✜08 沐浴
ふーん、ここが人間の街かぁ~。
ダンジョン島と呼ばれているこの島唯一の街で、ふたつの大陸からそれぞれ色々な人がこの島へやってきて自然とできた街。冒険者がダンジョン島を探索するために宿屋や酒場、冒険者ギルドなどが、集まっており、どこの国の領土にも属していないため、治安はあまりいいようには見えない。
いちおう冒険者ギルドが雇った自警団がいるが、金で雇われている冒険者なので、賄賂なんて当たり前で、法を定めておらず、渾沌とした街ながら、冒険者がダンジョンを探索して稼いでくる財宝などで潤い、なんとか街として成り立っているといった印象を受けた。
さっそく用件を済ませる。薬草店、魔法具店、武器屋、防具屋、宿屋を順番に回った。
品物を買う必要はなく、クリエイティブで後で作りたいものを触ったり、ニオイを嗅いだり、どれくらいの重さなのか持ち上げたりして「認識」するだけで、いくらでも作ることができる。
この日、最後に向かったのは街のほぼ中央にある十数軒も並んでいる宿屋のひとつ。目的は宿泊を兼ねて、家具や調度品などを認識するため。
部屋はひとつだがベッドはふたつある。浴室はなく、宿屋の人が適度な温度に温めた水の入った桶を持ってきたので、シュリに先に入ってくださいと言われたので、一足先に沐浴することにした。
携帯するのに便利な旅行用の小さな洗顔、シャンプー、リンスセットとボディソープもクリエイティブで作って準備は万端、沐浴だが川で入るよりあったかいし落ち着いて入ることができる。
「アラタ様、お背中を流します」
「え、え、え?」
洗髪して、身体を洗おうとしたら、シュリがカーテンをめくり湯あみ用のタイルが張られたスペースへ入ってきた。
宿屋の身体拭きの布を使い、背中をゴシゴシと洗ってもらった。
正直、恥ずかしい。シュリの顔も真っ赤だった。恥ずかしいんだったら無理なんてしなくていいのに……。
「あ、ありがとう」
「いえ……その……私の背中もあとでお願いできないでしょうか?」
「え?」
「無理なら大丈夫です! 申し訳ありません変なこと口走っちゃって」
「いや、いいよ」
彼女の顔がまともに見れない。恥ずかしすぎて気を失いそう。──でも、背中を流して欲しいと滅多にお願いなんてしてこないシュリが頼まれたんだ。ちゃんと応えてあげないと。
自分の番が終わり、シュリが湯あみをする番になった。カーテンの向こうで衣擦れの音が微かに聞こえてくる。
「アラタ様、お願いします」
「う、うん」
前に薄い布を当てた状態でこちらに背中を向けて座っている。12歳と年齢どおりの線の細いカラダ。いつも丸まっている白い尻尾が濡れて垂れ下がっている。
「──んっ!」
「ゴメン、痛かった?」
「いえ、その背中がかゆくなってしまって」
びっくりした。直視するのが耐えられないので、はやく済ませようと顔を背けながら背中を洗っていたら、シュリが声を出したので、心臓が飛び出るほど驚いてしまった。
「じゃ続けるよ?」
「はい、お願いします」
シュリの国は奴隷である証の首輪がついている。きつく締まっている訳ではなく、指一本くらいは差し込めるほどは余裕はあるので、手が届きにくいであろう下側の方から布を潜り込ませて入念に洗ってあげる。
奴隷っていったいなんなんだろうな? 種族は違うけど同じ言葉を話す人間同士、なぜ人は奴隷を欲するのか?
ボディーソープを身体拭きの布へ充分染みこませてシュリの背中を洗い流し終わった。
ふたりとも湯あみを済ませて、就寝した。こんなにふかふかなベッドに寝たのは久しぶりだ。拠点化したゴブリンの集落にこのベッドを作るのも、わる……く……。
ちゅんちゅん、という鳥の鳴き声で目が覚めた。いつの間に寝入ったのかわからないぐらいによく眠れた。やはり管理下に置いているとはいえ、ゴブリンの集落のど真ん中で寝るよりはるかに安心感が得られたからだと思う。
って、うわぁぁぁッ。
シュリが自分のベッドへ潜り込んで寝ている。微かな寝息が聞こえ、自分の肩へおでこをぴったりとくっつけて寝ている姿はとても愛くるしい。──ってそんな悠長な感想を呟いている場合じゃなかった。
問題はベッドがふたつあるし、寝る時はもうひとつのベッドに寝ていたはずのシュリがなぜ自分のベッドで寝ているか、だ。
夢かもしれない……もう少し寝てみようかな。
次に目覚めた時には、隣にシュリはおらず、朝食を部屋まで運んでくれていた。
「シュリ、朝って」
「はい?」
「いや、なんでもない」
隣で寝てた? と聞きたかったが、寝ぼけて夢だったらとても恥ずかしい。黙っておくことにした。
有耶無耶になったまま、それ以上、シュリに問うこともせず、朝食を終え、準備を済まし、宿屋を出た。
「おや? シュリではありませんか?」
誰? 通りを歩いていたら眼鏡をかけた恰幅のいい老人が近づいてきた。
「今のご主人ですかな?」
「アナタは?」
シュリが、老人の顔を見て自分の背中へ隠れた。手を広げて老人の接近を防いだ。
「申し遅れました。私はブンゲル、奴隷商人をやっている者です」
奴隷商人……人間を品物として売り買いを生業としている一生、接点がなくてもいい人種。
「これでも商人の端くれ、商品を見る目は持っているつもりです」
「なにが言いたい?」
眼鏡の奥にあるヘの字をした目がうっすらと開いて、シュリを見定める。
「いえですね、ずいぶんと価値が上がったようですから、是非買い戻させて頂けないかと……」
「断る」
「そうですか、なら結構です。それより……」
本題は最初から違った? 畳みかけるように言葉を紡ぐ速度があがり、こちらの反応に気に留めることなく話を続けた。
「どうやら貴男様は『上客』のご様子、いかがですかな? もう一人奴隷を
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