✜14 追いかけっこ


 昨日、機械音声から案内のあった魔法陣のような円のなかへ入った。ここだけコンクリートみたいな質感で、砂漠のなか焼きつく太陽の下だが熱が反射するわけではなく手で触れるとヒンヤリとしていた。


 ステータスウインドウのカウントダウンが0になると一瞬で目の前の風景が変わる。


 とても広大な草原で起伏がない真っ平らな場所で、どこまで緑の絨毯が続いている。木が一本も生えておらず石ころ一つ落ちていない。空にはちょうど真上に太陽があり、雲ひとつない青空だが、全体的に奇妙な違和感を覚えた。


 ステータスのクエスト画面のところの情報が更新された。


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 ヴァールギュントの第2試練クリア条件

 音速ウサギの首に提がっている鈴を奪う。

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 名前      音速ウサギ

 年齢     10,301歳

 種族   ヴァールギュント

 生命力        10

 筋力          2 

 敏捷性      1,225 

 知性          2

 精神力       108

 器用さ         2

 スタミナ     1,225

 幸運         10

 経験値         1

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 いつの間にか何の変哲もない白いウサギが、自分達の背後で草を食んでいた。距離にすると約30メートル先にいて、こちらの存在に気が付いていない。


 それにしてもヴァールギュントってデカいタコの怪物だけじゃないんだ……。同じ種族にはとてもみえない。


 っていうか、なんだこのデカい矢印? ウサギの頭の上のステータスバーよりさらに上に10メートルくらいの巨大な下方向を指している矢印が浮いている。小声でシュリに訊ねたが彼女は見えないと返事をもらった。


 音速ウサギってすごい名前、敏捷性が1,000を超えてるから目で追えないんじゃ……。


 とりあえず刺激しないようにそっと近づく。 


 ドンっと衝撃音に近い音とともに爆風が顔を打った。


 ──って消えた? 


「アラタ、あれだ」


 ヤコに言われて気が付いた。真横へ顔を向けると、はるか遠くに例の巨大な矢印がみえる。ヤコは矢印が見えてないはずなので、あの一瞬で音速ウサギがどこへ移動したのかを目で追えたということになる。


 それから何度も試したがダメだった。一気に駆け寄っても、クリエイティブで投げ網やボーラという狩猟用の投擲武器を生成して投げてもかすりもしない。爆発するようなダッシュで一瞬で目の前から姿を消える。


 ちなみにシュリの魔法を使っても音速ウサギの「精神力」が高くて、睡眠や混乱といった精神に作用する魔法も効果がなかった。かといって直接ダメージを与えるような魔法は使えない。クリア条件は、音速ウサギの首にぶら下がっている鈴を奪うことなので、殺傷してしまってはクリアが達成とならない可能性がある。


 何回か捕まえようと試行錯誤した結果、音速ウサギの行動パターンはだんだん読めてきた。


 まず、近づいていくと、こっそり近づこうが飛び掛かろうが、約10メートルまで近づくとこちらに気が付き逃げてしまう。次に逃げる時は近づいてくるものに対して必ず右か左の90度の方向へ直線的に移動している。


 それさえわかれば、なんとかなるかも。試しにシュリの魔法で左右90度のところへ魔法の網を張ってもらう。


 結果は魔法の網をぶち破って、去ってしまった。音速ウサギのスタミナは高速移動する時に多少は消費しているのが、ステータスウインドウで見てとれる。だがスタミナが1,000を超えているので、一度取り逃がした音速ウサギの元へ走って移動している間にスタミナをほぼ回復してしまうため、スタミナ切れを起こさせる作戦も無理だと悟った。


 じゃあこれならどうだろう? と、違う方法を思いつき実践してみる。


 離れたところからシュリの魔法で、音速ウサギの周囲を冷やしていく。だんだんと温度を下げ、音速ウサギは凍死寸前になり、動くのもできなくなったところを捕まえた。


 うまくいった。10メートル以内に近づかなければ・・・・・・・・・・・・・・・・、わかりやすい攻撃魔法じゃない限り逃げないのでは? という逆転の発想にもとづく試みだったが、無事成功した。首に提げてある鈴を外した。すぐにシュリの炎魔法で暖めてあげると、回復してすぐさま爆発ダッシュで姿を消した。


「ヴァールギュントの第2試練のクリアおめでとうございます」


 機械のような音声が鳴り響く。またゴーレム生成をもらえた時みたいにクリア特典がもらえるのかな。


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 ヴァールギュントの第2試練クリア特典

 「NPC生成」を獲得しました

 ➤➤詳しい説明をみる

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 NPC生成!? ノンプレイヤーキャラクター……ゲームの世界ではプレイヤーに操作されないキャラクターのことを指す言葉で、いったいなんに使うのか皆目見当もつかない謎の能力だった。


 詳しい説明のところを開くと、村人とか商人など「人間らしい振る舞いをするキャラ」を生成できるそうだ。日本にいた頃はNPCといえば、RPGをつくるゲームとかに導入されるシステムで、サンドボックス系のゲームでもモブキャラという名で呼ばれている。


 草原に立っていたはずなのに一瞬にして、例の岩山に囲まれた地上へ戻っていた。


 深夜0時にもらえるポイントは1回しかもらってないので、2日と経っていないがとても長く感じた試練だった。


 第2試練まであるなら第3試練もあるかもしれない。次こそは試練を受けないようにしないといつか犠牲者が出てしまう。




 


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