第26話 馬鹿騒ぎと悲しい状況





 今日はいつもより早く起きた。

 俺が乃愛より先に起きるなんて珍しいこともあるんだなって思いつつ、リビングに向かってトボトボと歩く。

 あ、そういえばライム来てたな…

 見るか…あ~眠っ。

 はっ?


 え?堂川に彼女だと?

 えっ?え?え?……………………………………………

 マジか。あいつにできるなんて思わなかった。

 いやこのままだと宇川にもできるんじゃ…

 そんなことはない…はず。


「おはよお兄ちゃん。どうしたの?鳩が豆ライフルを食らったような顔をしてるよ?」


 朝から天使ちゃんこと乃愛が俺にそんなことを言ってきた。

 そんな怖い言い方しちゃダメだからね。

 お兄ちゃん乃愛をそんなこと言う子に育てた覚えはありません。


「乃愛、どこでそんな物騒な言い回しを覚えたのかな~?お兄ちゃん心配になっちゃう。」


 乃愛に動揺を見せないように、いつも通りのように振る舞う。


「そうじゃなくてなんかスマホ見て驚いてたみたいだったから気になっちゃって。」


 バレちゃうかもしれない。

 お兄ちゃんが彼女できない問題で困ってると知られてはきっと幻滅されるだろう。

 「キッも」って言われるのが目に見えている。


 ただでさえ堂川のテスト勉強の付き合いに堂川の彼女というトンデモ話に疲れ切ってるというのに、そこに追い打ちのように妹に嫌われてしまったら俺には立つ手がない。

 つまり詰みだ。


 今日はテストなのにそういう動揺のさせ方をしないでほしいものである。


 俺はバレるのが嫌だったので、いつもなら絶対に乃愛の言葉には何らかの反応をするにも関わらず、走って家を出ていった。


_____________



「おはよー天川〜?いいだろ〜?」


「朝からうぜぇ。」


「負け惜しみか?そうかそうだもんな、やっぱりなぁ〜天川って彼女いない歴=年齢の可哀想な男子だもんなぁ〜」


「堂川の裏切り者…」


「そうだぞ!僕なんて彼女も出来たことがないんだぞ!」


「ハッハッハ。これが強者の余裕というやつなのだよ。」


 ウザい。ウザすぎる。

 妙に厨二病なところも実にウザい。

 俺の感覚はきっと間違いじゃないはず!

 きっと普通である。


「うぜぇ。ペディア、この厨二病シバこうぜ。」


「天川君、それはいい考えだ!ということで堂川、言葉の拷問楽しみにしておこう?」


「お前ら!逆恨みはあんまりだぞ!!」


「テストの点数て僕に勝てたならいいよ?許してあげる」


「それほぼ無理ゲーだろ!?」


 意外と勉強したら無理はないんじゃないか?

 全国模試で上位で名前がのるくらいのやつだからむりか…

 でもテスト前に自慢したあいつが悪い。


「おはよう。みんなテスト大丈夫そう?」


「今の俺ならきっとできる!」


「堂川ウザい。」


 本当にウザい。

 そこまで自慢するものだろうか?

 こいつの場合は自慢じゃないな。

 俺を見下しているだけだろう。


「酷くない?俺の彼女に謝れよ!」


「なんでもお前の彼女に謝らないといけないんだ?」


「俺の彼女が俺のこと好きってことは、好きな人をいじめるお前らに俺の彼女の心は傷ついたってことだ。分かったか?」


「この程度の言葉でイジメとか言っても笑われるだけだと思うけれど?」


「論破してくるなんて卑怯だぞ!」


「正論言ってるだけでしょ。君がちゃんと話を聞くような人だったら僕はこんな事言わないよ?」


 途中からペディアが口論を始めた。

 俺も堂川にいろいろ言いたいけどペディアが少なくとも今は適任だろうな。

 そう思い堂川たちから距離をとる。


「中野さんごめん、朝からうるさくて。テストの前からこんな意味不明なことに巻き込まれるのは嫌でしょ?だからあいつらの代わりに俺が謝っておくよ。ごめんね。」


「うん。別に気にしてないよ。それよりも今日のテスト行けそう?」


「まあまあって感じかな。平均点は取れる。」


「むぅ…もうちょっと頑張ろうよ〜」


「俺が頑張るよりも堂川に平均点取らせるほうが優先だろ?」


「別にそんなこともないと思うよ?仮に堂川君が親友だったら別だけど…」


「まあまあ、人には優先順位の違いくらいあるだろ?そういうことだ。優先順位に普通はある程度は決まってるけどちゃんとした定義はないの。だから俺はある程度自由に物事の順序を決めることができるのである。」


「へ〜なんか難しいね。」


「絶対に聞いてないよな?まあいっか。」


 俺の話に興味ない人に興味ない話をしてもただ迷惑なだけだろうし。


「てか堂川の彼女って誰だよ。中野さんは知ってる?」


「高坂先輩のこと?」


 聞き間違えだろうか?

 今確か高坂先輩って聞こえたような…


「えっ?今なんて…」


「高坂先輩だよねって高坂あやな先輩。前に部室であった先輩じゃなかったっけ?」


「え?マジで?部長が?あの人って堂川みたいなのがタイプなの?」


 わお。意外である。

 でも人は見た目とか性格で判断しちゃいけないってよく言うし。

 なんか性格は違うような…?

 まあどうでもいいか。


「タイプはともかく付き合ったのは本当らしいよ。でもあの先輩告白全てにオッケーしてるらしいからそこまで気にする必要ないと思うけど。それよりも心配してあげたほうがいいと思うよ。あの先輩は一週間付き合って気に入らなかったら振るらしいから。」


 それは可哀想である。

 しかもテストが終わってホッとしたときに追い打ちのように振られる可能性があるのだ。

 …堂川、ご愁傷さま。


 このあとペディアに責めるのをやめるように言っておこう。

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