✜16 暗殺のプロ
「状況は?」
「ひとり奴隷の女が腕が立ちそうだが、あとは問題なさそうだ」
「冒険者の数は?」
「いない。こちらが騙して連れてきた2人だけ、宿屋に泊っている」
「わかった。合図を受けたら一斉に街を襲撃する」
「ああ、頼む」
岩山の麓で声を潜めて話す2つの影が、月がほとんど見えてない中ですっと姿を消した。
街の中は完全に寝静まっており、誰ひとり建物の外へ出ていない。この街を支配しようと企む人物は街の中央にある噴水広場へ向かいながら、状況を分析する。
この街が無防備でいられる理由は、ずばり街の近郊を徘徊しているゴーレムの存在。魔物は発見次第、狩っているが、人間をいっさい襲う素振りがない。これはゴーレムがこの街を守るよう命令を与えているからに他ならない。
そんな命令を与えるのは、当然高い魔力を有してなければできる芸当ではない。魔力探知器という魔法具を使って探索すると唯一魔力の高い人物は現在、川のそばにある小さな家のなかから動いていないため、寝ているので好機と捉えている。
街の外へいるゴーレムに命令を与える前に術者を倒せば、この街を守る者は獣人族の赤い髪した奴隷の女しかいない。かなり腕が立つだろうが、たったひとりしかいないため、囲んで襲えば多少犠牲は出ても倒せるだろう。もうひとりこの街の顔役を名乗る男もいたが、隙だらけだった。まったくの素人ではないにしろ、大した実力はないと見抜いた。
噴水広場へ到着して、すぐに音がほとんど出ない花火を打ち上げる。これで数刻もしないうちにこの街を暗殺者の群れが蹂躙するだろう。
どこの国のものでもなく、ダンジョンの奥地にある街、ゴーレムの術者さえ倒せばゴーレムは新たな命令を受け取れないので、半永久的にこの街を守ってくれる。闇ギルドとしては是が非でもこの街が欲しい。
騒がしくなる前にゴーレムの術者を寝込みを襲い始末するため、移動する。
起きた!? ──急に動きがあった。魔法具である片掛け式のメガネは魔力だけが映る。たとえ壁などで隔たりがあっても魔力だけ色がついて見えるので間違いようがない。
「どこへ行くの?」
「──ッ!?」
「まあ、素直にいう訳ないか」
いつの間にそこにいた? 道の脇からこの街の顔役の男が頭を掻きながら出てきた。そもそも魔力感知メガネで見てたのにまったく気づけなかった。一般人でも微細だが魔力を持っているのになぜだ?
だが、この男ひとりなら倒せる。武器の類は持っていないし、鎧も身に着けていない。腰に手を当てていて、警戒している様子がまったくない。もしかしたらまだ普通の冒険者だと思っているのか? どちらにせよ暗殺者にとって油断している相手ほど楽な仕事はない。
バラり、と遊戯用の札を空にばら撒く。そのひとつの挙動の中で同時に投げナイフを喉元へ投じた。人間はひとつの動きの中で違う動きを混ぜても目立つ方へ最初に意識が向くので、例えナイフが視界に映っていても意識は遊戯札に誤誘導されているので、相手の反射神経をコンマ数秒間、騙すワザなのでまず反応できない。
血しぶきをあげて、男は冷たい地面へ仰向けに倒れる、はずだった。──だが、確実に命中したはずなのにゴムにでも当たったようにナイフが跳ね返ってしまった。
「ビックリした~」
今、どこからその大型のナイフを出した? 魔力を感知できてないので魔法の類ではないはず……。なのに何もない空間から大型のナイフが出現し男がそれを握った。
だが、当初の見立て通り、対人戦はまったくの素人だった。ナイフなのに大振りしてきたので、ギリギリで避けて猛毒を塗ってあるダガーで太ももを突き刺した、はずだった……。
刺さらない。どうなっている?
「ぐっ!」
利き手ではない方の太ももを狙ったので、拳の裏で頬を殴られたが、想像していたよりはるかに重い一撃をもらってしまい、脳が揺れたが、かろうじて耐えて距離を取った。
毒も効いてない。それから何度もダガーで斬りつけ、突き刺したが、まったくの無傷……。カラクリがわからない以上、この男と関わっていたらこちらが危うい。
「この街は我々、暗殺者ギルドが支配下へ置く」
「昼にあった他のふたりは仲間?」
「奴らはただの餌だ。仲間ではない」
作戦を切り替えた。どうやら目の前の男は大声を出して、街の連中に知らせようとする素振りもない。それならそれを利用して時間稼ぎをする。会話を切り出したら、相手もそれに応じた。まもなく暗殺者ギルドの精鋭がこの街へ押し寄せ、蹂躙の限りを尽くすとは思ってもいないだろう。
「戦士風の男は仲間だと思ったのになー」
あの男か、浅薄で気の短い愚かで扱いやすい愚鈍な輩など利用してやるだけ感謝してもらいたいものだ。
「まるで俺が最初から暗殺者ギルドの者だとわかっていたかのような口ぶりだな」
「それは知らないけど
悪人の印? なにを言っているんだコイツ? そんなものがある訳ないだろうに。
まあ、それもどうでもよくなった。
「この街は終わりだ」
背後には20人からなる手練れの暗殺者が到着した。──これでこの街の運命は決まった。
「ははっ! なるほど、そういうことね」
笑っている? この期に及んで血迷ったのか。駆けつけた暗殺者の連中は一人ひとりが手練れ、その気になればこの街の住人全員を一夜で消し去るのも可能だというのに……。
「ならこっちも仲間を
男の背後に無数のゴーレムが
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