った妖精だった俺は、自分を捕まえたルナリア王子に、痺れるような恋をして、戸惑う王子を誘って、それから……人目も憚らず何時間も、始終気持ちよくハジメテを捧げたって話を作られました(怒)
「以上でお会計よろしくお願いします」
「何を買ったんだよ! ただおっさんに変なこと説明してただけじゃねーか!」
「わたくしにとっては、良いお買い物でしたわ。それではおじさん、ごきげんよう。また可愛いお靴、たくさん作ってくださいませね」
常連かよ!
もうやだ、こいつ~……。
「あら? イオラはご気分が優れないようです。すぐに連れて帰りますわね」
どなたのせいでご気分が優れなくなったんですわよ。
俺は手首を掴まれて、店から引っ張り出された。俺は片手でお腹をずっと押さえてて、もう帰りたいと助手二人に伝えた。
全員が店の中になんて入れないから、外で待っていた兄ちゃんたちには、何がどうなったのか、わかったもんじゃない。サファイア姫に本当は護衛が必要ないくらい、めちゃくちゃ強いことしか知らないんだと思う。
「さて、これでお兄様が本当は優しい人なんだって、広まりますかしら?」
「俺もう、この街、歩けねえじゃんかよ……」
「では、ずーっとお城にいればいいじゃないですか」
「やだよ……それはそれで地獄じゃねえかよ……」
会話だけでここまで他人を追い詰めるヤツがあるかよ。誰か~、俺の味方してくれよ~。ポッケの中のチビたちも、いつまで寝てるんだよぉ、最近起きてるとこ見たことないぞ……。
「それじゃあ帰ろう、イオラ」
「帰りましょう、イオラ」
黄昏時に、黒いリボンで目隠ししたまま俺のほうを見てそう言う、黒ゴシックな銀髪お姫様しかも双子のように瓜二つって、なかなか無いホラーな景色だった……。周りはムキムキの兄ちゃんズだし。
なんか世界観めちゃくちゃなドラマの撮影みたいな光景だな。エキストラの服装とヒロインが不協和音すぎるわ。
こいつら、本当に味方なんだよな……? だんだん信じられなくなってきた自分がいるんだけど、でも他に行くところもないし、城に帰るか……なんだか嫌な予感がするけど、気のせいだよな……。
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