【KAC20245】彼は彼女にあたえない
肥前ロンズ
前編
『そう言えば、なんでホワイトデーって言うんだろうね?』
放課後寄ったスタバで、ミヅキさんがふと、疑問を口にした。
『ほら、バレンタインに対応する日なのに、突然「ホワイト」って色が出てくるの、不思議だなーって』
確かに。
そう思って調べたら、ホワイトデーの起源とされる説は三つあって、その中の「マシュマロデー」が「ホワイト」の由来のようだ。
他にも、三月十四日に制定されたのは、「兵士の自由恋愛が禁止された時代、聖ウァレンティヌスによって助けられた二人が、ウァレンティヌス死後改めて永遠の愛を誓い合ったとされている日だから」、らしい。
そう言うと、『へー!』と、ミヅキさんが興味深そうに言った。
『そう言われると、何だかロマンチックだね。
こう、歴史が今と繋がっているっていうか』
それに、とミヅキさんは続けた。
『……好きな人と一緒にいることを責められるのは、嫌だしね』
皆から祝福される方がいいよ、と、ミヅキさんは言った。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
ホワイトデーのブースを見ると、何気ないあの会話を思い出す。
飴、クッキー、マシュマロ、様々なお菓子が並んでいるブースは、爽やかな白と青のリボンで彩られていた。
どれもミヅキさんが好きそうだな、と思いながら手に取っていると、
「どしたのタイヨウくん?」
後ろから、ミヅキさんに声を掛けられた。そして、「あ、かわいい!」と、パステルカラーの飴玉を手に取る。
「これ買ってくるね!」
そう言って、あっという間にレジにまで持って行ってしまった。
……ホワイトデーにプレゼントしようと悩んでいたら、先を越されてしまった。
家に帰ってコーヒーを淹れていると、ミヅキさんは飴を口の中で転がしていた。
「うーん……なんだろ、この味」
綺麗に整えられた眉をひそめて、ミヅキさんが不思議な顔をした。
「不味いですか?」
「うーん、なんというか、スッとする、っていうか……鼻と肺がこじ開けられるというか」
どんな味なんだろう。
そう思いながら、コーヒーをソファの前のテーブルに置いて座る。
すると、彼女が、タイヨウくん、とぎこちない声で声をかけた。
横を向くと、彼女の手が俺の肩の上に置かれる。
「口開けて」
どこか、緊張した声で、ミヅキさんが言った。
何も考えず、ただそうするのが自然なように、俺は口を開ける。
ゆっくりと、彼女の顔が近づいた。欠けた部分を合わせるように、ミヅキさんの口が落ちてくる。恐る恐る入ってきた舌が、甘い唾液と球体を運んできた。
ぷつん、と糸が落ちる。
「……ホントだ、ミントじゃないけど、スースーしますね」
本当に鼻と肺をこじられそうな味だ。
けれど、正直味より、彼女の反応の方が気になった。
目の前で真っ赤にした彼女は、そのまま俺の体から離れて、テーブルに突っ伏した。頭から煙が出ている。
……何となく、彼女が慌てて飴を買った理由が、わかった気がした。
ある程度溶けた飴を噛み砕いて、ミヅキさん、と声を掛ける。
ミヅキさんは、顔を真っ赤にしたまま、顔を上げた。
「口、開けて」
今度は俺がそう言うと、ミヅキさんはうるんだ大きな目を閉じて、薄くつややかな唇をうっすら開ける。
熱くなった耳に手を添えて、そのままがぶり、と噛むようにキスする。
やっと離れた時には、彼女は唾液を零しながら息切れしていた。
しばらくして、ハッと我に返ったように、
「飴、ないじゃん!」
と叫んだ。
単にキスしたかっただけです。
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