side:②

 人類種の中でも稀有な種族である彼らは『森の守りびと』と呼ばれる存在だった。彼らの髪は雪のように真っ白で、まるで月光のように輝き。その眼は燃えるような紅色で見る者に神秘的な印象を与えた。


「お姉ちゃん」


 深夜の森。満月を眺めていた少女は妹の声に返答する。

 淡麗な容姿を持つ少女だった。

 雪のような白い長髪と闇夜に浮かぶ紅い瞳。

 姉と呼ばれた少女は妹の方を振り返る。


「どうしたのカリア?」

 

「えへー、呼んだだけー」


 そして、カリアと呼ばれた幼い少女も同じような容姿をしていた。

 ただ少し違うのは瞳の色が暗い紅だという点だろう。

 姉と呼ばれた少女を幼くした容姿で、二人が姉妹であることは見ればわかるほどだ。


「はぁ、見張りなんだから、あまり喋らないの。もし見つかったら、おしりペンペンじゃすまないんだよ」


「えー、だってー」


「だってもへったくれもありません。大事なお勤めなんだから、しっかりとやり遂げないと」


「けど、お姉ちゃんがいたら大丈夫でしょ!なんてたって、とうだいさいきょーの女だし!」


 森の守り人の瞳は【現身の魔眼】と呼ばれ、世界から力を授かることができると言われている。その力故に、彼らは人類種の中でも最強と言われ。その力故に、恐れられることになったのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



森の守り人。

彼らの住むのは人里から遠く離れた深い森の中だった。

それは種族の数が少ないからではない。それは迫害されてきたからではない。


『要石を守護する』


 たったそれだけの理由だった。

 数百代続く種族に定められた、たった一つの掟。

 古代の時代に神により与えられた『要石』は宝珠とも呼ばれ、森の命脈を支えると言われている。


「要石がなくなると森は枯れ果ててしまう。そうなると、私たちは外界に出ていくことになる。里のみんなの安全を守るためにも、このお勤めはしっかりやらないといけないの。わかった?」


「うーん。わかんない!」


 日課のお勤めを終えた二人は翌日、与えられた二人の家で勉強をしていた。

 まだ幼いカリアにお勤めのことをしっかりと理解してもらうためだ。

 もし自分になにかあったら、カリアが勤めを果たせるように、これも大事なことなのだと根気よく教える。


「そんなことよりパパとママと会いたい!もっとお姉ちゃんと遊びたい!」


 けれど、まだ五歳になったばかりの妹には理解できないことより、大好きな家族と遊ぶことの方が大切なようだった。

 それが健全なことで、家族を愛せる子になったことに喜びを覚える。

 妹だからと甘やかしすぎてはダメよ、とよく母に言われるが、可愛い妹を前にして甘やかさない姉はいないのだ。


「しょうがないな。パパとママはお仕事だから、お姉ちゃんが遊んであげる。けど、それが終わったら、ちゃんとお勉強すること!約束!」


「うん!約束!」


 そうして二人で夕暮れまで遊んでしまうことになる。

 そして、帰ってきた母に烈火のごとく怒られ、気の弱い父になだめられるまでが、姉妹にとっての日常だった。

 そんな甘い日々がその少女にとって幸せだったのだ。

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