転生した悪役令嬢ですが推しが尊すぎるので領地に引きこもります~追放されついでに最推しとひっそり暮らしたいのに非攻略対象のスパダリキャラに熱烈アプローチされてます~

清見こうじ

第1話 悪役令嬢ですがなにか?

「サファエル伯爵令嬢ミレーネ! そなたを王都から追放するっ!」


 はーい、来ました!


 ここまでは、シナリオ通り!


「なっ……! わたくしが、いったい何故?!」


 婚約者目の前にして別の女性といちゃコラしてる金髪碧眼の典型的な王子様に、いきなり追放処分を突きつけられた黒髪紫眼という、わりとこちらも典型的な悪役っぽいでも絶世の美少女……つまり私は、指先を震えさせながら、問い返した。


 まあ、演技だけど。


 伯爵令嬢という爵位だけなら公爵侯爵に劣るとはいえ、宰相である筆頭侯爵を叔父に持ち、王妃様の筆頭女官を叔母に持ち、なんなら母方の祖母は国王陛下の乳母を勤めており、実母は陛下の乳兄妹、という……まあ、爵位に比べて、圧倒的バックボーンのある、実質社交界の中心的存在。


 国王陛下に実の妹のように愛されていた令嬢を妻に迎えた父のサファエル伯爵は、領地経営に専念するため普段は王都にいないけど、社交界に現れたら齢40過ぎた今でも貴婦人方の熱い視線を集める昔美青年、現イケオジ。


 類いまれな経営センスで、領地のみならず国内外の貴族王族相手に商売もして国益にも貢献しているから、下手な官僚より発言権が強いけど、表立ってその力を振りかざすことはしない。


「能ある鷹は爪を隠す」「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」ってことわざは、この世界にもあるけど、それを体現しているのがまさにお父様。


 卑屈でない程度に腰が低く、常に穏やかな笑顔。

 

 まあ、本性は極悪非道とまではいかないけど、そこそこ腹黒なタヌキ親父であることは、娘の私が知っている。


 なんで、娘の私も清楚に慎ましく、伯爵令嬢としての気品を保ちつつ、オホホウフフと当たり障りなく過ごしてきた、はず。


 ホントは領地に引きこもっていたかったけど、12歳で目の前にいる第二王子の婚約者に選ばれてしまったから、仕方なく、王都で暮らしている。

 

 義務教育とかないので、領地では家庭教師を招いて一通りの学問は修めたし。


 何たってうちの領地は王国一裕福で、農業工業各種産業の開発・研究には潤沢に資金提供しているから、国内外の逸材が自然と集まってくるし。


 王都育ちで王宮で半分育ったみたいな生粋の貴婦人のお母様のために近年は芸術方面にも力を注いだから、サファエル伯爵領は今や貴族垂涎のモードの中心地となりつつある。


 だから、王都みたいな時代遅れの、さらに古色蒼然とした王立学園での学生生活は、全く期待してなかった。


 授業の内容はとっくに習っていて、王子妃教育に必要な学問は生まれた時からお母様に学んで、王妃宮筆頭女官の叔母様お墨付き。


 事前に渡された教科書の中身を見て愕然。


 すぐに帰りたくなったわ。


 大好きなお父様お母様、そしてお兄様の名前を呼んで枕を濡らす王都での夜……だったはずなんだけど。


 王立学園の入学式で、学友達に出会うまでは。



 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る