完全すぎた密室の殺人

北 流亡

問題編

『今日の23時、お前を殺す』


 ジェームズ・マイアングの元に殺害予告が届いたのは15時であった。

 マイアングはすぐさま、の準備をさせた。こんなこともあろうかと建てておいた、緊急避難用の4mの立方体型の部屋である。

 マイアングの邸宅の庭に設置されてるその箱の壁は、厚さ10cmの鉛で作られており、生半可な衝撃では壊せない。銃火器ですら、1発2発くらいではびくともしないだろう。


「リー、明日の7時まで、誰もここに近づけるなよ」


 マイアングは側近のリーに告げると箱の中に入った。

 箱に、扉と窓は存在しない。普段は東に面する壁が外されており、マイアングが避難する際に、重機を使って取り付けて、外から溶接するのである。こうすることによって、人はおろか、虫の1匹ですら侵入することは不可能になる。

 リーは溶接が完璧にされたことを確認すると、部下4人に箱の周囲を警備するように指示を出した。

 リー自身も箱の警備を行う。箱付近に設置した計器を随時確認して、地下からの侵入者に備える。


 警備が整った時点で、時計は22時ちょうどを指していた。

 長い夜が始まる。リーは細く息を吐いた。


 空気が張り詰めていた。

 警備は、木々の騒めきにすら身を固くしていた。誰が、どんな方法で、マイアングを狙ってくるのか、まったく持って見当もつかないのだ。マイアングはその剛腕で急速に事業を拡大した。それゆえに、恨みを持つ人間の心当たりは無数にあった。


 そんな心配をよそに、夜は何事もなく過ぎていった。人が近づいてくる気配はなく、計器にも動きはない。リーは部下にも目を配らせていたが、妙な動きをする者はいなかった。

 空が明るくなった頃、リーの懐のアラームが鳴る。7時だ。結局、犯行予告はただの狂言だったようだ。

 リーは部下たちに箱を開けるように命じる。外に出るときは、接着面を焼き切って開く。1時間ほどかけて、箱が開いた。


「マ、マイアング様!?」


 リーは驚愕した。

 マイアングが部屋の中央で仰向けに倒れていた。

 駆け寄って安否を確認する。もう既に息はなかった。リーの背中に冷たいものが走る。箱を閉めた22時から翌7時まで、この箱に近づいた者は、リーと部下4人以外、誰1人としていなかったはずだ。

 リーは警察に連絡をした。手に、じっとりと汗が浮かんでいた。


 マイアングには目立った外傷は無かった。

いったい、犯人はどうやってマイアングを殺害したのだろうか。




解決編に続く——

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る